[奨励賞] 有村 純暢 / ベイラー医科大学
- UJA Award
- 13 時間前
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Sumimasa Arimura, Ph.D.
分野 : がん分野
論文リンク
論文タイトル
Metabolic regulator ERRγ governs stem cell differentiation into acid-secreting parietal cells
掲載雑誌名
Cell Stem Cell
論文内容
最近、AMPKが単にエネルギー代謝の中心的な調節因子と考えられていた一方で、骨芽細胞、脂肪細胞、胃細胞などへの分化を促進するという興味深い報告がされています。しかし、幹細胞から成熟細胞への分化に『必須の代謝調節因子』は、胃を含め、どの組織でも発見されていませんでした。
受賞コメント
" この度は名誉ある賞を拝受し、大変光栄に存じます。丁寧にご査読頂いた審査員の方々に厚く御礼申し上げます。
7年間の米国留学では二度の研究室移籍により研究に専念できず苦心を重ねましたが、三つ目の現所属研究室に移ってようやく腰を据えて研究に取り組むことが叶いました。日本への帰国を思いとどまらせ、第二の研究室在籍時より長期に亘りご支援下った現監督者のJason C. Mills博士、前監督者のNoah F. Shroyer博士の両氏に、衷心より御礼申し上げます。"
審査員コメント
氏家 直人 先生
胃の壁細胞に分化する前駆細胞がエストロゲン関連受容体γ(ERRγ)という転写因子を発現していること、さらに前駆細胞が壁細胞へ分化する過程において、ERRγが中心的な役割を担っていることを発見した、非常に興味深い論文である。ERRγはSMAD4およびSP1を介して代謝調節因子として作用することで、壁細胞分化の初期段階に関与することを明らかにしている。壁細胞は胃酸分泌に関与していることから、ERRγが胃酸関連疾患(胃潰瘍、胃癌など)の新たな治療ターゲットとなり、新規薬剤の開発につながる可能性があることが示唆される。
エピソード
「研究留学記」というと華々しい成功ばかりを想像しがちですが、実際にはそうではないケースも多いものです。たとえば私の場合、日本で学んだ研究倫理との違いや、予期せぬ研究資金の枯渇といった困難に直面し、複数の研究室を渡り歩かざるを得ませんでした。これは渡米前には全く想像していなかった展開で、当時は基礎研究者として大幅に失速してしまったと痛感したほどです。それでも成功するまで辞めずに継続する限りは「研究留学の失敗」にはならないと信じることで、最終的には腰を据える場所を見つけ、研究室の方々や所属コミュニティ(サイエンスを遊ぼうの会)の仲間達の支えによって、論文発表にまで漕ぎ着けることで出来ました。
1)研究者を目指したきっかけを教えてください
研究者を目指したことは一度もなかったのですが、大学に入ってから全学年の講義を片っ端から受け、その中で最も面白いと感じた先生の研究室を訪ねたのが、研究との初めての出会いでした。そこで特に崇高な目的も持たず、非効率的かつ非生産的なまでに実験だけに没頭していたら、いつの間にか「研究はおもしろい!」と脳が勝手に感じるようになっていました。
2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください
現監督者が胃分野の大家であるため、現在は胃の研究を進めているという、ある意味で単純な理由になります。一方で、これまで25年間にわたっては腸・肺・筋・血液・骨など幅広い領域に取り組み、可能な範囲で専門分野を狭めないよう努めてきました。その積み重ねを活かし、今後は多様な分野での経験を生かした統合的研究を推進していく予定です。
3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。
" これまで、細胞がどのような種類に分化するかは、主に「転写因子」や「シグナル伝達経路」といった分子が関わって決まると考えられていました。しかし、今回の発見によって、「代謝因子」がエネルギーを作ったり物質を合成したりするだけでなく、細胞の運命(どのような細胞になるか)を決める過程にも重要な役割を果たしていることがわかりました。このメカニズムの詳細な解明は、生物学の新しい理解につながる大きな進歩となります。
さらに、この「代謝因子」の働きをコントロールして上皮細胞の分化を誘導する治療法が注目されています。この方法では、病気によって構造や機能が乱れてしまった上皮細胞を、正常な状態へと導くことが期待できます。特に、消化器系の前がん病変やがんに対して、新しい治療の可能性を示す革新的なアプローチになると考えられます。"
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