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執筆者の写真cheironinitiative

[奨励賞]黒川 遼/東京大学

更新日:4月9日

Ryo Kurokawa, M.D., Ph.D.
[分野:ミシガン]
(ADCヒストグラム解析によるグリオーマの悪性度診断)
European Radiology, 15-August-2023

概要
本論文では、高齢化に伴う骨粗鬆症とそれに関連する骨折の増加が、患者の生活の質や医療費に大きな影響を与えていることに焦点を当てています。高齢者における「老年炎症(inflammaging)」、つまり、低レベルの慢性炎症が持続する状態が骨再生の開始を妨げる原因となっていることを示しています。
論文では、骨再生プロセスと高齢者の骨治癒を促進するための免疫調節療法に関する現在の知識を検討しています。高齢化に伴うマクロファージの変化、特に炎症反応に対する感受性と反応性の増加について説明しています。炎症の急性反応中に活性化されるM1マクロファージから、組織再生に関連する抗炎症M2表現型への適切な再極化が必要であること、また高齢者においては、このM1からM2への再極化の失敗が慢性炎症を継続させ、骨吸収を増加させ、治癒中の骨形成を減少させることが指摘されています。
さらに、老年炎症が幹細胞の骨再生支援能力を損ない、加齢とともに骨量と強度の低下に寄与することも明らかにされています。したがって、老年炎症の調節は、高齢者の骨健康を改善するための有望なアプローチであるとされています。特に、間葉系幹細胞(MSC)は、炎症において骨再生を促進する免疫調節特性を持っています。炎症性サイトカインで前処理されたMSCは、分泌プロファイルと骨形成能に影響を与えます。低酸素条件下で培養されたMSCは、増殖率と成長因子の分泌が増加します。
また、抗炎症性サイトカインの局所投与による炎症の解消も、老年炎症における骨再生のための潜在的な治療法です。抗炎症性サイトカインを含むスキャフォールド、MSC、遺伝子改変MSCも治療上の可能性を持っています。MSCエクソソームは、MSCの骨折部位への移動を促進し、骨形成と血管新生を強化することができます。
結論として、論文は、老年炎症が高齢者における骨再生の適切な開始を妨げる可能性があり、老年炎症の調節は加齢に伴う骨治癒の改善に有望なアプローチであることを指摘しています。この研究は、加齢に伴う骨の問題に対する新たな光を当て、未来の治療法の開発に貢献する可能性があります。

受賞者のコメント
この度は栄誉ある賞を賜り、審査委員の先生方、共著者の先生方に感謝申し上げます。受賞いただいた論文はミシガン大学で行った研究を元にしたものですが、今後、日本で放射線科・脳神経外科のコラボレーション研究としてさらに発展させていく予定です。一層がんばりたいと思います。

審査員のコメント
鎌田 信彦 先生:
成人型びまん性グリオーマ悪制度の新たな鑑別方法の報告。応募者は、これまで困難であった組織学的に悪性度は低いが分子遺伝学的所見を持つ症例を通常のMRI像から鑑別する新たな診断法の確立した。臨床的にも重要な報告である。応募者が学位取得後2年以内に発表した論文であること、Corresponding authorを務めていることも評価できる。

坂東 弘教 先生:
MRI拡散強調画像をもちいた画像解析が成人型びまん性グリオーマのGradingに有益であることを示された研究です。通常に用いられる撮像法を用いた研究であり、日常臨床へ即座に応用できる研究結果をお示しになられています。今回の結果は診断に繋がるものですが、今後は治療への反応性などの推測に繋がる事が期待されます。なお、WHO分類の変遷をうまく研究ターゲットにされており、研究手法についても練られた研究と考えます。

清家 圭介 先生:
グリオーマはgradeによって大きく予後や治療法も異なり、gradeの早期に確定することが重要であるが、組織が必要であり、時間もかかる。著者は、MRI画像のADCヒストグラム解析の結果で、Mol-4群とMol-2/3を予測することが可能であると報告した。日常臨床で用いられているMRIによって、予後不良なグリオーマを生検や手術前に判断することができ、予後や治療戦略を早期に決定するために重要な研究である。留学後早期に本論文を発表できたこともポイントが高い。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
私は日本では放射線科医として日々全身のCTやMRIの画像診断を行ってきた臨床医ですが、苦手意識のあった神経放射線領域の勉強に集中するために、ミシガン大学では2年間神経放射線領域の研究に専念することにしました。実臨床の腕を磨く上で、学問の道に深く踏み込むことは大変重要なことです。専門的な知識が身につくことは言うまでもなく、さらに、日々の診療の中で見落としてきた重要な法則に気づくためのアンテナが自然と身に付きます。自身の研究成果によって世界の医療がレベルアップすることには大きな意義を感じます。

2)現在の専門分野に進んだ理由
日本では医学部を卒業した後に、ほとんどの医師が2年間の初期臨床研修に臨みます。2年間で内科や外科を始めとする多くの科の医療を学ぶ中で、たった1つの専門領域に絞ることを私はもったいなく感じていました。放射線診断医はCTやMRIなど現代の医療に不可欠な画像診断を介してあらゆる科の医療に携わることができる、という先輩の言葉に魅力を感じ、放射線診断の道に進みました。

3)この研究の将来性
脳腫瘍のWHO分類は、この分野の診療にかかわる世界中のすべての医師にとって共通するルールブックのようなものです。CTやMRIなどによる画像診断は、患者さんに苦痛をほとんど与えることなく、脳腫瘍の種類・悪性度・進展範囲の診断や、治療効果判定をすることができうる有望なツールです。しかしながら、分子遺伝学の発展に対して画像診断の進歩は遅れており、最も頻度の高い原発性悪性脳腫瘍であるグリオーマに対してすら、最新のWHO分類に準拠すると「どういう所見があったらグレード4(最も悪性度が高い)なのか」ということが解明されていません。本研究では、最新のWHO分類に準拠した診断のついたグリオーマのMRI所見に着目し、どのような所見があったら悪性度が高いか、という点について新たな知見を得ました。

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