[論文賞]髙濵充寛/大阪大学
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Michihiro Takahama, Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
論文リンク
論文タイトル
A pairwise cytokine code explains the organism-wide response to sepsis
掲載雑誌名
Nature Immunology
論文内容
敗血症は、感染に対する制御不能な宿主反応に起因して、生命が脅かされる多臓器障害である。日本や欧米諸国においても敗血症による死亡率は依然として高く、新規治療法の開発が求められている。しかしながら、敗血症が全身の臓器に及ぼす分子および細胞レベルの影響については不明な点が多く残されている。本研究では、全身の臓器における遺伝子発現の動態変化を詳細に解析することで、敗血症の病態形成を包括的に解明した。さらに、敗血症における臓器状態を制御する分子を特定するために、6種類のサイトカインおよび15種類のサイトカインペアの静脈内投与が各臓器の遺伝子発現に与える影響を解析し、その結果を敗血症による影響と比較した。その結果、TNFとIL-18、IFN-γまたはIL-1βのサイトカインペアの作用だけで、各臓器における敗血症の影響を再現できることを見出した。加えて、敗血症およびこれらのサイトカインペアの細胞レベルでの作用を明らかにするため、9つの臓器にわたる195種類の細胞種の量的変化を計算モデルにより推定し、その結果を成体マウスの全身凍結切片を用いた空間トランスクリプトーム解析で実証した。本研究は、敗血症が全身の臓器に及ぼす影響を解明するための基盤的知見を提供し、標的治療薬が未だ存在しない敗血症における治療法の革新に寄与することが期待される。
受賞者のコメント
この度は論文賞を賜り、大変光栄に感じております。これまでご指導いただいた先生方、共同研究者の方々、論文賞を運営・審査していただいた先生方に心より感謝を申し上げます。今回の受賞を励みに、より一層精進していきたいと思います。
審査員コメント
小野寺 淳 先生
敗血症は歴史的に見ても、長期にわたり人類の生命を脅かす疾患として医学上の大きな問題となってきました。しかしながら病態の分子基盤に関しては未だ不明な点が多く、医療が発達した現代日本においても年間約10万人が敗血症で亡くなっていると推定されています。本研究では、マルチオミックス特にシングルセル解析を非常に巧みに用いて、敗血症の個体に及ぼす影響について網羅的に解析しています。空間トランスクリプトームについては、普通は腫瘍など特定の臓器に着目して解析すると考えがちですが、免疫反応のsystemicな影響を臓器網羅的に調べるという目的に使用したアイデアはすごいと思いました。サイトカインの組み合わせ方を検討するなど、臨床応用に向けた検討も取り入れており、非常に完成度の高い論文として評価させて頂きました。
溜 雅人 先生
敗血症は全身の組織や臓器に障害を与え、生命を脅かす可能性がある非常に重篤な症状を引き起こしますが、病態形成が複雑かつ不明な点が多いことから有効な治療法が乏しいことが臨床的に大きな問題点となっています。本研究は、敗血症のマウスモデルを用いて、全身の複数の臓器に及ぼす影響を遺伝子レベルから細胞レベル、さらには臓器の生理機能に至るまで、複数の階層で包括的かつ網羅的に解析を行い、これまで未解明だった臓器毎の特徴を明らかにしています。また、敗血症の成立に関与するとされる複数のサイトカインを単独または組み合わせて投与もしくは阻害する実験を通して、TNFとIL-18、IFN-γ、IL-1βといったサイトカインペアが敗血症の主要な原因であることを特定しました。この結果は、サイトカインペアの制御が敗血症に対する新しい治療法のターゲットとして有望であることを示唆しており、臨床的意義が非常に高い研究です。
畑 匡侑 先生
本論文は、敗血症の全身的な影響を包括的に調査し、遺伝子発現から細胞、組織レベルまでの詳細な時空間的マッピングを行っている点が革新的であり、TNFと他のサイトカイン(IL-18、IFN-γ、IL-1β)のペアワイズ効果が敗血症の影響を模倣できるという発見は、複雑な炎症反応を単純化して理解する新しい視点となりうる。更に、敗血症の病態生理学的理解を深め、将来の標的治療法開発への道を開く可能性があり、臨床的にも重要な意義を持っている。
受賞者エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
研究で求められる、インパクトがありかつ実現可能性もある課題を自分で探す過程が楽しかったからです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
免疫を専門にしたきっかけは、家族がアトピー性皮膚炎を患っていたことです。免疫は様々な生理機能にも関与しているため、現在も興味を持って研究を行っています。
3)この研究の将来性
敗血症の新規治療法の開発や、バイオマーカーの同定につながる可能性があります。また、サイトカインは様々な疾患の発症に関わっているため、敗血症以外の疾患に関わる研究にも役立つ可能性があります。
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