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[奨励賞] 住田 智一 / Yale School of Medicine

Tomokazu Sumida, M.D., Ph.D.

免疫アレルギー分野

 

論文リンク

 

論文タイトル

An Autoimmune Transcriptional Circuit Drives FOXP3+ Regulatory T cell Dysfunction

 

掲載雑誌名

Science Translational medicine

 

論文内容

本研究では、自己免疫疾患、特に多発性硬化症(MS)におけるFOXP3+制御性T細胞(Tregs)の機能不全の分子メカニズムを解明しました。MS患者の末梢血から単離したTregsの網羅的遺伝子発現解析により、PRDM1 中でも霊長類特異的な短いアイソフォームであるPRDM1-S(Blimp-1-S)のMS のTregにおける過剰発現と、それに伴うSGK1の誘導がFOXP3の安定性を低下させ、Tregsの抑制機能が損失につながることを発見しました。このPRDM1-S/SGK1のメカニズムは、全身性エリテマトーデス(SLE)やANCA関連血管炎を含む他の自己免疫疾患でも共通して観察されることが明らかになりました。

遺伝子発現解析と共に行なった網羅的エピゲノム解析では、MS患者由来の機能不全Tregsにおいて、AP-1およびIRF転写因子がPRDM1-Sの発現制御に関与することが示されました。CRISPRaおよびCRISPRiを用いた解析では、PRDM1-Sを特異的に制御するエンハンサーが同定され、この領域にAP-1およびIRFの結合モチーフが存在することが確認されました。また、Treg機能不全に寄与する環境因子の一つとして、高食塩環境がPRDM1-Sの発現を増加させ、Tregs機能不全の進展に寄与することが示唆されました。このメカニズムによりSGK1発現誘導、FOXO1の抑制を通じてTregsの抑制機能がさらに低下することが明らかになりました。このTregs機能不全の分子基盤は他の自己免疫疾患におけるTregsの抑制能低下とも関連していることが示されました。これらの結果は、霊長類特異的なPRDM1-Sの発現誘導とAP-1/IRFを中心としたエピジェネティック制御の変化がTregの機能不全の背景に存在する新しい転写調節回路モデルを提案し、自己免疫疾患の病態形成におけるヒト特有のメカニズムの重要性を浮き彫りにしました。

本研究は、PRDM1-S/SGK1/Foxo軸を標的としたTregsの機能不全の回復を目的とした治療の可能性を示し、自己免疫疾患治療に新たな方向性を示唆しています。


受賞コメント

この様な名誉な賞を頂き、ありがとうございます!このたびの受賞をとても嬉しく思います。この研究は私一人で成し遂げたものではなく、日々サポートしてくれるチームメンバーや、実験を支えてくださったコラボレーターのおかげであり、その点でも感謝の気持ちでいっぱいです。



審査員コメント

小野寺 淳 先生

自己免疫疾患の多くは未だ有効な根治療法がなく、対症療法を中心とした治療が行なわれています。詳細な病態を解明し、治療法を確立することは喫緊の課題となっています。本研究で自己免疫疾患の中でMSに着目して、一連の緻密な実験により、TregでのPRDM1-S/SGK1/Foxo axisを炙り出した研究内容は称賛に値します。また、高食塩環境などの食習慣に着目した点も非常に興味深く、研究のインパクトを引き上げているという印象を受けました。個人的な興味としては、shortとlong isoformをPacBioシークエンスなどで詳細に解析してみたら面白いと思いました。

 

前田 啓子 先生

多発性硬化症のTregsにおける包括的な転写物およびエピジェネティックプロファイルを行い、PRDM-1を同定し、PRDM-1/AP-1を介した機能不全Tregsの制御機構を明らかにしています。ヒトの検体の包括的解析から同定した新たな分子と機序であり、新規性が高いと考えます。多発性硬化症以外の自己免疫疾患における関与も示唆されており、共通した機序につながる大きな発見であると考えます。

 

