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[奨励賞] 千田 航平 / Roswell Park Comprehensive Cancer Center

Kohei Chida, MD


分野 : Team Wada


論文リンク


論文タイトル

Pancreatic ductal adenocarcinoma with a high expression of alcohol dehydrogenase 1B is associated with less aggressive features and a favorable prognosis


掲載雑誌名

American Journal of Cancer Research


論文内容

膵臓がん(膵腺がん、PDAC)は予後不良な疾患として知られている。本研究では、アルコール代謝に関与する酵素であるアルコール脱水素酵素1B(ADH1B)の発現がPDACの悪性度や予後に与える影響を明らかにした。ADH1Bはアルコールを発がん性物質であるアセトアルデヒド(AA)に変換する酵素であるが、その膵臓がんとの関係性についてはこれまで十分に解明されていなかった。本研究では、The Cancer Genome Atlas(TCGA)およびGSE62452コホートのPDAC患者データを解析した。その結果、ADH1Bの高発現はPDACの細胞増殖の低下(MKI67発現の低下、低い組織学的グレード)、KRASやTP53変異率の低下と関連していることが示された。さらに、ADH1B高発現のPDACは、CD8+ T細胞およびM2マクロファージの高い浸潤を伴い、腫瘍の細胞傷害活性が高いことが明らかとなった。加えて、ADH1Bの発現はALDH2(アセトアルデヒドを無毒化する酵素)の発現と相関があったが、DNA修復関連遺伝子とは関連が見られなかった。これらの結果から、ADH1Bは膵臓がんにおいて腫瘍微小環境や免疫応答に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。また、ADH1B高発現のPDAC患者は、疾患特異的生存率(DSS)および全生存率(OS)が高く、予後が良好であった。多変量解析の結果、ADH1BはDSS(HR = 0.89, 95% CI = 0.80–0.99, P = 0.045)およびOS(HR = 0.90, 95% CI = 0.82–0.99, P = 0.044)における独立した予後バイオマーカーであることが示された。本研究は、ADH1BがPDACの生物学的特性や予後に関与していることを明らかにしており、新たな予後指標の可能性を提示するものである。


受賞コメント

このような素晴らしい賞を頂くことができ嬉しく思います。関係者の皆様に心より感謝申し上げます。



審査員コメント

太田 壮美 先生

本研究は難治性のPDACにおいて、ADH18の高発現が腫瘍の悪性度を抑制する可能性を示し、腫瘍免疫応答の強化をもたらす可能性があることを示唆するものである。ADH18が新たな予後予測因子となり治療計画の構築に役立つ可能性のみならず、特にADH18が腫瘍微小循環や免疫反応を調節する可能性はPDACにおける新たな治療法をもたらす将来性があり、素晴らしい論文であると思われる。


北原 大翔 先生

膵臓癌患者におけるADH1Bの高発現が良好な予後と関連することを示しており、膵臓癌の生物学的特徴を理解する上で貴重なデータを提供している。


林 秀憲 先生

"ADH1Bが高発現しているPDACの予後が良いことを明らかにしたことは重要なことで、これは治療方針に直結するものである。

多くの症例数に対してKaplan-Meier解析やCox比例ハザードモデルを使用し、生存率に関する確かな結果を提示している。

また、複数のコホートで一貫した結果を確認している点が結果をより信頼性の高いものにしている。"



1)研究者を目指したきっかけを教えてください

外科医として勤務する中で、術後に再発して亡くなる患者さんを多く目の当たりにしたため。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

高齢化に伴いニーズが多くあること、腫瘍外科・一般外科は多種多様な臓器・病態を扱うことからレパートリーが多くやりがいがあります。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

ADH1Bが膵管腺がんの生物学的特性や予後に関与していることを明らかにしており、新たな予後指標の可能性を提示するものである。

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