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2021年3月30日3 分

[特別賞] 今村輝彦 /University of Chicago Medical Center

Teruhiko Imamura MD PhD

補助人工心臓管理中の血行動態最適化の意義

Optimal hemodynamics during left ventricular assist device support are associated with reduced hemocompatibility‐related adverse events

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30592363/

European Journal of Heart Failure

2019年5月

心不全は人類の主要な死因の一つであり、我が国においても心不全パンデミックと呼ばれるがごとく、性急な対策が急務とされている。医学の発展によって様々な薬物治療が臨床応用されているが、あらゆる薬物治療に抵抗性を示す重症心不全の数も激増している。

そのような重症心不全における破綻した血行動態を劇的に改善させる治療として補助人工心臓が用いられる。欧米では20年ほど前から、我が国でも10年ほど前から、ポンプが外付けではなく体内に植え込まれるタイプのデバイスが保険収載され、近年はさらに小型化され、耐久性に優れたデバイスが開発されている。

しかしながら、補助人工心臓治療が普及するにつれ、この治療に特有の様々な合併症が乗じることが明らかとなった。私はデバイスの回転数を調節・最適化することでこれらの合併症を予防できるのではないかと考えた。回転数を最適化することは薬物治療における投与量の調整に似ている。回転数を変更することで血行動態が大きく変動することが観察され、これを参考にして回転数を最適化することで、消化管出血、脳卒中、デバイス血栓症などデバイスに関連する様々な合併症が予防できる可能性が示された。本研究は後ろ向きであったが、この後、前向き臨床試験によってもこの方法論の妥当性を証明した。

受賞者のコメント:

米国で行った臨床研究の成果が認められ、苦労が報われました。

審査員のコメント:

補助人工心臓の副作用を回転数の最適化というシンプルな方法で解決した素晴らしい論文だと思います。人類の健康を改善できる直接の可能性がある研究です。(石原先生)

薬物治療においてだけでなく、医療機器においても患者ごとの個別化設定が重要であることが示されています。今後は、開発と改良が進んだ新規の補助人工心臓治療デバイスにおいても、この個別化設定が有用であるのかが興味のあるところです。(牛島先生)


 
エピソード:
 
米国で臨床研究を行うために渡米しましたが、臨床データを扱うために蜜なコミュニケーションが必要であり、苦労しました。米国の臨床医は統計が苦手な方が多いようであり、日本においてはそこまで突出している訳でもない私の統計知識が重宝され、拙い私の英語にも皆、耳を傾けてくれました。また、日本と米国では臨床の細かい部分で様々な違いがあり、逆にそのような少々風変りな(?)私の意見が米国の臨床医にとっては興味深かったようで、様々な臨床研究を行うきっかけに繋がりました。
 

 

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