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[奨励賞] 圓 敦貴 / Cincinnati Children's Hospital Medical Center

Atsuki En, Ph.D.

分野 : オハイオ


論文リンク


論文タイトル

Pervasive nuclear envelope ruptures precede ECM signaling and disease onset without activating cGAS-STING in Lamin-cardiomyopathy mice


掲載雑誌名

Cell Reports


論文内容

" 核膜は、細胞分裂に伴い解体・再構築されることを除けば、安定な構造と考えられていた。しかし、近年の研究で、がん細胞の遊走や細胞老化の過程で、核膜が部分的に破損することが分かってきた。核膜の破損は核DNA を細胞質に流出させ、DNA 損傷による細胞死や自然免疫応答経路の活性化に関与すると示唆されている。

 ラミンA/Cは、核膜を裏打ちする中間径フィラメントの一種であり、核膜の機械的強度の維持に欠かせない。ラミンA/Cの変異は、拡張型心筋症を引き起こすことが知られ、それには心筋細胞内のラミンA/Cの量的不足(ハプロ不全)が重要と考えられている。これまでに、核膜の破損は、ラミン関連心筋症患者の心筋細胞や変異体ラミンを発現するマウスの心筋細胞で観察されていたが、破損がいつ、どのくらいの頻度で起こり、心筋症の原因になるかどうかは不明であった。

 我々は、心筋細胞特異的にラミンA/C遺伝子のノックアウトを誘導できるマウスを作成し、核膜の破損が心筋症の原因となる可能性を初めて報告した。心筋細胞におけるラミンA/Cの減少は、数週間で心不全を発症した。驚くべきことに、核膜の破損は、心筋症の他の兆候よりも先に起こり、その頻度は、心臓中の約50%の心筋細胞で検出された。興味深いことに、従来の仮説であった、核膜の破損に伴う細胞死やcGAS-STINGによる自然免疫応答は、我々のモデルでは検出されなかった。代わりに、心筋細胞から線維芽細胞への細胞外マトリックスを用いたシグナル伝達が心機能の低下に重要な役割を担う可能性を見出した。

 ラミン関連心筋症は、心臓移植以外に有効な治療法が確立されていない。我々の研究は、核膜の破損を予防あるいは修復できれば、心筋症の進行を予防あるいは遅延することができる可能性を支持した。

"


受賞コメント

海外で活躍される研究者の皆さんに、自身の研究を知って頂く機会に恵まれたことを嬉しく思います。


審査員コメント

児島 克明 先生

この研究は、心筋細胞特異的なラミンA/C欠損モデルを用いて、核膜の破損が心筋症の初期段階で生じることを見事に実証し、さらに細胞外マトリックスを介した新規シグナル伝達経路を同定した点で極めて革新的です。核膜の破損という新しい治療標的を提示したことは、これまで有効な治療法のなかったラミン関連心筋症に対する治療法開発への大きな一歩となることが期待されます。


岩澤 絵梨 先生

LMNA-related dilated cardiomyopathyのモデルとして、ラミンA/Cのおよそ50%ほどの不足、Haploinsufficiencyにより心筋症を発症すること、さらに炎症反応等に先んじて核膜の破損が起こることをマウスモデルにより示した重要な論文です。従来の仮説であるcGAS-STINGではなく、細胞外マトリックスシグナルが心臓におけるFibroblastを活性化させることが炎症反応を惹起することをsingle-nucleus RNA seqを用いて示唆した興味深い研究です。


中村 純  先生

ラミンA/Cの欠損による心筋細胞の損傷は、従来想定されていたcGAS-STING 経路を介さない、という新しい知見を見出した画期的な論文であることを高く評価しました。病態と疾患の因果関係を明らかにすることは、治療法の開発に欠かせません。しかし、技術的ハードルも多いものです。今回、これを乗り越えて新しい知見を明らかにされた圓さんの論文は、ラミン関連性心筋症、あるいは心筋症全般の治療に貢献されるものだと感じました。cGASやSTINGのKOでは心筋症の症状が改善されないこと、scRNA-seq 解析から心筋細胞から線維芽細胞、そしてマクロファージへの細胞外マトリックス、分泌シグナル経路がそれぞれ活性化していることを詳細に至るまで解析されていて大変興味深い論文です。


中村 能久 先生

Lamin A/Cの機能喪失が原因で発症する拡張型心筋症(DCM)は、成人発症の心筋疾患であり、その分子メカニズムの解明が十分に進んでいない領域です。本研究では、これまで注目されてきたcGAS-STING経路が心筋症の病態に直接的な役割を果たさないことを示し、代わりに細胞外マトリックス(ECM)シグナルが主要な炎症促進因子として機能する可能性を提示しています。この発見はユニークで新規性が高く、Lamin-cardiomyopathyの病態生理学における重要な知見を提供していると思われます。また、本研究はECMシグナルをターゲットとした新たな治療戦略の開発に向けた基盤となる可能性を秘めていると考えられます。


水野 知行 先生

ラミン関連心筋症は、細胞内ラミンA/Cの低下が原因で心筋機能不全や心不全を引き起こす深刻な疾患であり、治療法は依然として限られています。本論文では、心筋細胞特異的なラミンA/C欠損マウスモデルを用い、疾患の分子メカニズムが詳細に解析されています。その結果、従来考えられていたcGAS-STING経路ではなく、細胞外マトリックスのシグナル変化が炎症反応に寄与していることが示されました。本研究は、ラミン関連心筋症の病態理解と治療戦略に新しい視点を提供しており、今後のさらなる発展が大いに期待されます。



1)研究者を目指したきっかけを教えてください

幼少期の父の死をきっかけにヒトが生きる仕組みに興味を持ちました。自分がやりたいことを老化や病気で邪魔されたくないという私欲のために、不老長寿を掲げる研究者になりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

私の研究者としての目標は、老いの克服です。私たちの遺伝情報を保護する核膜は、老化が急速に進む遺伝病や心臓病の原因タンパク質が機能している重要な構造です。核膜の機能を理解し、老化を調節する手法を探すために、現在の専門分野に進みました。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

遺伝情報を保護する核膜が破れるという現象は、最近まで明らかになっていませんでした。現在は、心臓の細胞だけでなく、がん細胞や認知症モデルの神経細胞でも核膜の破損が観察されており、様々な病気の発症や進行に関わっている可能性が想定されています。核膜の破損を予防あるいは修復することが、それら病気の新たな治療標的になるのではと期待しています。

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