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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]西田秀史 /University of Chicago Medicine

Hidefumi Nishida M.D.

重症心不全に対する心臓移植前における鎖骨下大動脈バルーンポンプの有用性

Outcomes of ambulatory axillary intra-aortic balloon pump as a bridge to heart transplantation

The Annals of thoracic surgery

2020年8月


本研究は重症心不全患者に対する心臓移植前に鎖骨下動脈大動脈バルーンポンプ(Axillary Intra-aortic balloon pump: IABP)を使用した患者の臨床結果を解析し報告したものである。心臓移植が必要な重症心不全患者は薬剤治療のみでは血行動態を維持することができず、機械的補助を必要とすることが多い。現在様々な機械的補助デバイスが開発されているが、シカゴ大学心臓外科ではAxillary IABPをその第一選択としている。理由は大きな手術が必要なく患者にとって低侵襲であること、またIABPを鎖骨下動脈から挿入することで患者がリハビリに参加することができることである。従来の機械的補助は鼠径部の大腿動脈から挿入することが必要であったが、これは患者がベッドに寝たきりになったまま立つことが許されないことを意味していた。心臓移植前に体力を失ってしまい、心臓移植に到達できずに不幸にも亡くなられることもあった。これを鎖骨下動脈からの挿入にすることで心臓移植前に積極的にリハビリを実施することが可能となり、体力を落とすことなく大きな手術に立ち向かうことができるようになった。当院ではこのAxillaryIABPの使用経験が豊富であり、133例のうち122例(91.7%)の患者が移植へ到達することができたことを報告した。UNOS(United Network for Organ Sharing)では2018年に臓器提供ルールを変更し、IABPを必要としている患者に対しては従来よりも優先的に心臓提供を行うこととした。これにより移植前IABP使用が増加することが予想されており、そのなかでも今回報告したAxillaryIABPは重症心不全患者に有用であるため今後多くの施設で行われることが考えられる。


審査員のコメント:

心移植待機患者の鎖骨下IABPによる循環サポートの有用性を臨床結果から実証している論文である。一施設による研究であるが、この種の臨床研究としては患者数が非常に多く、検討項目、解析法も適切である。コントロールグループが存在しないが、患者の状態によるプロトコール化により前向き研究が行いにくい臨床研究の特性を考慮し許容されると思われる。(太田先生)


重症心不全患者に対する補助人工心臓に関する臨床研究論文。著者のグループは鎖骨下動脈からアクセスするデバイスを133例に使用し、91.7%の患者が心臓移植へと繋ぐことができた事を報告している。心臓移植を待機する患者にとってこのような埋込型補助人工心臓による行動範囲拡大は重要となる。今後のさらなる他施設での検討が期待される。(北郷先生)

エピソード: 私はアメリカの医師免許を取得し、研究者としてではなく医師としてアメリカに留学しております。今回の論文は基礎研究の成果ではなく、アメリカでの臨床診療の成績をまとめた臨床研究論文になります。普段は外科医として、主に手術室で仕事をさせていただいております。日中はまとまった時間が取れないため、夜間に慣れない英語でのカルテを参照してデータを収集して書き上げました。基礎研究のような大きな成果は出すことはできませんが、普段自分が患者様に対して行っている診療の成果をまとめることができ、今後の医学に少しでも役にたてば幸いと考えております。異国で生活するだけでも大変なのに、さらに論文を書いて投稿・採択まで進めることは信じられないくらい大変です。何度もくじけそうになりましたが、とても充実した時間でした。留学して大変な思いをされることがあるかもしれませんが、異国の地に身をおいて仕事をすることは短い人生を豊かにしてくれるのではないかと考えています。

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