Jo Kubota2023年4月9日読了時間: 4分[論文賞]須藤 晃正/ボン大学Mitsumasa Sudo, M.D., Ph.D.[分野:ベルギードイツ]Predictive value of the Fibrosis-4 index in patients with severe aortic stenosis undergoing transcatheter aortic valve replacement (大動脈弁狭窄症における肝臓線維化マーカーの役割)Clinical Research in Cardiology, 19 July 2022概要 大動脈弁狭窄症 (AS) は、加齢に伴い大動脈弁に変性をきたす予後が不良な循環器疾患である。高齢化の進む日本において、AS患者は増加しており、診断法・治療法の確立が必要である。従来、ASの根治術は開胸による弁置換術であるが、フレイル・低栄養状態などの因子を有するため、手術耐用能がない患者がいた。開胸弁置換術の代替療法として、カテーテル治療による経皮的大動脈弁置換術 (TAVR)が開発された。TAVRは高度手術リスク患者だけでなく、低中等度手術リスクの患者においても良好な治療成績が報告されている。高齢患者は若年患者と比べ、併存疾患を有することが多いが、併存疾患を有しTAVRを施行するAS患者の予後は不明である。近年、心肝関連が注目されており、肝硬変・肝不全などの肝疾患は開胸手術において予後不良因子であることが報告されている。Fibrosis-4 indexは肝臓線維化を反映し、従来使用されている肝機能マーカーより早期に肝機能障害を検出できる。本研究は、TAVR患者の予後層別におけるFibrosis-4 indexの役割を検討した。2012年5月から2019年6月までにTAVRを施行した941名のAS患者を対象とした。ROC曲線から得られた1年死亡の予測カットオフ値1.82を基準にFibrosis-4 index高値群 (480名)、Fibrosis-4 index低値群 (461名) を比較した。Fibrosisi-4 index高値群は右心負荷所見 (肺高血圧・右室機能低下・下大静脈径拡大・中等度以上三尖弁閉鎖不全) がFibrosis-4 index低値群より多かった。1年間の累積全死亡率は有意にFibrosis-4 index高値群がFibrosis-4 index低値群に比べて高く(17.5% vs.10.2%)、多変量解析による補正後もその関係性は維持されていた(HR 1.75)。Fibrosis-4 indexは、従来の開胸手術リスクスコアー (STS score・EuroSCORE II) で低中等度リスク群と層別された患者群においても、死亡と関連していた。Fibrosis-4 indexはAS患者の右心負荷による肝機能障害を反映し、術後の予後予測評価が可能であった。さらに、従来の手術リスクスコアーでは検出できない、より早期の肝機能障害を有するAS患者を層別することが可能であった。高齢化の進む日本において併存疾患を有するAS患者のリスク層別は、生命予後の改善に寄与することができる。受賞者のコメント この度は、JUA論文賞を頂戴し、誠に光栄に思います。本論文は、留学して最初に取り組んだプロジェクトであり、このような素晴らしい賞を受賞することができたことに感謝しております。本プロジェクトは同僚および上司のサポートがあったからこそ成し遂げた功績です。この場を借りて、感謝を申し上げます。これからも初心を忘れずに、医学研究を通して、医学分野の発展に貢献をしていきたいと考えております。審査員のコメント大久保 正明 先生: 超高齢化が進む本邦において、加齢性変化による大動脈弁狭窄症はcommon diseaseの一つとなってきている。早期に右心不全兆候を検出できる、FIB-4 indexは新たなリスク層別化の因子なる可能性を有している。しかし、FIB-4 indexは年齢を用いて算出するため、高齢者においては高値となりやすい。また、加齢に伴う弁性変化により三尖弁逆流が増加することが予想され、鋭敏な右心不全兆候の検出がリスク層別化に妥当であるか疑問が残る。今後、TAVIは中等度大動脈弁狭窄症まで、適応拡大される潮流である。その際に、三尖弁逆流の少ない高齢者以外において、FIB-4 indexによる評価法の可能性を感じさせる将来性のある論文である。 エピソード 本研究は、私が留学して最初に取り組んだプロジェクトになります。そのため、思い入れのあるプロジェクトです。肝不全が心臓疾患の開胸手術における予後不良因子であることが知られておりますが、そりよりも早い段階の肝機能障害については明らかにされていなかったため、そこに注目し、プロジェクトを開始しました。日本では経験したことのない数のデーター集積に当初は困惑しましたが、幸運なことに同僚、上司のサポートもあり、約1年半かけて本プロジェクトを完遂することができました。本プロジェクトが終わった後に感じたことは、心がくじけそうになることもありましたが、初心を忘れずに頑張ることが大事だと改めて思いました。この場を借りて、同僚、上司に感謝を申し上げます。1)研究者を目指したきっかけ 自分が感じた疑問を解明したいと思ったため2)現在の専門分野に進んだ理由 興味を抱いたため3)この研究の将来性 従来の手術リスクスコアーでは評価できない、より早期の肝機能障害を評価することで、更なる患者のリスク層別が可能となる。
