米国やカナダをはじめ国際的に大麻の規制が緩和される中、日本でも大麻所持による逮捕者が増加し、特に若年層の使用者の増加は大きな社会問題となっている。近年、大麻に含まれる主要な向精神物質成分であるD-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量が年々増加し、アメリカ国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse, NIDA)の報告によれば、その濃度は20年前と比べて約4倍に上昇しているとの報告もあり、若年者における認知機能発達への影響が憂慮されている。脳内には神経細胞だけでなく、非神経細胞であるグリア細胞も存在し、脳内環境や神経細胞の機能を調節している。しかし、これまで大麻の脳への影響は主に神経細胞の機能変化に焦点が当てられており、グリア細胞についてはほとんど研究が行われてこなかった。本論文では、グリア細胞の中でも脳内の主要な免疫細胞として知られるミクログリアが、脳発達と精神障害の発症に重要な時期である思春期に大麻暴露されることによって数の減少や形態変化を起こし、神経発達、社会性記憶に障害を引き起こすことを明らかにした。
この度はUJA paper award 2024を賜わり、大変光栄に存じます。米国やカナダをはじめ国際的に大麻の規制が緩和される中、日本でも大麻所持による逮捕者が増加し、特に若年層の使用者の増加は大きな社会問題となっています。脳内には神経細胞だけでなく、非神経細胞であるグリア細胞も存在し、脳内環境や神経細胞の機能を調節していることが明らかとなっていますが、これまで大麻の脳への影響は主に神経細胞の機能変化に焦点が当てられており、グリア細胞についてはほとんど研究が行われてきませんでした。本論文では、グリア細胞の中でも脳内の主要な免疫細胞として知られるミクログリアが、脳発達と精神障害の発症に重要な時期である思春期に大麻暴露されることによって数の減少や形態変化を起こし、神経発達、社会性記憶障害を引き起こすことを明らかにしています。今回の受賞を励みに、今後も大麻などの環境因子による精神疾患の病態生理機序の解明にむけて、日々研究に励みたいと考えております。改めまして、審査員並びにUJA運営委員の先生方に心より感謝申し上げます。
審査員のコメント
岩澤 絵梨 先生:
Cannabinoid receptor type 1 (Cnr1)がミクログリアにも発現し、AdolescenceのTHC暴露がミクログリアのアポプトーシスを引き起こすこと、さらに16p11.2のCopy number variantを用いて、精神疾患領域でも注目されるGene-environment interactionについて明確に示しています。丁寧な電気生理検査と行動試験を行っている美しい論文です。近年大麻の合法化が進むにつれ、recreational useが世界的に増加している中で、発達途上の脳に与える影響を描写した、社会的インパクトが非常に大きい論文であると考えます。
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