[奨励賞] 大嶋 園子 / 京都大学
- UJA Award
- 16 時間前
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Sonoko Oshima, M.D., Ph.D.
分野 : 南カリフォルニア
論文リンク
論文タイトル
Predicting Post-Operative Side Effects in VIM MRgFUS based on THalamus Optimized Multi Atlas Segmentation (THOMAS) on white-matter-nulled MRI: A Retrospective Study
掲載雑誌名
American Journal of Neuroradiology
論文内容
" 本態性振戦や振戦優位パーキンソン病では振戦(手足などの震え)が生活の質を大きく低下させる。薬剤が効かない場合の治療の一つにMRIガイド下集束超音波治療(MRgFUS)という比較的新しい治療があり、振戦に関与する視床(脳の深部構造)のventral intermediate nucleus(VIM核)を超音波の熱で凝固壊死させて振戦を抑制する。MRIで位置と温度をモニタリングしながら行うが、VIMから外れると周囲の脳組織を損傷し歩行障害などの副作用を起こすため、正確な標的設定が重要である。通常の脳MRIではVIMを直接描出できず、脳の構造物を結んだ基準線からの距離をもとに決定するが、個人の脳形態の違いが考慮されておらず精度に課題がある。
近年、ボランティアの脳MRI画像に作成した視床核のセグメンテーション(範囲や形を示す情報)を活用し、THalamus Optimized Multi Atlas Segmentation(THOMAS)という自動処理パイプラインが開発された。術前MRI画像に適用することで、個々の脳に合わせた視床核のセグメンテーションを作成できる。本研究ではTHOMASの有用性を検討するべく、MRgFUSで治療された30名を後方視的に解析し、『THOMASで作成した視床およびVIMのセグメンテーション』と『術後MRIから得たMRgFUS誘発病変(壊死や浮腫)』から算出された画像的特徴が術後の歩行障害と関連するかを検討した。
Wilcoxon順位和検定の結果、術後に歩行障害のあった患者群では、なかった群と比較して有意にMRgFUS誘発病変の体積が大きく、誘発病変のうちVIMセグメンテーション内にあった領域の割合が小さく、視床セグメンテーション外の領域の割合が大きかった。また誘発病変の重心が VIMセグメンテーションの重心に対してより下方にあり、両重心間の距離がより大きかった。画像的特徴を組み合わせた多変量回帰モデルのROC解析では、歩行障害の予測においてAUCが0.99という高値を得た。
以上より、THOMASで作成した患者特異的なVIM位置をMRgFUSの標的とすることで術後の歩行障害を減らせる可能性が示唆された。今後は長期フォローアップによる振戦抑制効果の比較や前向き試験を通してTHOMASの有用性の検証を行いたい。"
受賞コメント
この度は賞をいただき大変光栄に思います。審査員の皆様、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。また、UCLAの先生方には多くのご指導をいただき、この場を借りて改めて御礼申し上げます。今回の受賞を励みに今後も脳画像研究にさらに精進してまいります。本当にありがとうございました。
審査員コメント
金子 直樹 先生
本態性振戦や振戦優位パーキンソン病などの機能的脳疾患に対する新しい非侵襲的治療としてVIM MRgFUSがあるがVIM核からターゲットが外れると術後のバランス障害や歩行障害などの合併症が起こりうる。一般的にVIM核セグメンテーションにはのアトラスが用いられているが、申請者らは白質抑制MRIとTHOMASを組み合わせVIM核をセグメンテーションする30例のMRgFUS術前および術後の画像を比較し、FUSされた部位がTHOMASのVIM領域から逸脱しているほど合併症リスクが高いことを示した。後方視的で症例数が少なく厳密な因果関係は検証が必要ではあるが、患者特異的にVIMをセグメンテーションしMRgFUSの安全性向上に寄与できる可能性がある。
1)研究者を目指したきっかけを教えてください
まだ解決されていない臨床の課題に取り組み、医療の発展に貢献したいと考えたからです。
2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください
CTやMRIなどの医用画像技術を用いることで痛みを伴わずに体の中の状態を知ることができ、疾患の診断や治療につなげられる点に魅力を感じたからです。
3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。
振戦は患者さんの生活の質を下げてしまう重要な症状です。MRIガイド下集束超音波治療は頭の外から超音波を当てて振戦を治療する、体への負担が少ない方法です。今回の研究ではその治療の標的設定に関して検討を行いました。今後、治療の精度がさらに高まれば、安全性や効果の向上が期待できます。
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