清家 圭介 先生

自己免疫性疾患は、若年でも生じる疾患であり、発症メカニズムの一つとしてT細胞による免疫寛容の破綻が原因となる。T細胞の中で、制御性T細胞は免疫ホメオスターシスの維持と自己免疫を防ぐ機能を有している。自己免疫性疾患では、制御性T細胞の機能不全が病態に関連していることが知られている。本論文は、多発性硬化症(MS)患者のT細胞を用いて、short isoform RPDM1を介した制御性T細胞機能不全のメカニズムを明らかにした。MS患者の制御性T細胞において、PRDM1遺伝子発現が上昇しており、さらにshort isoform PRDM1(PRDM1-S)の発現上昇を認めた。PRDM1-SはSGKの発現を促すことによって、制御性T細胞の機能不全を促進させることを明らかにした。さらに、PRDM1-Sの上流の調節因子まで特定している。PRDM1-S/SGKによる制御性T細胞機能不全は、MSだけでなく他の自己免疫性疾患と共通のメカニズムである可能性があり、新たな治療薬への発展につながる重要な研究です。

 

 

エピソード

私の研究キャリアにおいて、最も重要な転機の一つが、Yale大学での留学経験です。この道のりは決して簡単ではありませんでしたが、それが私の人生において非常に価値のあるものであったことを今、実感しています。

当初、私は日本で心臓病の研究をしていましたが、免疫系が病気の進行に果たす役割に強い関心を抱くようになり、より広い視野で研究を深めるため、アメリカでの新たな挑戦を決意しました。そこで出会ったのが、Yale大学のDavid Hafler博士の研究室です。

特に印象深いのは、Hafler博士との初対面の瞬間です。彼が日本の理化学研究所で講演を行った際、私は自分の履歴書を手にして、片言の英語で思い切って留学の意向を伝えました。予想以上にすぐに「OK」の返事をもらい、Yale大学での研究への道が開けたのです。この時の一歩が、私のキャリアを大きく変えました。もしあの時、勇気を持って行動していなかったら、今の自分はないかもしれません。

Yaleでの研究生活は、挑戦と発見の連続でした。特に、多発性硬化症(MS)の発症メカニズムを解明するための実験では、多くの困難に直面しました。免疫細胞の異常を調べる過程で、特にヒト細胞を用いた実験の難しさに直面しました。ヒトの免疫細胞は非常に複雑で、再現性のあるデータを得るためには何度も試行錯誤を重ねる必要がありました。その中で、研究の成果を上げるためにどれだけ時間と労力を注ぐべきか、常に考え続ける日々が続きました。

また、競争の激しい環境でもありました。同じ分野で多くの研究者が切磋琢磨している中で、ある時は他のグループに先を越されるかもしれないという瀬戸際に立たされることもありました。しかし、その経験を通して、研究における迅速性と正確性の大切さを深く理解しました。このような厳しい環境だからこそ、一歩一歩進むことの重要性を改めて実感したのです。

幸運にも、研究の過程で予想以上の成果を得ることもありました。例えば、重要なデータを短期間で得ることができたり、偶然の発見が新たな研究の方向性を開いたりしたことです。これらの偶然のチャンスが転がってきた時にそれを活かす力が、研究者としての直感と努力を支えていることを改めて感じました。

また、Hafler博士から受けた言葉が私にとって非常に大きな意味を持っています。それは、「Perfection is the enemy of progress」という言葉です。この教えは、研究に行き詰まったときに、完璧を求めることよりも、一歩一歩前に進むことがいかに大切かを教えてくれました。この言葉のおかげで、枝葉末節にこだわりすぎることなく大きな視点を持ちながら研究を進展させることの意義を体感しました。

これから留学を目指す皆さんに伝えたいのは、未知の分野・領域に対しても「最初の一歩を踏み出す勇気」を持つことの重要さです。不安や恐れに立ち向かい、情熱を持って挑戦することが、必ず道を開きます。そして、失敗や困難を乗り越え、成長する過程で、思いがけない発見や出会いが待っています。皆さんにも、私のように素晴らしい機会と成長の瞬間が必ず訪れるはずです。


