cheironinitiative4月8日読了時間: 5分[奨励賞]杉山 智子/ミシガン大学Tomoko Sugiyama, M.D.[分野:ミシガン]Measuring grip strength in adolescents and adults with cerebral palsy in a clinic setting: Feasibility, reliability, and clinical associations(脳性麻痺成人における握力測定の臨床的有用性)Developmental Medicine and Child Neurology, 01-June-2023概要 脳性麻痺は最も一般的な小児期発症の疾患の一つである。近年、脳性麻痺患者の平均寿命は延伸傾向にあるが、その一方で加齢に伴う様々な課題が明らかとなってきている。成人脳性麻痺患者では、進行性の運動機能障害から運動量が減少し、体内脂肪率が増加することにより、高血圧や糖尿病、関節炎などの慢性疾患のリスクが増加するとともに、’早期老化’が起こることが知られているが、そのスクリーニング法や危険因子についてはほとんど調査されていない。また体重やBMI、体脂肪率といった一般的なスクリーニング指標は、脳性麻痺患者の体組成が一般集団と違うことにより、適用が困難という背景がある。本研究では、脳性麻痺成人集団において握力が体組成や慢性疾患リスクを予測する新たなスクリーニング法になり得るかを検討した。計111人の脳性麻痺成人が参加し、同日3回のテストリテスト信頼性は非常に良好であった。性別、粗大運動能力分類システム(GMFCS)、手指操作能力分類システム(MACS)、体格、ウエスト周囲径、除脂肪体重は、握力と関連していた。また、ロジスティクス回帰分析を用いたに予備的なモデリングでは、GMFCS単体、握力単体の慢性疾患リスク予測能と比較して、GMFCSと握力を組み合わせたモデルにおいて慢性疾患リスク予測能の向上が見られた。本研究において、握力は脳性麻痺成人の健康状態や疾病リスクの把握に役立つ可能性が示唆された。受賞者のコメント この度は、奨励賞を受賞する機会を頂き、大変光栄に存じます。素晴らしい研究が軒を並べる中、リハビリテーション医学というニッチな分野の、さらに障害児医療というマイナーなエリアの小さな研究にこのような賞を頂けたことは、とても大きな励みになりました。研究のけの字も知らなかった私に1からご指導くださったミシガン大学のEdward Hurvitz教授、Daniel Whitney博士には本当に感謝してもしきれませんし、今回の受賞が少しでもの恩返しになれば本当に嬉しく思います。またUJA賞を紹介して下さったミシガン金曜会の安藤啓先生、留学に快く送り出して下さった昭和大学の川手信行教授、公私共に支えてくれた素晴らしい家族、そしてこの研究に参加して下さった多くの患者様に心より感謝申し上げます。審査員のコメント坂東 弘教 先生: 脳性麻痺患者に対して、低コストで体組成・慢性疾患リスクを予想するスクリーニングとしての握力に着目し、その意義について検討された論文です。各種パラメータとの関連性も示しておられ、実臨床での応用に直結が期待されます。今後は、握力と脳性麻痺患者における慢性疾患発症・予防の長期予後についての検討に加え低握力群への治療介入方法の開発へ発展されるものと考えます。松下 祐樹 先生: 脳性麻痺成人の健康状態や疾病リスクを予想する上で、これまではなかなか良い指標がありませんでしたが、本研究によって、握力が新たなスクリーニング法になる可能性を見出しており、その点でとても評価できます。清家 圭介 先生: 成人脳性麻痺の患者は、運動量の減少に伴い、早期老化現象が起こり、糖尿病、高血圧など慢性疾患のリスクが増加する。そのような慢性疾患のリスクを予測することは、成人脳性麻痺患者の予後に影響し、さらには慢性疾患の予防に寄与するが、その予後予測のスクリーニング法は確立されていない。著者は、非常に簡便でコストパフォーマンスも良い握力測定が、脳性麻痺患者の運動能力レベルを評価するGMFCSや、MACSなどと相関することを発見した。さらに有意差は認めないものの、握力とGMFCSを組み合わせることにより、慢性疾患リスク予測能が向上する可能性があることを発見した。本研究は、脳性麻痺患者の疾病リスク予測、さらには疾病予防に繋がる重要な研究である。エピソード1)研究者を目指したきっかけ 始めは小児リハビリテーションを学ぶために病院で見学等させてもらえればなぁくらいの軽い気持ちでいましたが、お世話になったミシガン大学の教授にせっかく来るんだからやってみたらと、今回の研究テーマを頂いたのがきっかけです。留学前までは、研究は一部の特別な人が特別な施設で行うものだと思っていましたが、留学を経て、好奇心とやり抜く心があれば誰でもどこにいても挑戦できるものだと認識が変わりました。2)現在の専門分野に進んだ理由 自分の力ではどうすることもできない、運命のような何かによって生きづらさを抱える人の力になりたいと思ったからです。3)この研究の将来性 脳性麻痺の患者さんは、高血圧や糖尿病、心疾患などの慢性疾患のリスクが高いことが知られています。しかし、身体組成が一般の人と違うことにより、体重やBMIといった一般的なスクリーニングが適応しづらいという側面があります。握力は誰でもどこでも気軽に計測できる筋力の指標ですが、今回の研究で、握力が脳性麻痺の患者さんの慢性疾患リスク予測に役立つ可能性が示唆されました。今後、より詳しい研究を重ねることで、握力が低い集団を選択的にフォローアップしたり予防介入することにより、脳性麻痺患者さんの慢性疾患のリスクを軽減することが期待されます。
