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[奨励賞] 内藤 千絵 / Cincinnati Children's Hospital Medical Center

Chie Naito, M.D., Ph.D.

分野 : オハイオ


論文リンク


論文タイトル

Induced pluripotent stem cell (iPSC) modeling validates reduced GBE1 enzyme activity due to a novel variant, p.Ile694Asn, found in a patient with suspected glycogen storage disease IV


掲載雑誌名

Molecular Genetics and Metabolism Reports


論文内容

"糖原病IV型(GSD4)は、グリコーゲン分岐酵素1(GBE1)の欠損により異常なグリコーゲンが肝臓、心筋、骨格筋や中枢神経系などに沈着し、臓器障害を引き起こす稀な疾患である。病型に応じて症状や予後は多様で、進行性の肝型では幼児期に肝不全に陥り肝移植が必要となるが、移植後も心筋症などの肝外症状が予後を悪化させることが多い。診断時に各臓器障害の程度を把握し、適切な移植タイミングを見極めることが重要であるが、特に希少疾患では遺伝子型と表現型の関連が不明な場合が多い。

本研究では、GSD4が疑われた幼児患者が有する未知の変異(VUS)c.2081T>A(p.Ile694Asn)の病的意義を解明するため、健常なiPS細胞にCRISPR/Cas9技術を用いてこの変異を導入した疾患モデルiPS細胞(iPSC-GBE1-I694N)を作成した。このiPS細胞を肝細胞や心筋細胞へ分化させ、GBE1欠損が細胞機能に及ぼす影響を検証した。結果として、変異を持つ肝細胞と心筋細胞では健常モデルと比べGBE1酵素活性とタンパク質発現が顕著に低下し、また組織染色では患者の組織と同様の異常なグリコーゲン沈着が確認された。このことから、c.2081T>A変異がGSD4患者において肝臓と心臓でGBE1欠損を引き起こす病的変異であることが確認された。

本研究は、iPS細胞を用いたモデルが希少疾患における新規遺伝子変異の病因解明や予後予測において有効であることを示している。特に、臓器障害の早期特定が必要な疾患や個別化医療を必要とする患者において、この手法が適切な治療計画の立案に役立つ可能性が期待される。"


受賞コメント

このような賞をいただけて大変光栄です。今回の研究・執筆に導いてくれた上司や研究室メンバーはもちろん、審査員の方々、論文賞メンバーの方々にも感謝申し上げます。本研究が希少難治性小児疾患研究・治療の発展につながることを願います。



審査員コメント

児島 克明 先生

本研究は、最先端のiPS細胞技術とゲノム編集技術を巧みに組み合わせることで、希少疾患であるGSD4における新規遺伝子変異の病的意義を見事に解明し、実臨床における診断・治療方針の決定に直接的な貢献を果たした素晴らしい成果と言えます。さらに、本研究で確立された手法は、他の希少疾患における未知の遺伝子変異の機能解析にも応用可能であり、個別化医療の発展に大きく寄与する可能性を示した点で、極めて重要な意義を持つ研究だと評価できます。


岩澤 絵梨 先生

VUSの病的意義を解明するため、CRISPR/Cas9技術を用いて健康な細胞にhomozygousに同遺伝子変異を誘導した論文です。このiPS細胞はin vitroの検証で著明な機能障害を示したことから、c.2081T>A変異が病的変異であることを示唆しており、このようなiPS細胞を用いたVUSの検証が希少疾患において非常に有用であると考えられます。


中村 純 先生

糖原病Ⅳ型(GSD4)の発症に関わる可能性のある、GBE1遺伝子上の変異をiPS細胞に導入し、肝細胞及び心筋細胞での解析をされたという、希少疾患については必須のデータを得られたことを高く評価いたしました。留学後2年以内に実験科学で筆頭論文を出されたことも非常に素晴らしい成果だと思いました。


中村 能久 先生

GSD4は稀少疾患であり、その診断と治療が非常に難しいとされています。本研究では、患者特異的な変異(p.Ile694Asn)を誘導したiPSCを用い、肝細胞および心筋細胞への分化を通じて、この変異がGBE1の機能喪失を引き起こすことを実証し、病態解明に寄与しました。本研究は、GSD4の病態理解と診断精度向上に大きく貢献しており、iPSCを用いた希少疾患研究の優れた事例といえます。また、肝移植が単独で行われることで心機能が悪化する可能性を考慮すると、肝臓と心臓の同時移植が行われた場合、患者の予後が異なっていた可能性があることが示唆されます。本研究の成果は、今後の希少疾患患者における治療戦略に重要な示唆を与え、新たな治療方針の構築に向けた基盤を提供していると考えられます。


水野 知行 先生

"本研究は、糖原病4型(GSD4)の幼児患者で検出された未知の遺伝子変異がどのように病態に関与しているかを明らかにするため、CRISPR/Cas9技術を利用して健康なドナー由来のiPSCを編集し、疾患モデル細胞を作製して検証しています。これにより、変異がGBE1酵素活性の低下およびポリグリコサンの異常な沈着を引き起こすことが確認され、この変異が病的に重要であると結論付けられました。小児の希少疾患の研究は患者数の少なさや臨床試験実施の難しさという課題がありますが、本手法はこれらの問題を克服するための有望なアプローチとして今後の益々の発展が期待されます。




1)研究者を目指したきっかけを教えてください

臨床知識を深めるために論文等を読んでも、基礎研究に関する知識がないと十分に理解出来ないことが多かったため。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

臨床では小児膠原病を専門にしています。本来外敵から身を守るための免疫システムが自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患に興味を持ったからです。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

本研究で対象となった糖原病Ⅳ型のような小児の希少疾患は患者さんが少ないこともあり病態の研究や治療が発展しにくい現状があります。本研究は糖原病Ⅳ型の予後改善につながるだけでなく、iPS細胞モデルを使った同様の手法を用いることで、他の希少疾患の研究の発展にもつながる可能性があると考えます。

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