[奨励賞] 小豆島 健護 / 横浜市立大学
- UJA Award
- 13 時間前
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Kengo Azushima, M.D., Ph.D.
分野 : 免疫アレルギー
論文リンク
論文タイトル
Abnormal lactate metabolism is linked to albuminuria and kidney injury in diabetic nephropathy
掲載雑誌名
Kidney International
受賞コメント
この度は2025 UJA論文賞における奨励賞を頂戴し、大変光栄に思います。本研究は、留学を開始してから論文掲載までに7年近く要しました。COVID-19流行のため、留学自体は約3年で終了し、帰国後も共同研究として留学先とやり取りしながら何とか形にすることができました。色々と大変な事もありましたが、全てがとても良い経験となり、今後の研究活動に大きな意味を持つことは間違いないと感じています。今回、本研究をこのような形で認めていただけましたこと、本当に嬉しく思います。有難うございました。
審査員コメント
前田 啓子 先生
腎臓の代謝の乱れが乳酸の生成を促進し、それが糖尿病性腎症の病因に寄与している可能性があることを明らかにしています。尿中乳酸の数値がバイオマーカーになる可能性も示唆されており、臨床的に意義の高い仕事であると考えます。
清家 圭介 先生
糖尿病性腎症は、腎不全や、人工透析の原因として一番多い疾患である。しかし、その詳細な発症メカニズムについては未だ不明な点が多い。本論文は、乳酸脱水素酵素(LDH)と上昇と糖尿病性腎症との関連について明らかにしている。糖尿病性腎症モデルマウスの腎臓では、LDHの上昇を認め、ARBの投与によって腎症が改善し、LDHの減少も認めた。また尿中LDHが、末期腎不全の予測につながることを明らかにしている。本研究は、腎臓のTCAサイクルの異常や、LDHの上昇に特徴付けられる代謝の乱れ、糖尿病性腎症の病因に寄与している可能性を示し、尿中乳酸が腎疾患進行のリスクのバイオマーカーことが期待される。最も一般的な腎不全の原因である糖尿病性腎症の病態解明に繋がる研究であり、マイオマーカーとしてだけでなく、今後の治療薬の開発につながる可能性がある重要な研究である。
森田 英明 先生
糖尿病関連腎臓病のメカニズムとして、腎臓のエネルギー代謝、特に乳酸の代謝が要因となっていることを明らかにした研究である。治療標的として、また疾患活動性/予後をモニタリングするバイオマーカーの開発につながることが期待される。
エピソード
自分は2017年より留学を開始しました。留学先の研究室がまだ立ち上げの段階だったこともあり、当初は研究がなかなか進捗しない事に頭を悩ませ、軌道に乗ってきたところでCOVID-19の流行があり、論文掲載に至らないまま2020年に帰国しました。幸い、その後も共同研究として留学先とやり取りを継続することができ、2023年に何とか論文掲載にまでこぎつけることができました。実に7年近く要してしまい、途中で大変な事も色々とありましたが、今では全てがとても良い経験となっていると感じています。留学は不確定要素も多く、躊躇してしまうのが普通だと思いますが、その分得るものもとても大きいです。留学を少しでも考えている方は、是非その一歩を踏み出していただきたいと思っています。
1)研究者を目指したきっかけを教えてください
自分は医師ですが、普段診療している際にふと疑問に思うことが結構あります。それを調べてみて、まだ分かっていない事であれば、研究することで少しでも明らかにできる可能性があります。それは、医学の進歩への貢献につながるかもしれませんし、将来的にたくさんの患者さんの利益となる可能性もあります。そのような点が研究者を目指したきっかけではありますが、一方で、「研究ってどんな感じなんだろう?試しにやってみるか」という軽い気持ちで足を踏み入れた側面もあります。何事も経験してみるのが大切だと思っています。
2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください
自分は内科医として勤務しながら、研究も行っています。もともと、腎疾患や高血圧に興味があったため、腎臓・高血圧内科を選択しました。腎疾患や高血圧には内分泌系が強く関与しているため、大学院生になった際にレニン・アンジオテンシン系の研究に携わらせていただきました。その後、腎疾患や高血圧だけでなく、糖尿病や肥満といった代謝疾患の研究にも関わるようになり、現在に至ります。研修医の頃に勤務した病院で、心血管疾患で多くの患者さんが救急車で搬送されて来るのを見て、「心血管疾患の予防が大切ではないか?」と感じ、生活習慣病全般の治療や研究に興味を抱いたのも影響しているかもしれません。
3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。
糖尿病により腎臓が悪くなり、血液透析に至る患者さんはとても多いです。これまで、様々な薬が開発され治療に用いられていますが、未だにその数は増え続けています。その背景として、糖尿病による腎障害のメカニズムが完全に解明されていないことが一因として挙げられています。本研究では、糖尿病による腎障害の新しいメカニズムとして腎臓におけるエネルギー代謝障害が関与しており、エネルギー代謝の中でも特に乳酸代謝が強く病態と関連していることを明らかにしました。今後、乳酸代謝に着目したエネルギー代謝障害を治療のターゲットにすることで、糖尿病による腎障害に対する新しい治療法の開発につながる可能性があります。
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