Tomoko Sugiyama, M.D.[分野:ミシガン]Measuring grip strength in adolescents and adults with cerebral palsy in a clinic setting: Feasibility, reliability, and clinical associations(脳性麻痺成人における握力測定の臨床的有用性)Developmental Medicine and Child Neurology, 01-June-2023概要 脳性麻痺は最も一般的な小児期発症の疾患の一つである。近年、脳性麻痺患者の平均寿命は延伸傾向にあるが、その一方で加齢に伴う様々な課題が明らかとなってきている。成人脳性麻痺患者では、進行性の運動機能障害から運動量が減少し、体内脂肪率が増加することにより、高血圧や糖尿病、関節炎などの慢性疾患のリスクが増加するとともに、’早期老化’が起こることが知られているが、そのスクリーニング法や危険因子についてはほとんど調査されていない。また体重やBMI、体脂肪率といった一般的なスクリーニング指標は、脳性麻痺患者の体組成が一般集団と違うことにより、適用が困難という背景がある。本研究では、脳性麻痺成人集団において握力が体組成や慢性疾患リスクを予測する新たなスクリーニング法になり得るかを検討した。計111人の脳性麻痺成人が参加し、同日3回のテストリテスト信頼性は非常に良好であった。性別、粗大運動能力分類システム(GMFCS)、手指操作能力分類システム(MACS)、体格、ウエスト周囲径、除脂肪体重は、握力と関連していた。また、ロジスティクス回帰分析を用いたに予備的なモデリングでは、GMFCS単体、握力単体の慢性疾患リスク予測能と比較して、GMFCSと握力を組み合わせたモデルにおいて慢性疾患リスク予測能の向上が見られた。本研究において、握力は脳性麻痺成人の健康状態や疾病リスクの把握に役立つ可能性が示唆された。受賞者のコメント この度は、奨励賞を受賞する機会を頂き、大変光栄に存じます。素晴らしい研究が軒を並べる中、リハビリテーション医学というニッチな分野の、さらに障害児医療というマイナーなエリアの小さな研究にこのような賞を頂けたことは、とても大きな励みになりました。研究のけの字も知らなかった私に1からご指導くださったミシガン大学のEdward Hurvitz教授、Daniel Whitney博士には本当に感謝してもしきれませんし、今回の受賞が少しでもの恩返しになれば本当に嬉しく思います。またUJA賞を紹介して下さったミシガン金曜会の安藤啓先生、留学に快く送り出して下さった昭和大学の川手信行教授、公私共に支えてくれた素晴らしい家族、そしてこの研究に参加して下さった多くの患者様に心より感謝申し上げます。審査員のコメント坂東 弘教 先生: 脳性麻痺患者に対して、低コストで体組成・慢性疾患リスクを予想するスクリーニングとしての握力に着目し、その意義について検討された論文です。各種パラメータとの関連性も示しておられ、実臨床での応用に直結が期待されます。今後は、握力と脳性麻痺患者における慢性疾患発症・予防の長期予後についての検討に加え低握力群への治療介入方法の開発へ発展されるものと考えます。松下 祐樹 先生: 脳性麻痺成人の健康状態や疾病リスクを予想する上で、これまではなかなか良い指標がありませんでしたが、本研究によって、握力が新たなスクリーニング法になる可能性を見出しており、その点でとても評価できます。清家 圭介 先生: 成人脳性麻痺の患者は、運動量の減少に伴い、早期老化現象が起こり、糖尿病、高血圧など慢性疾患のリスクが増加する。そのような慢性疾患のリスクを予測することは、成人脳性麻痺患者の予後に影響し、さらには慢性疾患の予防に寄与するが、その予後予測のスクリーニング法は確立されていない。著者は、非常に簡便でコストパフォーマンスも良い握力測定が、脳性麻痺患者の運動能力レベルを評価するGMFCSや、MACSなどと相関することを発見した。さらに有意差は認めないものの、握力とGMFCSを組み合わせることにより、慢性疾患リスク予測能が向上する可能性があることを発見した。本研究は、脳性麻痺患者の疾病リスク予測、さらには疾病予防に繋がる重要な研究である。エピソード1)研究者を目指したきっかけ 始めは小児リハビリテーションを学ぶために病院で見学等させてもらえればなぁくらいの軽い気持ちでいましたが、お世話になったミシガン大学の教授にせっかく来るんだからやってみたらと、今回の研究テーマを頂いたのがきっかけです。留学前までは、研究は一部の特別な人が特別な施設で行うものだと思っていましたが、留学を経て、好奇心とやり抜く心があれば誰でもどこにいても挑戦できるものだと認識が変わりました。2)現在の専門分野に進んだ理由 自分の力ではどうすることもできない、運命のような何かによって生きづらさを抱える人の力になりたいと思ったからです。3)この研究の将来性 脳性麻痺の患者さんは、高血圧や糖尿病、心疾患などの慢性疾患のリスクが高いことが知られています。しかし、身体組成が一般の人と違うことにより、体重やBMIといった一般的なスクリーニングが適応しづらいという側面があります。握力は誰でもどこでも気軽に計測できる筋力の指標ですが、今回の研究で、握力が脳性麻痺の患者さんの慢性疾患リスク予測に役立つ可能性が示唆されました。今後、より詳しい研究を重ねることで、握力が低い集団を選択的にフォローアップしたり予防介入することにより、脳性麻痺患者さんの慢性疾患のリスクを軽減することが期待されます。
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