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[論文賞] 藤原 英晃/ミシガン大学 

Hideaki Fujiwara M.D., Ph.D.

腸内細菌を介する腸管GVHDとインフラマソームと関係性の解明

Nature Communications

Microbial metabolite sensor GPR43 controls severity of experimental GVHD

2018 Sep 10;9(1):3674

Nature Microbiology

Host NLRP6 exacerbates graft-versus-host disease independent of gut microbial composition.

2019 May;4(5):800-812.


同種造血幹細胞移植は血液悪性疾患の免疫学的根治療法だが、再発及び移植片対宿主病(Graft-versus-host disease; GVHD)に伴う合併症が移植後の主死因である。GVHDは同種反応性T細胞による皮膚、肝臓、腸管を主な標的とする免疫反応であり、カルシニューリン阻害剤を用いた活性化T細胞抑制療法によるGVHD予防法が行われているが、重症GVHDの発症率は15−20%と比較的高率である。T細胞抑制を強化した場合、重症GVHD発症率は低下する反面腫瘍の再発及びウイルス/細菌感染症による死亡率上昇が起こる。一旦GVHDが発症した場合重症例ほど治療抵抗性であり、T細胞を標的としたGVHD予防・治療法は限界である。重症・治療抵抗例では必ず腸管GVHDが含まれ、移植前の放射線や大量の抗がん剤を使用した移植前治療による腸管細胞障害を介したdamage-associated molecular pattern によるdanger signalと腸管細胞ダメージに伴う腸内細菌が引き起こすpathogen-associated molecular patternによる抗原提示細胞の活性化及びそれに続くT細胞の活性化がGVHDの発症機序とされている。近年腸内細菌と種々の疾患の関連性が指摘されており、腸管GVHDの発症・重症度と腸内細菌の関連性も報告されているがその機序は不明である。このため我々はGVHDの標的最も重要な腸管細胞の活性化及び免疫細胞に対する寛容性を腸内細菌に関連する新たなGVHD予防・治療法の確立を試みた。本研究ではGVHD発症に伴い腸内細菌代謝物であるshort chain fatty acidが減少すること及びその腸管細胞における受容体であるG-protein-coupled receptor 43 (GPR43)の発現低下に伴う腸管ホメオスタシスの異常が背景にある事が判明した。GPR43は腸管細胞に高発現しており、このシグナルの低下よる細胞内Extracellular Signal-Regulated Kinase (ERK)のリン酸化低下及びインフラマソーム(特にNLRP3)の不活化に伴うIL-1/IL-18の産生低下が 腸管細胞の活性化を阻害しT細胞による細胞傷害への抵抗性を減じていることを見出だした。これまでインフラマソームを介したIL-1/IL-18は主に活性化した抗原提示細胞により産生されGVHDの重症化に寄与すると考えられていたが、腸管細胞では細胞の活性化に重要である事が本研究で明らかとなった。Butyrateやpropionateの経口投与による腸管細胞保護作用は、安価・簡便であり今後T細胞や抗原提示細胞を標的とする免疫抑制剤と異なり、免疫抑制を引き起こさないGVHD予防・治療法になりうる可能性を示した。現在ミシガン大学において同種造血幹細胞移植患者における腸内細菌代謝物を介したGVHD予防の臨床研究が行われており、その結果が期待される。



