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[奨励賞] 木村 好孝 / Yale University

Yoshitaka Kimura, Ph.D

免疫アレルギー分野

 

論文リンク

 

論文タイトル

Mechanosensing regulates tissue repair program in macrophages

 

掲載雑誌名

Science Advances

 

論文内容

細胞外基質(ECM)は全ての組織にて構造基盤や細胞の足場として働く、重要な分子群である。その構築システムは組織の状態によって制御を受け、例えば組織が損傷を受けた際には線維芽細胞からのECM産生が促され、損傷部位の修復が行われる。治癒が完了する際には、ECMの産生は抑制される。この抑制機構が破綻すると、ECMが過多となって繊維化が起き、組織の機能不全が生じる。これまでの知見で、ECM の構築制御には組織常在性の免疫細胞であるマクロファージが重要な役割を果たしていることがわかっていた。しかしながら、マクロファージがどのように組織の状態を認識しECMの構築をコントロールするのかについては、不明な点が多かった。

  今回、我々はECMの構成要素であるコラーゲンを使った3次元培養システムを用いて、マクロファージがECMの物理的な硬さを認識し、組織におけるECM構築プログラムを制御することを見出した。この機構は細胞骨格依存的であり、より硬いECMの中ではマクロファージがアクチン構造を組み換えて細胞の形を変え、これが核内に情報として伝わりRELMaなどのECM構築促進遺伝子の発現を抑制することが明らかとなった。また、この硬さ認識はECMに結合するインテグリン非依存的に行われていた。線維芽細胞等の間葉系細胞は移動する際にインテグリンを用いてECMを引き、這うように進むが、この引く動作によりECMの張力を検知することが固さ認識に大きく貢献している。一方マクロファージ等の免疫細胞はECMへの接着非依存的に、アクチン細胞骨格からなる突起を前方で推し進めることによって泳ぐように進む。我々が得られた結果は、間葉系細胞と同様、免疫細胞においてもECMの硬さ認識がその移動法に密接な繋がりがあることを示している。

  本研究は、マクロファージがECMの状態をその固さを認識することで把握し、適切な損傷治癒プログラムの制御を行うことを明らかにしており、組織の恒常性維持の理解を大きく深めるものである。更なる硬さ認識機構の解析により、繊維化等のECM構築異常によって起こる病態に対する、新たな治療戦略の発見につながることが期待される。


受賞コメント

この度は奨励賞をいただき、誠にありがとうございます。様々な面で科学の発展に貢献しておられるUJAからこのような素晴らしい賞をいただき、とても光栄です。



審査員コメント

倉島 洋介 先生

"マクロファージによる組織環境の硬度の認識が細胞機能に大きく影響を与え、組織修復、線維化などの生体応答の重要な機序を示している論文である。またインテグリンによるものではなく、メカノストレスが寄与する点等興味深い。

実験系もユニークで在り、当該グループが過去に示した線維芽細胞に見られる機序(Proc Natl Acad Sci U S A. 2022)とも異なる興味深い成果である。疾患治療につながるさらなる研究の発展が見込まれます。"

 

畑 匡侑 先生

本論文は、マクロファージの新規メカノセンシング機構を発見し、組織修復における重要な役割を明らかにした革新的な研究である。従来の接着依存型メカノセンシングとは異なる、アメーバ様の接着非依存型メカノセンシングを示し、細胞骨格のダイナミクスがクロマチンアクセシビリティを制御するという新しい概念を提示し、遺伝子発現制御の理解に貢献した。特に、 in vitroとin vivoの両方で詳細な実験を行い、発見した機構の生理学的意義を示している。

 

森田 英明 先生

ECMの制御機構の詳細を明らかにした論文で、ECMの物理的硬さに着目した独創性の高い研究である。




エピソード

プロジェクト発足当初は世界的にほとんど使われていなかったコラーゲンによる3次元培養モデルを用いたので、RNA一つ回収するにしても多くの試行錯誤が必要でした。ただ幸運だったのは今回の論文の共同第一著者になっている学生とチームを組んでいたことでした。その方とアイデアを出しながら協力することで、単独で行うよりもより早くプロジェクトが進んだと考えています。

 

1)研究者を目指したきっかけを教えてください

高校時代に近しい人が病気になり、同じような境遇の人を救いたいと思ったことがきっかけでした。当時は化学が好きだったので化学の基礎研究者になって薬の開発に携わりたいと考えていましたが、大学3年時に自分の能力の限界を感じて挫折し、生物の道に進むことを決めました。最初はネガティブな理由から始めたものの、その後は生物を学ぶにつれその面白さに惹き付けられるようになり、現在に至ります。            

 

2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

マクロファージは基本的に全ての組織に常在しており、生体の恒常性を脅かすようなあらゆる変化に応答して組織を機能不全から守る、便利屋のような細胞です。多細胞生物の進化過程において初期の段階からマクロファージ様の細胞を持っていたことが示唆されており、マクロファージについて研究することで生物の基本原理を明らかにするだけでなく、多くの疾患の理解につながると考え現在の研究分野に進みました。           

 

3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

今回の研究は組織修復プログラムの適切な調節機構について、その一端となるメカニズムを明らかにしました。こうした調節機構の破綻が組織の繊維化を引き起こし、疾患へとつながります。本研究を発展させることで、肺線維症や強皮症といった、繊維化を伴う疾患における新規治療法の創出につながることが期待されます。

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