top of page

[論文賞]黒沼圭一郎/独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター

Keiichiro Kuronuma, M.D., Ph. D.

[分野:南カリフォルニア]


論文リンク



論文タイトル

Long-term Survival Benefit From Revascularization Compared With Medical Therapy in Patients With or Without Diabetes Undergoing Myocardial Perfusion Single Photon Emission Computed Tomography


掲載雑誌名

Diabetes Care


論文内容

慢性冠動脈疾患患者に対して、経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術などの血行再建群と至適薬物治療 (OMT) 群を比較した研究では、虚血心筋量が中等度 (10%以上) の場合、血行再建群で死亡率が低いことが報告されている。しかし、その後の前向きランダム化比較試験であるISCHEMIA試験では中等度以上の虚血を認めても、血行再建群とOMT群で死亡率に差は示されなかった。

  糖尿病患者は非糖尿病患者と比較し、同レベルの虚血量でも心事故発生率が高いことが報告されている。本研究では血行再建によって予後改善が得られる虚血心筋量の閾値が糖尿病の有無で変化するのかを調査した。1998年から2017年までにCedars-Sinai Medical Centerで心筋血流SPECTを施行した約4万人、平均フォローアップ期間約10年のレジストリーデータを用いて、糖尿病の有無別に虚血心筋量ごとの血行再建と全死亡の関連を検討した。結果、本研究では過去の後ろ向き研究と同様に、虚血量が多い患者では血行再建群で予後改善が期待できる結果であった。さらに糖尿病患者では中等度以上の虚血 (10%以上) 、非糖尿病患者では高度の虚血 (15%以上) を認めた場合に血行再建群で予後改善が期待できた。

  後ろ向き研究では一貫して虚血の多い患者群で血行再建術による予後改善を認めるにもかかわらず、前向き試験であるISCHEMIA試験では同様の結果が得られていない。理由として、ISCHEMIA試験では高リスク患者は潜在的に除外されていた可能性 (選択バイアス) や、薬物治療などが発達した現代において血行再建にて予後改善が得られる閾値は、特に低リスク群 (非糖尿病) で10%よりも高い可能性などが考えられた。実臨床の現場において、本当のハイリスク患者はランダム化比較試験にエントリーされずに血行再建術が行われている可能性があり、こういった研究に対するランダム化比較試験は現実的には難しいのかもしれない。近年ではOMTの重要性が高まってきており、特に虚血量が多くない患者に対して、OMTが血行再建群よりも予後良好である可能性が示唆されている。慢性冠動脈疾患患者に対して、画一的に血行再建を優先するのではなく、心臓核医学検査で虚血心筋量の程度を評価し、患者の背景リスクを踏まえて治療方針を検討することが重要と考えられた。



受賞者のコメント

この度は栄誉ある賞を授与していただき、誠にありがとうございます。コロナ禍での留学となりましたが、いくつかの論文を作成することができ、今回このように評価していただけたことを大変嬉しく思います。留学中、常に気にかけてくださったCedars-Sinai Medical CenterのDaniel Berman先生をはじめ、留学の機会を与えてくださった日本大学の松本直也先生、奥村恭男先生など多くの方々にお世話になりました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。この賞を励みに、今後も臨床と研究に精進してまいります。

審査員コメント


金子 直樹先生

申請者らは慢性冠動脈疾患でSPECT-MPI検査を受けた4万人以上かつ10年以上の追跡された大規模コホートを対象に、血行再建術による長期生存効果が糖尿病患者と非糖尿病患者の虚血のしきい値によってどのように影響されるか検討した。Propensityスコアマッチングを含む複数の統計手法を用いて虚血量と治療方針との関連を解析し、糖尿病患者ではより低い8.6%以上という虚血量で早期の血行再建にメリットがある一方、非糖尿病患者では12.1%以上の虚血量を超えた場合にメリットが得られることを示した。この大規模かつ長期の追跡の解析は、糖尿病患者であれば血行再建によるメリットが得られやすいという極めて重要な知見を提供しており、今後の臨床研究に大きな影響を及ぼす可能性がある。



1)研究者を目指したきっかけ

循環器内科に入局後、大学院に入ってから研究を始めました。当初は研究について何も分かりませんでしたが、少しずつ臨床研究の面白さを実感するようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

心筋梗塞に対するカテーテル治療で患者さんが劇的に改善する点に魅力を感じ、内科の中でも循環器内科を選択しました。非侵襲的画像検査で病態を評価することで正確な診断とリスク層別化を行い、一人ひとりの患者さんに最適な治療を提供し、予後の改善につなげられることに関心を持ち、画像診断の分野に魅力を感じるようになりました。


3)この研究の将来性

安定した狭心症に対してカテーテル治療が予後改善につながるかどうかは、依然として議論の分かれるところです。負荷画像検査を用いた病態評価は、最適な治療法の選択に寄与すると考えています。

日本の医療経済は逼迫していく中、外来診療で実施できる非侵襲的画像検査の重要性はますます高まっています。非侵襲的画像検査のカバーする範囲は広く、人工知能との相性も良いので、侵襲的検査を最小限に抑えつつ、より質の高い診断と治療を提供できる分野として、今後もさらなる発展が期待されます。




Comentarios


© UJA & Cheiron Initiative

  • UJA Facebook
  • UJA Twitter
bottom of page