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[奨励賞] 林 和寛 / 京都大学

Kazuhiro Hayashi, Ph.D.

分野 : 免疫アレルギー


論文リンク


論文タイトル

Brain-derived neurotrophic factor contributes to activity-induced muscle pain in male but not female mice.


掲載雑誌名

Brain Behav Immun.


論文内容

慢性の筋骨格系疼痛は、主に線維筋痛症と慢性腰痛症などが含まれ、これらの病態が発症と悪化する危険因子には、運動が挙げられている。これまで運動誘発性疼痛モデルマウスにおいては、運動を終了した後から4週間以上にわたって痛みが持続し、運動がかかわる慢性筋痛に特徴的な所見を有するモデルマウスであることが示唆された。運動と痛みには、免疫細胞がそれぞれ関連することが知られている。そこで、腓腹筋におけるマクロファージ関連タンパクと炎症性サイトカインの発現量を比較した結果、運動誘発性疼痛モデルマウスにおける発現量は、無処置コントロール群と比較して有意に高値を示した。マクロファージを枯渇させた結果、運動誘発性疼痛モデルマウスの痛みはほぼ完全に抑制された。IL-1βの阻害薬を運動誘発性疼痛モデルマウスの腓腹筋内へ投与した結果、痛みは抑制された。これらの結果より、骨格筋におけるマクロファージとIL-1βは運動誘発性疼痛に関与することが示唆されたが、神経系にかかわる知見は十分に得られていない。そこで本研究では、神経系の機能調節などにはたらく脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor; BDNF)が、運動誘発性疼痛に関与するか比較検討した。

 実験動物は8週齢のC57BL/6J 雌雄マウスを用いた。運動誘発性疼痛は、酸性食塩水を腓腹筋内へ繰り返し投与することと、電気刺激を用いた腓腹筋の筋収縮を組み合わせることで作製した。腓腹筋における疼痛閾値の測定には、腓腹筋へ機械的刺激を加えることにより、マウスが逃避反応を示した刺激強度を用いた。BDNFが運動誘発性疼痛に関与するか検証することを目的として、BDNF阻害剤を運動誘発性疼痛モデルマウスへ投与することで、腓腹筋における疼痛閾値の低下が抑制されるか比較検討した。群設定は、運動誘発性疼痛モデル群と、運動誘発性疼痛モデル+阻害剤群を用いた。運動誘発性疼痛モデル群には、溶媒のみを投与した。

 結果、モデルマウスの作製前において、腓腹筋における疼痛閾値は両群間に有意な差は認められなかった。運動誘発性疼痛モデルを作製することで、腓腹筋における疼痛閾値は有意に低下した。運動誘発性疼痛モデルマウスに対して阻害剤を投与することで、腓腹筋における疼痛閾値の低下は有意に抑制された。運動誘発性疼痛モデル群と、運動誘発性疼痛モデル+阻害剤群を比較した結果、両群間の差は経過とともに減少した。運動誘発性筋痛モデルマウスにおいて、BDNFが筋痛に関与する可能性が窺われた。これらの知見は、運動誘発性筋痛の治療介入方策を検証するための、基礎的知見となるものである。


受賞コメント

この度は栄誉ある賞を賜り、大変嬉しく思います。UJA関係者の皆様、Dr. Kathleen Slukaとその研究チームをはじめ、支えてくれた多くの方々にはこの場をお借りして改めて感謝申し上げます。



審査員コメント

倉島 洋介 先生

慢性の筋骨格系疼痛について、運動誘発性筋痛モデルマウスにおける免疫系の関与ついて特にマクロファージを中心に調べた論文で在り、マクロファージ、IL-1beta、BDNF経路による運動誘発性疼痛機序を種々の阻害法によって体系的に示されている。本研究の疾患モデルで得た成果をもとに、今後トランスレーショナル研究の推進による、さらなる研究の発展が見込まれ、疾患治療に結び付けてほしい。


溜 雅人 先生

本研究では、疲労代謝物とIL1βの併用が雄雌双方のマウスで脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を増加させることを見出し、BDNF-TrkBシグナルを阻害することで運動誘発性の痛みによる筋収縮閾値の低下を雄マウスで軽減することを見出しました。一方で、興味深いことに雌マウスではBDNF-TrkBシグナルを阻害することによる運動誘発性疼痛による筋収縮閾値の低下を軽減しませんでした。この発見は、性差医療や個別化医療における痛み治療の改善に寄与する可能性があり、非常に興味深い内容です。


畑 匡侑 先生

本論文は、活動誘発性筋肉痛におけるBDNFの役割について、分子メカニズムから行動結果まで包括的に調査しており、痛みの理解を大きく前進させている。痛みのメカニズムにおける性差を厳密に検証しているのは興味深く、これは個別化された痛み管理戦略の開発に不可欠な視点と考えられる。




1)研究者を目指したきっかけを教えてください

医療を学ぶなかで、治りにくい病気が多いことを実感したことがきっかけです。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

痛みで苦しむ多くの患者さんをみて、効果的な医療を提供するための仕事をしたいと思いました。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

多くの患者さんが痛みで苦しんでいます。今回の研究が病態メカニズムを解明する一助になり、効果的な治療法の確立につながることを期待しています。

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