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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]飯塚 崇/ノースウエスタン大学

Yoshinori Miyazaki, M.D., Ph.D.

[分野:イリノイ]
(Mono-(2-ethyl-5-hydroxyhexyl) phthalateはトリプトファン−キヌレニン−AHR経路の活性化を介してヒト子宮筋腫細胞の生存を促進する)
Proceedings of the National Academy of Sciences, 14 November 2022

概要
子宮筋腫は女性に最も多い良性腫瘍であり、生殖年齢女性の15%~30%において日常生活に影響する深刻な症状をもたらす。疫学研究により、子宮筋腫と内分泌撹乱化学物質であるフタル酸エステル類、特にdi-(2-ethylhexyl) phthalate(DEHP)への曝露との関連性が示されているが、その病態生理は不明であった。我々はDEHPの主要代謝物であるmono-(2-ethyl-5-hydroxyhexyl) phthalate(MEHHP)の尿中レベルと子宮筋腫の診断との間に最も強い関連を見出した。尿検体から検出される濃度に相当する様々なフタル酸エステル代謝物の混合物で子宮筋腫初代培養細胞を処理すると、細胞生存率が上昇し、アポトーシスが減少した。MEHHPは細胞生存率とアポトーシスの両方に対して最も強い影響を与えた。MEHHPは細胞のトリプトファンおよびaryl hydrocarbon receptor(AHR)の内因性リガンドであるキヌレニンレベルを有意に上昇させた。またトリプトファントランスポーターであるSLC7A5およびSLC7A8、ならびにトリプトファンからキヌレニンへの変換を触媒する主要酵素であるtryptophan 2,3-dioxygenase (TDO2) の発現を誘導した。MEHHPはAHRの核局在を誘導し、AHRの主要な標的遺伝子であるCYP1A1とCYP1B1の発現を上昇させた。SLC7A5/SLC7A8、TDO2、AHRのノックダウンまたは薬物阻害はMEHHPが子宮筋腫細胞の生存にもたらす作用を消失させた。これらの知見は、MEHHPがトリプトファン・キヌレニン-AHR経路を活性化することによって子宮筋腫細胞の生存を促進することを示すものである。本研究は、MEHHPへの曝露が子宮筋腫の増殖の高リスク因子であることを明らかにし、環境におけるフタル酸への曝露が子宮筋腫の病態に影響を与えるメカニズムを解明するとともに、新規の創薬ターゲットの開発につながる可能性があることを示唆するものである。

受賞者のコメント
これまで諸先輩方が受賞されてきたUJA論文賞を受賞することができ、本当に光栄に思っております。ラボメンバー、共同研究者の方々に心より感謝申し上げます。

審査員のコメント
小島敬史 先生:
ヒト由来の細胞や尿サンプルを用いて、内分泌かく乱物質が子宮筋腫の発生に関連していることを示した価値の高い論文です。プラスチックの加工に用いられるフタル酸エステル(DEHP)の代謝産物であるMEHHPに注目し、この物質が平滑筋腫細胞のアポトーシスに影響することを示しました。子宮筋腫という労働生産年齢の女性が抱える疾患について、ヒトのサンプルを用い、基礎医学的バックグラウンドをきちんと確認しながら書かれた価値の高い論文と感じました。創薬へのつながりももちろん、社会への啓蒙で子宮摘出や周産期関連死のリスクを減らせる事ができるかもしれない、という点も素晴らしいです。

牛島健太郎 先生:
本研究では、内分泌かく乱物質による健康被害(子宮筋腫)を明らかにするため、まず有力な尿中バイオマーカー(MEHHP)を見出している。その関連性を論述するだけに留まらず、MEHHPの生理的機能とそのメカニズムを解明し、加えて分子生物学的処置によって責任パスウェイも明らかにしている。病態の分子メカニズムに迫った研究成果であり、創薬ターゲットとしても期待される。

エピソード
コロナ禍や円安などの影響で1年9ヶ月という短い留学生活でしたが、運良くテーマに恵まれて実験を進めることができました。今回の実験に使用したのが患者さんから摘出した子宮筋腫の初代培養細胞であり個人差が大きいこと、環境ホルモンの一種であるフタル酸エステルを使用したので作用がわずかであったので、実験系が安定するまでに苦労しました。

1)研究者を目指したきっかけ
医療における治療は全てが医学という学問を元にしていますので、普段医師として実践している医療が元となった学問を学ぶことで視野を広げられると思いました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
尊敬できる先生がいたためです。

3)この研究の将来性
女性の健康にとって月経の異常は大きな問題です。その月経の異常の原因となる子宮筋腫がなぜ発生して、どのように大きくなるのか、そのリスクについて今後明らかになるかもしれません。
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