[奨励賞] 森田 覚 / 慶應義塾大学医学部
- UJA Award
- 13 時間前
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Satoru Morita, D.M.D, Ph.D.
分野 : がん分野
論文リンク
論文タイトル
Combination CXCR4 and PD1 blockade enhances intratumoral dendritic cell activation and immune responses against hepatocellular carcinoma
掲載雑誌名
Cancer Immunology Research
論文内容
"免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、切除不能な肝細胞癌(HCC)治療に革命をもたらしたが、その効果は限られた患者にしか及ばない。HCCでのICI抵抗性の主要な原因のひとつとして、腫瘍内での樹状細胞(DC)の不足が挙げられる。本研究では、腫瘍微小環境の免疫抑制に関与するCXCL12の受容体CXCR4阻害とPD1阻害の併用療法を検証し、新たな治療可能性を探求した。
肝障害を有する同所性移植モデルおよび自然発生型HCCモデルを用い、併用療法の安全性と有効性を多角的に評価した。免疫蛍光法、フローサイトメトリー、RNAシーケンスなどの手法を駆使し、治療効果を詳細に解析した結果、抗CXCR4と抗PD1の併用療法は腫瘍の増殖を有意に抑制し、生存期間の延長をもたらすことが明らかになった。また、この併用療法により、抗原提示細胞が再プログラム化され、HCC微小環境におけるcDC1(従来型樹状細胞1型)の機能が回復した。これにより、CD8+ T細胞が腫瘍内に蓄積し、活性化されたことが確認され、強力な抗腫瘍免疫応答が引き起こされた。さらに、cDC1が欠損しているBatf3-KOマウスでは、この併用療法の効果が完全に消失したため、cDC1が治療の鍵となることが示された。
本研究で得られた知見は、HCCだけでなく他の癌種にも応用可能な概念的な基盤を提供する。CXCR4/PD1の併用阻害により、腫瘍内の免疫細胞を再プログラムするアプローチは、他の癌種でも抗腫瘍免疫を強化し得る可能性があり、その応用範囲や価値は高いと考えられる。この新しい治療戦略が、さまざまな癌種における免疫療法の限界を克服する一助となることが期待される。"
受賞コメント
この度は、奨励賞の授賞大変光栄に思います。これをモチベーションにまた頑張りたいと思います。
審査員コメント
平田 英周 先生
切除不能なHCCに対してCXCR4阻害/PD1阻害併用療法が免疫抑制環境をリプログラミングし、抗腫瘍免疫応答を再活性化する仕組みが詳細に解析されています。いわゆるcold tumorをhot tumorへと変換する本アプローチは他の癌種に対しても応用可能であると考えられ、今後の展開が大いに期待されます。
山田 かおり 先生
抗PD1治療の効きにくい肝細胞癌に抗CXCR4と抗PD1の併用の効果を調べた丁寧なお仕事です。特に併用治療群で癌内でのcDC1が増えていること、cDC1欠損マウスでは効果が出ないことからcDC1が標的だと確かめているあたりがとても丁寧で、信頼度を増しています。今後創薬に発展することを期待しています。
小林 祥久 先生
免疫チェックポイント阻害剤は、一部のがん患者には劇的に効く一方で効かない患者も多いため、世界中で競争の激しい最もホットながん研究領域の一つです。本研究は、biologyなしに最初から「CXCR4阻害とPD1阻害の併用療法」ありきで始まっている点が惜しいように思われますが、併用による一定の効果を示しつつ、さらにその治療検体の解析から樹状細胞の機能回復を見出した点は興味深いです。
エピソード
留学は、準備や家族の理解など超えるべきハードルが少なくありませんが、貴重な経験が得られるはずですので、是非積極的に検討ください。
1)研究者を目指したきっかけを教えてください
短期ではなく、比較的に長期に海外で生活することで得られる経験を大学生のころより考えておりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください
手術と研究を同時に携わるacademic surgeonに憧れていたため。
3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。
CXCR4とPD-1の同時阻害が肝細胞癌(HCC)に対する抗腫瘍免疫応答を強化する可能性を示唆していて、HCC治療における新たな戦略として今後の臨床応用が期待されています。
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