[奨励賞] 坂田 朋基 / Thomas Jefferson University Hospital
- UJA Award
- 15 時間前
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Tomoki Sakata, M.D., Ph.D.
分野 : Team Wada
論文リンク
論文タイトル
Reduction of left ventricular diastolic pressure as a key regulator of infarct coronary flow under mechanical left ventricular support
掲載雑誌名
Journal of Physiology
論文内容
"虚血性心筋組織における血流の回復は、梗塞サイズを最小限に抑えるために極めて重要である。急性の機械的左室補助が梗塞組織灌流を改善すると示唆されているが、その調節メカニズムは依然として不明確である。我々は、左前下行動脈を90分間バルーン閉塞した6頭のブタ心筋梗塞モデルを用いて、その生理学的メカニズムを研究した。急性再灌流期に、Impellaを用いた左室補助を開始し、左室圧、冠動脈血流、および冠動脈圧を同時に評価した。冠動脈wave intensityを計算し、冠動脈血流を制御する力を解析した。
左室補助後、冠動脈血流速度が全拡張期にわたり有意な増加を認めた。血流調節因子の中で、冠動脈圧は主に後期拡張期に上昇し、拍動性は低下した。一方、左室圧は拡張期全体で低下し、冠動脈駆動圧に有意かつ一貫した上昇をもたらした。また、左室補助により拡張期の持続時間が延長した。Wave intensity解析において、心筋のrelaxationとcontraction双方が拡張期の延長に寄与したことが示唆された。
結論として、機械的左室補助は、拡張期を延長し、冠動脈駆動圧を増強することで、梗塞冠動脈血流を増加させることがわかった。注目すべきは、冠動脈血流増加が主に冠動脈の遠位側(左室側)の圧力変化によるものであり、近位側(大動脈側)の影響よりも重要であることを示した点である。この研究は、心筋梗塞後の治療において、左室補助デバイスが冠動脈血流を改善する新しいメカニズムを科学的に解明した点で、臨床的に大きな意義を持つと言える。"
受賞コメント
奨励賞に選んでいただき大変光栄です。本研究はMount SinaiでLV unloadingによる血行動態変化を解析していたプロジェクトの集大成です。自分が立てた仮説を実証するためにどのように実験プロトコルを組み、結果をどうinterpretし、得られた知見をどう次の研究に繋げるかというscientistとしてのマインドを指導してくださったDr. IshikawaをはじめKiyo labの皆さんにこの場を借りて感謝いたします。
審査員コメント
太田 壮美 先生
percutaneous LVAD Impellaの登場は、ハイリスクのPCIや術後サポートへの応用など困難症例に対する治療成績の向上に貢献してきた。重度の心筋梗塞症例などにおいて、当デバイスの併用により心機能回復・保持に有意義であることは経験的に認知はしているものの、その詳細なメカニズムは不明であった。本研究はそれらを客観的、定量的に計測・検討していることが意義深い。実際の生体内で梗塞時、再循環時にどのような変化が起こっているのかを示しており、メカニズムの解明、さらには将来的に画期的な治療法の開発にも期待がされる良い研究である。
北原 大翔 先生
左室補助循環が冠動脈血流に与える影響についてを解析している研究です。動物モデルを用いた解析は説得力があり、特に心筋梗塞治療への応用可能性を高める知見となっています。循環器領域の理解を深める上で、非常に価値のある研究
林 秀憲 先生
"これまで不明であった機械的左室補助が心筋梗塞の組織灌流を改善するメカニズムに関して一定の見解を得たことは今後の更なる機器の改良に繋がる。
心筋梗塞モデルを作成した上でのImpellaを用いた実験であるが、ブタは人間より弱く心筋梗塞により研究を継続できないぐらい状態が悪くなることもありうるが上手く遂行された点も素晴らしい。
Wave Intensityの解析を用いたアイディアが良く、その結果明確な結論が出ていることが評価できる。"
1)研究者を目指したきっかけを教えてください
外科医であっても自分の手術そしてその成績を科学的に考えられるようになりたいと思い、研究留学を決意しました。
2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください
重症の心不全により薬物治療でもどうにもならないほど心機能が低下した患者では、補助人工心臓や心移植が唯一の残された道となります。患者によっては20代30代で発症するため、我々が当然のように経験する、学校で友達を作り、就職し、結婚して親になり、という人生のプロセスを経験できないで亡くなる方もたくさん存在します。そのような患者に自分の手術でその先にある人生をプレゼント出来る心臓外科医になりたいと思ったのがこの分野を選んだ理由です。
3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。
治療のメカニズムを明らかにして理解することは、患者の病態やどのような患者が治療により利益を受けるかを把握することに役立ちます。
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