1)研究者を目指したきっかけを教えてください

"私はもともと医師として病気の治療に携わることを目指していましたが、臨床の現場で「なぜこの病気は起こるのか?」「どうすれば根本的な治療ができるのか?」という疑問を持つようになりました。特に、現在の医学ではまだ治せない病気に対して、より深く理解し、新しい治療法を開発することが重要だと感じました。

心血管疾患の臨床経験を通じて、免疫システムが病気の進行に重要な役割を果たしていることを学び、そこから免疫学に強く関心を持つようになりました。さらに、日本では多発性硬化症(MS)の患者さんに出会う機会は少なかったのですが、留学先のアメリカで比較的若いMS患者さんと接する中で、この病気の原因解明と治療法開発に貢献したいという強い思いを抱き、神経免疫学の研究者としての道を歩む決意をしました。とはいうものの、研究の興味は神経疾患に限られるわけではなく、免疫システムの異常が絡むあらゆる分野の病態生理に興味を持って研究を行っています。"           

 

2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

"免疫学と病態生理学に対する深い興味と、実際の疾患に対して新しい治療法を提供したいという強い思いからです。大学院時代、最初は免疫研究にあまり関心を持っていませんでしたが、研究を通じて免疫細胞が血管リモデリングや老化に関与することを知り、免疫系の複雑さに魅了されました。免疫系が全身のさまざまな臓器の制御に関与し、疾患にどう影響を与えるのかを解明することが非常に重要だと感じました。

特に、マウスモデルの限界を実感し、ヒトの病態生理にもっと焦点を当てた研究が必要だという思いが強まりました。そこで、ヒトに即した免疫学的アプローチを学ぶためにアメリカに留学し、多発性硬化症(MS)の研究に携わることにしました。MSはCD4⁺ T細胞による自己免疫疾患であり、この疾患の理解を深めることが私の研究の核心となりました。

David Hafler博士の研究室で学び、ヒトの免疫細胞に直接アプローチすることで、新たな知見を得るとともに、ヒトサンプルを用いる難しさも痛感しました。現在は、機能的遺伝学や分子生物学を駆使して、MSにおけるT細胞の制御異常や遺伝的要因を解明する研究を行い、より効果的な治療法の開発を目指しています。今後は、自己免疫疾患や心血管疾患の病態解明を通じて、新しい治療法を創出することを目標としています。"    

 

3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

"私の研究は、自己免疫疾患の発症メカニズムを分子レベルで解明し、新たな診断・治療法の開発につなげることを目的としています。特に、多発性硬化症 (MS)におけるT細胞の異常な制御機構を明らかにし、遺伝的要因と環境要因が免疫システムに与える影響を解き明かすことで、より効果的な治療戦略の確立を目指しています。


この研究が進むことで、MSや他の自己免疫疾患に対する新しい治療標的の発見が期待されます。例えば、PRDM1-SなどのT細胞における異常な遺伝子発現を制御することで、病気の進行を抑える新たなアプローチが可能になるかもしれません。また、個々の患者の遺伝子情報や免疫状態に基づいたPrecision Medicineを実現することで、より最適な治療法を提供できる可能性があります。さらに、ビタミンDや食事などの環境要因が免疫系に与える影響を詳しく解析することで、生活習慣の改善による発症リスクの低減や病状管理の新しい指標を確立することも目指しています。

この研究の成果は、MSだけでなく、関節リウマチ、1型糖尿病、炎症性腸疾患など、他の自己免疫疾患にも応用できる可能性があります。さらに、機能的遺伝学とシングルセル解析を組み合わせることで、新規の治療標的を特定し、免疫細胞の機能異常を回復させる新薬の開発にもつながると考えています。

最終的には、自己免疫疾患の診断・治療のパラダイムを変え、患者さんの生活の質を向上させることを目標としています。さらに、自己免疫疾患にとどまらず、免疫異常が関与する循環器疾患や神経変性疾患など、さまざまな病気への応用も視野に入れています。私たちの研究が、より安全で効果的な治療法の開発につながり、多くの患者さんの健康を支えることができることを願っています。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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