Mitsumasa Sudo, M.D., Ph.D.[分野:ベルギードイツ]Predictive value of the Fibrosis-4 index in patients with severe aortic stenosis undergoing transcatheter aortic valve replacement (大動脈弁狭窄症における肝臓線維化マーカーの役割)Clinical Research in Cardiology, 19 July 2022概要 大動脈弁狭窄症 (AS) は、加齢に伴い大動脈弁に変性をきたす予後が不良な循環器疾患である。高齢化の進む日本において、AS患者は増加しており、診断法・治療法の確立が必要である。従来、ASの根治術は開胸による弁置換術であるが、フレイル・低栄養状態などの因子を有するため、手術耐用能がない患者がいた。開胸弁置換術の代替療法として、カテーテル治療による経皮的大動脈弁置換術 (TAVR)が開発された。TAVRは高度手術リスク患者だけでなく、低中等度手術リスクの患者においても良好な治療成績が報告されている。高齢患者は若年患者と比べ、併存疾患を有することが多いが、併存疾患を有しTAVRを施行するAS患者の予後は不明である。近年、心肝関連が注目されており、肝硬変・肝不全などの肝疾患は開胸手術において予後不良因子であることが報告されている。Fibrosis-4 indexは肝臓線維化を反映し、従来使用されている肝機能マーカーより早期に肝機能障害を検出できる。本研究は、TAVR患者の予後層別におけるFibrosis-4 indexの役割を検討した。2012年5月から2019年6月までにTAVRを施行した941名のAS患者を対象とした。ROC曲線から得られた1年死亡の予測カットオフ値1.82を基準にFibrosis-4 index高値群 (480名)、Fibrosis-4 index低値群 (461名) を比較した。Fibrosisi-4 index高値群は右心負荷所見 (肺高血圧・右室機能低下・下大静脈径拡大・中等度以上三尖弁閉鎖不全) がFibrosis-4 index低値群より多かった。1年間の累積全死亡率は有意にFibrosis-4 index高値群がFibrosis-4 index低値群に比べて高く(17.5% vs.10.2%)、多変量解析による補正後もその関係性は維持されていた(HR 1.75)。Fibrosis-4 indexは、従来の開胸手術リスクスコアー (STS score・EuroSCORE II) で低中等度リスク群と層別された患者群においても、死亡と関連していた。Fibrosis-4 indexはAS患者の右心負荷による肝機能障害を反映し、術後の予後予測評価が可能であった。さらに、従来の手術リスクスコアーでは検出できない、より早期の肝機能障害を有するAS患者を層別することが可能であった。高齢化の進む日本において併存疾患を有するAS患者のリスク層別は、生命予後の改善に寄与することができる。受賞者のコメント この度は、JUA論文賞を頂戴し、誠に光栄に思います。本論文は、留学して最初に取り組んだプロジェクトであり、このような素晴らしい賞を受賞することができたことに感謝しております。本プロジェクトは同僚および上司のサポートがあったからこそ成し遂げた功績です。この場を借りて、感謝を申し上げます。これからも初心を忘れずに、医学研究を通して、医学分野の発展に貢献をしていきたいと考えております。審査員のコメント大久保 正明 先生: 超高齢化が進む本邦において、加齢性変化による大動脈弁狭窄症はcommon diseaseの一つとなってきている。早期に右心不全兆候を検出できる、FIB-4 indexは新たなリスク層別化の因子なる可能性を有している。しかし、FIB-4 indexは年齢を用いて算出するため、高齢者においては高値となりやすい。また、加齢に伴う弁性変化により三尖弁逆流が増加することが予想され、鋭敏な右心不全兆候の検出がリスク層別化に妥当であるか疑問が残る。今後、TAVIは中等度大動脈弁狭窄症まで、適応拡大される潮流である。その際に、三尖弁逆流の少ない高齢者以外において、FIB-4 indexによる評価法の可能性を感じさせる将来性のある論文である。 エピソード 本研究は、私が留学して最初に取り組んだプロジェクトになります。そのため、思い入れのあるプロジェクトです。肝不全が心臓疾患の開胸手術における予後不良因子であることが知られておりますが、そりよりも早い段階の肝機能障害については明らかにされていなかったため、そこに注目し、プロジェクトを開始しました。日本では経験したことのない数のデーター集積に当初は困惑しましたが、幸運なことに同僚、上司のサポートもあり、約1年半かけて本プロジェクトを完遂することができました。本プロジェクトが終わった後に感じたことは、心がくじけそうになることもありましたが、初心を忘れずに頑張ることが大事だと改めて思いました。この場を借りて、同僚、上司に感謝を申し上げます。1)研究者を目指したきっかけ 自分が感じた疑問を解明したいと思ったため2)現在の専門分野に進んだ理由 興味を抱いたため3)この研究の将来性 従来の手術リスクスコアーでは評価できない、より早期の肝機能障害を評価することで、更なる患者のリスク層別が可能となる。
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