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[奨励賞] 石原 萌惠 / カリフォルニア大学ロサンゼルス校

Moe Ishihara, PhD

分野 : 南カリフォルニア


論文リンク


論文タイトル

Exosomes from Von Hippel-Lindau-Null Cancer Cells Promote Metastasis in Renal Cell Carcinoma


掲載雑誌名

International Journal of Molecular Sciences


論文内容

"この研究では、腎細胞癌(RCC)における転移の重要なメカニズムとして、エクソソームが果たす役割を調査しています。エクソソームは、細胞間の信号伝達を仲介する細胞外小胞であり、正常および病理的なプロセスに関与します。RCCでは、腫瘍抑制遺伝子であるvon Hippel-Lindau(VHL)遺伝子を持つ癌細胞と、VHLを持たない癌細胞間のコミュニケーションが、遠隔転移に重要な役割を果たしていることが知られています。

新しい転移モデルにおいて、VHL陰性(VHL−)の癌細胞が転移の駆動因子となり、VHL陽性(VHL+)の細胞がその信号を受け取り、より悪性な腫瘍への形質転換を引き起こすことが示されました。本研究は、VHL−細胞由来のエクソソームが、この細胞間の転移促進シグナルを媒介しているのかを明らかにすることを目的としています。

VHL+細胞とVHL−細胞から分離されたエクソソームを物理的、生化学的、そして生物学的に評価したところ、VHL−細胞はVHL+細胞に比べてはるかに多くのエクソソームを生成し、これが上皮間葉転換(EMT)やVHL+細胞の移動能力を増強させることが判明しました。さらに、Cre-loxPエクソソームレポーターシステムを用いた実験では、VHL−エクソソームの投与量に依存して蛍光色の変換や細胞の移動が促進されることが確認されました。

特に、VHL−細胞由来のエクソソームをVHL+細胞の腫瘍異種移植モデルに加えると、アヒルの卵膜尿膜(dCAM)モデルにおいて完全な遠隔転移のカスケードが誘発されました。一方、VHL+エクソソームではこの効果は観察されませんでした。

この研究により、VHL−細胞由来のエクソソームが、RCCにおける転移を促進する重要な細胞間コミュニケーションを媒介している可能性が示唆されました。これにより、エクソソームを標的とした新しい治療法の開発につながることが期待されます。"


受賞コメント

この度は奨励賞を頂戴し、誠に光栄に思います。関係者の皆様に心よりお礼を申し上げます。



審査員コメント

横田 知大 先生

本論文は、腎癌細胞が分泌するエクソソームが von Hippel-Lindau(VHL)遺伝子の有無によって異なり、その違いが癌細胞の動態に影響を及ぼすことを示した基礎研究である。特に、VHL欠損腎癌細胞が分泌するエクソソームがメタスタシスを促進することを明らかにしている。今後は、エクソソーム内容物の変化やそれに関連する機能的機序をさらに検討することで、本研究の意義が一層深まると考えられる。




1)研究者を目指したきっかけを教えてください

幼少期アトピー性皮膚炎を患っており、死にはしないけど痒みで著しく生活の質が下がる中で特に絶望的だったのが、対処療法が主で根本的な治療法がないことです。ここまで発達した現代医療でも治せないことがあるのかと思い、医者志望でしたが研究者として、今はない治療法を探す道を志すこととなりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください

皮肉なもので研究者を志してアメリカに留学に来た途端にアトピーはパッタリと無くなりました(湿気が良くなかったのかストレスなのか、環境の要因が大きかったとは思います)。アトピーを研究している研究室が身近になかったこともあり、次にやりたかった癌分野に進みました。


3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。

所属している研究室では腎臓癌の転移の新しい機序として癌細胞の不均一性(heterogeneity)に注目しています。受賞論文ではこのメカニズムの補完としてエクソソームが転移を促進する要因の一つとなることを示しました。これを以て現在は、不均一性によって生まれる癌細胞間のコミュニケーションを阻害することによって、転移を遅らせたり防いだりすることができる低分子化合物を研究しています。成功すれば癌治療の新たな一手となりうると考えています。

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