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[奨励賞] 清田 直樹 / Northwestern University

Naoki Kiyota, M.D., Ph.D.

分野 : イリノイ


論文リンク


論文タイトル

Glaucoma-Protective Human Single-Nucleotide Polymorphism in the Angpt2 Locus Increased ANGPT2 Expression and Schlemm Canal Area in Mice


掲載雑誌名

Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology


論文内容

緑内障は日本における失明原因の第一位であり、眼圧の上昇によって視神経にダメージを与え、視野障害を引き起こす疾患である。眼圧は房水の産生と流出のバランスによって恒常性が保たれており、シュレム管(SC)は房水の流出において重要な血管構造である。我々はこれまでに、SCの形成にANGPT(アンジオポエチン)-TEK血管シグナル伝達経路が必要であることを報告している。緑内障を対象とした大規模なゲノムワイド関連解析の結果、ANGPT2遺伝子の3'非翻訳領域に存在するヒトの単一ヌクレオチド多型(SNP)rs76020419(G>T)が、眼圧の低下および緑内障からの保護と関連していることが示されている。ANGPT2はSCで発現することが知られているが、このSNPが何故緑内障に対して保護的なのかは不明であった。我々は、CRISPR/Cas9技術を用いて、このSNPを持つマウスモデルを作成し、その影響を調査した。結果として、変異マウスではANGPT2の発現量が、血漿や眼を含む複数の組織で増加した。また、房水流出に寄与するSCが拡大し、野生型マウスと比較して眼圧が低下した。これにより、rs76020419のマイナーアレル(T)がANGPT2の発現増加を引き起こし、それがSCの拡大および眼圧の低下につながる可能性が示唆された。この研究は、緑内障の予防メカニズムを解明する上で重要な発見である。


受賞コメント

"この度はUJA奨励賞に選んで頂きありがとうございます。

今後さらなる研究の励みにしたいと存じます。"


審査員コメント

神津 英至 先生

GWASと疾患の関連のメカニズムに関しては不明な点が多いが、本研究はそれをmechanisticにin vivoで解析した点で学術的価値が高い。特に、CRISPR/Cas9を用いたマウスモデルにより、miR-145結合部位であるrs76020419多型がANGPT2発現とシュレム管形態を制御することを示した点は重要である。今後、疾患モデルでの検証にて更に緑内障の病態解明が期待され、研究的発展性も高い。論文賞に至らなかった場合は、特別賞を推薦する。


小笠原 徳子 先生

GWAS解析で指摘されたSNPの機能解析を行った実験で、QOLを著しく下げる疾患である緑内障の予防の可能性を示す重要な研究であると感じました。


氏家 直人  先生

Angpt2遺伝子領域における一塩基多型(rs76020419)がANGPT2の発現増加によるシュレム管の拡大をもたらすことを示した興味深い論文であり、緑内障に対する新規治療につながる可能性がある。今後の詳細なメカニズムの解明に期待したい。


舘越 勇輝  先生

GWASで緑内障に対して保護的作用が示唆されたSNPに着目し、遺伝子改変マウスを用いて新規の眼圧調整メカニズムを示した重要な論文である。今後、同SNPの緑内障予防における詳細な検証がなされていくものと思われ、緑内障の新規治療法の開発、ヒトにおける発症リスク層別化など、様々な面での臨床的応用も期待される。また今回使用されたモデルでは、シュレム菅に限らず肺や腎臓など様々な組織でANGPT2の発現上昇が確認された。眼圧制御のみならず、その他組織の生理機能コントロールや様々な疾患の病態生理にこのSNPが関与するのか、興味深いところである。留学開始から間もない時期でのpublicationであり、特別賞に強く推薦する。



エピソード

今回の研究では、人間の大規模なゲノム解析(GWAS)の結果をコラボレーターから提供していただき、そのデータをもとにマウスのモデルを作製し、実際の表現型(フェノタイプ)を調べました。論文自体は短い内容ですが、臨床医として「人間のデータをもとに実験モデルを検証する」という王道のアプローチができたのではないかと思います。これからも海外での留学を続けながら、さらに良い成果を報告できるよう努力を重ねていきます。


1)研究者を目指したきっかけを教えてください

もともとは眼科医なので手術をたくさん行うつもりでしたが、あるとき研究に携わる機会があり、しばらく臨床研究を続けました。その中で、「臨床研究だけでは解決しきれない部分がある」ということに気づき、大学院に入り基礎研究を始めました。当初は研究に進むつもりはなかったのですが、人生というのはどこで道が広がるか分からないものだと実感しています。最初から選択肢を狭める必要はないのかな、と思うようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

最初は顕微鏡下での細かな手術に興味があったのですが、研究に関わる機会を得たことで、そのまま目(眼科領域)の研究を続けています。特に日本では失明の原因の第1位が緑内障といわれていますので、緑内障を克服できれば多くの方の失明を防げると信じ、この分野の研究を続けています。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

緑内障は「多因子疾患」と呼ばれ、一人ひとり原因が違うかもしれないと考えられています。今回の研究では、その原因の一端となり得る遺伝変異を突き止めました。将来、この変異の有無によって治療法を選択したり、個別化した治療を提供したりできる可能性があります。

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