top of page

[論文賞]龍見史恵/ボストン大学

Chikae Tatsumi, Ph.D.

[分野:工学]


論文リンク


論文タイトル

Urbanization and edge effects interact to drive mutualism breakdown and the rise of unstable pathogenic communities in forest soil


掲載雑誌名

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America


論文内容

本研究では、近年急速に拡大する都市化およびそれに伴う森林の分断化が、土壌微生物に与える影響を明らかにした。都市化によって植物の資源獲得や健康を支える菌根菌と植物との共生関係が崩壊し、道路に面する林縁部では林内部に比べて病原菌、および温室効果ガスを排出しうる微生物が増加し、都市化により地球温暖化の加速が進み、植物・動物の健康に害がおよぶ可能性が示唆された。2050年までに世界における都市面積は最大で約6倍に拡大すると予測されており、都市化による気候変動や病原菌動態への影響評価は、今後の都市管理を考えるうえで非常に重要な課題であり、本テーマに対して土壌微生物の機能解析によって新たな情報を提供した点が独創的である。


受賞者のコメント


この度は素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます!共に研究を進めてくださった共同研究者の方々、そして研究を支えてくださったすべての方々のおかげです、心より感謝申し上げます。また、お忙しい中、賞の企画運営および審査を行ってくださった方々にも深く感謝申し上げます。

審査員コメント


湯川 将之先生

都市化により共生真菌の減少が確認され、植物の健康や成長に悪影響を及ぼすことが明らかにされており、非常に興味深く感じました。また、病原性微生物の割合が増加し、土壌の生態的バランスが崩れることを示している点も印象的でした。それとともに、森林エッジでは微生物の多様性と機能が森林内部に比べて大幅に変化し、植物の根と微生物間の相互作用が損なわれることが示されています。こうした内容から、都市化が微生物間の相互作用を破壊するメカニズムが明らかにされており、都市部、農村部、森林のバランスを考える戦略にとって非常に重要な研究であると思います。さらに、環境的分子によってどのように違いが生み出されているのかについて、読んでいて想像を掻き立てられる部分があり、非常に刺激を受けました。


矢部 貴大先生

都市化によって生じる森林の分断が土壌微生物に及ぼす影響を、実データを用いた統計解析やネットワーク分析によって明らかにした研究論文です。都市化の進行にともない、植物と菌根菌との共生関係(mutualism)が崩壊し、病原菌や有害な微生物の増加が懸念されることを示唆する結果が得られています。社会的インパクトも大きく期待できる非常に興味深い研究であり、私自身、都市と人のネットワークに関する研究を行っていることもあって、特に興味深く拝読しました。


受賞者エピソード

1)研究者を目指したきっかけ

高校生の頃から憧れはありましたが、本格的に目指し始めたのは、学部4年生になり、研究活動が非常に面白く意義深かったこと、また、真理の追求という研究活動の性質や裁量労働制という働き方が自分に合っていると感じたことが主なきっかけです。修士課程では、環境分野のコンサルタントへの就職とかなり迷ったのですが、例えばとある技術に対して、自分は応用を進めるよりも、より詳細なメカニズムの理解や検証を重ねるような貢献をしたいと思い、研究者への道を選びました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

もともとは荒廃地の植林に最も興味がありましたが、植物の成長や健康を考えるうちに、土壌が非常に重要であることに気づきました。さらに、土壌内で植物に養分を供給する有益な働きをしつつ、病気を引き起こして植物の健康を左右することがあり、また、土壌からの温室効果ガスの排出や養分の流亡を制御し、気候変動や環境汚染に寄与するなど、小さな存在ながら生態系に大きな影響を与える土壌微生物の重要性にも気づきました。これらの微生物の動態や活動については未解明なことが多く、知的好奇心も強く刺激されました。


3)この研究の将来性

都市化は世界各地で急速に進んでおり、それが土壌をどのように作り変えるのかを詳細に理解することは、適切な土地管理方法を設定するために重要です。例えば、今回の研究では、都市化に伴って植物にとって重要な共生菌が減少し、代わりに病原菌や温室効果ガスの排出ポテンシャルが高い微生物が増加するなど、多くの負の影響が明らかになりました。このような負の変化を最小限に抑えるには、今後どのような対策が必要かを考えることができます。この研究を発展させ、私たちのグループでは現在、都市緑地の樹木の密度や多様性を高めたり、森林から抽出した微生物を接種させることで、その負の影響を抑える方法を検証しており、都市管理を行う行政部門などへの情報提供や技術提供を目指しています。



Comments


© UJA & Cheiron Initiative

  • UJA Facebook
  • UJA Twitter
bottom of page