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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[論文賞]飯島 弘貴/ハーバード大学医学部

Hirotaka Iijima, PhD, PT
[分野:整形外科分野]
加齢に伴い硬くなった関節軟骨が長寿タンパク質を抑制
Nature Communications, 01-January-2023

概要
老化は病である ― 2019年、世界保健機関は国際疾病分類ICD-11に『老化関連』という項目を加えました。これによって、老化は予防や治療の対象との認識が広まりつつあり、老化研究の市場規模は2030年までに急拡大するとの試算が出ています。このような背景の下、加齢が主な要因となって生じる加齢性疾患の病態解明や治療法開発が期待されています。我々は、当該研究領域を発展させるべく、未だ根治治療が存在しない関節軟骨疾患である変形性関節症を対象に基礎医学研究を進めてきました。
加齢による関節軟骨の特徴的変化は、細胞外マトリックスの構成成分や構造の変化です。細胞外マトリックスのリモデリングにより、コラーゲン線維の増大やコラーゲン線維同士の架橋形成が生じることで、組織の硬さが加齢依存的に増大します。実際に、原子間力顕微鏡を用いた実験によって、老齢マウスの関節軟骨は若年マウスよりも3-3.5倍の弾性を有することが分かっています。この加齢に伴う組織の物理特性変化は、異常な機械的シグナル伝達を介して組織細胞の老化や機能低下を引き起こすとされますが、その背景にある分子メカニズムは明らかにされていませんでした。
そこで我々は、長寿タンパクα-Klothoに着目し、加齢によって発現が減少するα-Klothoの関節軟骨における機能解析を進めてきました。具体的には、関軟軟骨の質量分析やバイオインフォマティクス、遺伝子工学的手法を駆使し、加齢に伴うα-Klothoの発現低下が関節軟骨変性に寄与することを明らかにしました。さらに、この加齢に伴うα-Klothoの発現低下は、細胞を取り巻く細胞外基質の物理特性の変化によってDNAメチル基転移酵素が多く動員され、α-Klothoプロモーターメチル化が促進された結果であることも明らかにしました。これら一連の研究成果は、細胞外基質の物理特性やその機械的シグナル伝達、α-Klothoが軟骨治療の新規治療標的となる可能性を示すものです。

受賞者のコメント
この度は論文賞に選出していただき、大変光栄に存じます。指導していただいた留学先のFabrisia Ambrosio先生をはじめ、議論しながら実験を根気強くともに進めてくれた研究室の皆様、異国での生活をサポートしていただいた家族や親戚一同に心より御礼申し上げます。また、このような素晴らしい賞を企画、運営してくださったUJAの先生方にも深く感謝申し上げます。

審査員のコメント
丸山 顕潤 先生:
この研究は加齢という今まであまり検討されていない軸で変形性軟骨症のメカニズムの解明を試みた、コンセプト的に非常に新しい研究である。質量分析、バイオインフォマティクス、マウスジェネティックなど多種多様な実験手法により仮説の検証を丁寧に行っている。結論も論理的に導かれており、今後の発展性も期待が大きい。

大鶴 聰 先生:
変形性関節症はさまざまな研究がされてきたが、いまだに効果的な治療法が確立しておらず、最終的には人工関節置換術に頼らざる得ない現状である。本研究はα-Klothoに着目し、関節軟骨におけるその働きの老化による変化を明らかにした意義深い研究である。α-Klothoをターゲットとした新たな治療法の開発が期待される。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
医療従事者として医療機関で勤務していた際に、研究なしでは良質な医療の提供が出来ないことを実感したことがきっかけです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
医療機関にて関節の病気を患った方を多く担当していた経験が、この分野での研究生活を導いてくれました。
3)この研究の将来性
高齢者の約半数はこの変形性関節症を患っていますが、未だ有効な治療法はありません。変形性関節症の病態が基礎研究を通じて明らかになることで、有効な治療法開発につながる可能性があります。
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