Nature Microbiology

同種造血幹細胞移植は血液悪性疾患の根治療法として確立された治療法である。しかしながら依然として移植後の再発及び移植片対宿主病(Graft-versus-host disease; GVHD)に伴う合併症が移植後の主死因である。GVHDは移植された同種反応性T細胞により惹起され、T細胞を標的とした免疫抑制療法確立されたにも関わらず、重症GVHDの発症率は15−20%と比較的高率である。T細胞抑制を強化した場合、重症GVHD発症率は低下する反面腫瘍の再発及びウイルス/細菌感染症による死亡率上昇が認められる。また、一旦GVHDが発症した場合重症例ほど治療抵抗性とである。このため、T細胞のみを標的としたGVHD予防・治療法は限界である。GVHDは主に皮膚・肝臓・腸管に発症し、重症・治療抵抗例では必ず腸管GVHDが含まれる。移植前治療による腸管細胞障害(damage-associated molecular patterns によるdanger signal)と腸管細胞障害に伴う腸内細菌によるpathogen-associated molecular pattern による抗原提示細胞の活性化及びそれに続くT細胞の活性化がGVHDの発症機序として証明されている。インフラマソームはこれらのシグナルを感知し、その活性化はIL-1やIL-18などの炎症性サイトカインの産生やプログラム細胞死など多種多様な炎症応答を惹起する。このシステムは外来成分の認識により宿主防御に働くが、内在分子の検知では全身で不適切かつ慢性的な炎症応答を誘導し多岐にわたる疾患の発症・増悪に関与する。先行研究(Fujiwara et al, Nat Commun, 2018)によりGVHDにおいてインフラマソームの一つであるNLRP3は抗原提示細胞とT細胞の活性化、腸管上皮細胞における不活化による恒常性喪失・免疫寛容性低下というGVHD悪化をもたらした。一方で、同様にIL-1/18産生に関与するインフラマソームであるNLRP6は腸内細菌叢の形成や腸管の恒常性維持に関与しており、自然免疫系細胞と腸管細胞に広く発現しその活性化は抗腸管炎症作用が認められている。抗原提示細胞を中心とした宿主はGVHDの発症進展に強く寄与しており腸管細胞はGVHDの主な標的臓器である腸管である。興味深いことに、NLRP6を介した腸炎保護作用と異なりNLRP6はGVHDを悪化させる事が本研究により明らかとなった。この作用は腸管におけるNLRP6の発現に依存しており、NLRP6のアゴニストであるタウリン(胆汁酸と結合し腸内細菌により腸管から分解吸収される)を投与によりGVHDが増悪した。今後、免疫細胞を標的としないGVHD予防・治療法として、腸管細胞を標的としたNLRP6の阻害剤の可能性を本研究で示した。


審査員コメント:


移植片対宿主病(GVHD)は幹細胞移植をする際に重篤な副作用を引き起こす原因である。これまではGVHDを引き起こす主体である移植されたT細胞の抑制に主眼が置かれていたが、T細胞の攻撃対象である宿主側の組織臓器に目を向けて防御能力を上げようという発想が新規なコンセプトである。腸管は攻撃対象の筆頭であり、腸内細菌との関連も示唆されていた。著者らは腸内細菌の出す低分子化合物である飽和脂肪酸が腸管保護に効果的であることを見出した。また研究の過程で「悪役」と考えられていたIL-1/IL-18が腸管ではむしろ防御に重要であることが示された。これを出発点にこれら分泌因子の産生に関わるタンパク質NLRP6が本来の予想とは逆にGVHDを促進することがわかった。これらの知見はGVHDを分子機構的基盤に基づいて「ただしく」治療するために必須であり、これまでの業界の常識を覆すという点でも画期的である。冒頭に述べた通り、これらの方法は移植T細胞と宿主T細胞の攻撃性自体は変化させないので、T細胞による抗がん活性は引き続き期待される。この点でも従来のT細胞の抑制を目的としたアプローチとは一線を画すものである。手塚治虫著の「火の鳥」に「人類は移植免疫を克服するという金字塔をうちたてたのであった」という一場面がでてくる。生命の進化を繰り返すという壮大なスケールで描かれたこの作品で語られる未来に、猿田博士のロジックとは全く異なるアプローチで到達できる日もそう遠くはない、そう感じさせる二報の論文であった。(三品裕司先生)

同種造血幹細胞移植に伴うGVHD発症における腸内細菌の役割を検討した一連の研究です。2報の論文で、腸内細菌代謝物による腸管上皮の研究した興味深い報告です。代謝物の種類により標的となる分子(インフラマソームタンパク)が異なり、各インフラマソームのGVHDへの影響も異なるのは面白いです。腸内細菌の制御が GVHDの新たな予防法として有効であることを示す重要な研究だと思います。(鎌田信彦先生)

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