top of page
執筆者の写真Jo Kubota

[特別賞]中島 啓裕/ミシガン大学

Takahiro Nakashima, M.D., Ph.D.
[分野:ミシガン]
(経皮的補助人工心臓を用いた心肺蘇生の心保護効果)
Resuscitation 6.5

概要
難治性心停止の短期および長期生存率は非常に低い。体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)の普及により蘇生率の向上を認めるも、蘇生後の心機能低下による多臓器不全のため十分な長期生存率の改善へと至っていない。近年、経皮的補助人工心臓が登場し虚血再灌流障害に対する心筋保護効果を認める報告が散見されるも、心停止に対する適応はない。本研究では、難治性心停止ブタモデルを使用し経皮的補助人工心臓 (percutaneous left ventricular assisted device; pLVAD)による心肺蘇生が自己心拍再開後の心機能障害の回復を早めるかを検討した。結果、pLVADは従来の薬剤加療と比較して心拍再開後4時間時点で心拍出量の有意な改善を認め、経皮的補助人工心臓が心肺蘇生に対して心機能保護に有用な可能性を示した。さらにpLVADによる循環動態サポートが血行動態にどのような影響を与え心機能改善につながるのかを検討したところ、左室負荷の指標である肺動脈楔入圧や左室仕事量の低下を認めたのみでなく、右室後負荷の指標である全肺血管抵抗も低下を認めた。
ECMOによる心肺蘇生は非生理的な血行動態を生み出すことから心機能障害を助長する可能性が問題視されていた。心拍再開を得られた患者のうち63-72%程度が退院することができないと報告されている。一方、pLVADは左室のみの循環補助を行う装置であり心停止に対する導入は理論的に困難と考えられていた。今回の研究結果から、pLVADは右心後負荷を軽減させる作用もあり心停止に対しても有効である可能性が示唆された。本研究では、実臨床シナリオに即し28分間の難治性心停止ブタモデルを用いており、今後は実臨床への応用が期待される。

受賞者のコメント
栄えある賞を頂きありがとうございます。自分の関わった研究が評価頂けたことはとてもうれしいです!

審査員のコメント
坂東 弘教 先生:
本研究は経皮的補助人工心臓による心肺蘇生による心拍再開後の心機能障害の回復についてブタ心臓をモデルに研究されたものです。実臨床に即した指標を検討されており、実臨床へ直結する研究と考えます。今後は臨床研究を踏まえた上で、経費的補助心臓の心停止への適応拡大も見据えうるものであり、医工連携・産業化も含め新規性の高い研究です。

三品 裕司 先生:
パンデミックでその名を知られるようになったエクモはミシガン大学の発明の一つであり、その名の通り、肺の機能を人工的に肩代わりする装置であります。経皮的補助人工心臓というのもその名の通り、体外からカテーテルを通して超小型ポンプを左心室に設置し、左心室から大動脈への拍出を補助するというものです。日本では数年前にようやっと導入され、重症心不全の治療法として注目されています。本研究はこの二つを組み合わせることで、心停止からの心拍再開後の心機能回復への効果を見たものです。報告にもある通り、左心室機能に加え右心室機能にも改善が見られたということで臨床への応用が期待されます。また、大型動物を用いた研究としての注意、苦労は大変なものであったと想像されます。倫理上、実験は全て麻酔下で行われ、4時間で観察は終了していますが、日や週のレベルで予後がどうなるのか、拍出機能の改善に加えて、組織学的、分子的に変化は見られたのか、また雌雄合わせて測定をしていますが性差は観察されたのか、など将来の解析への希望がふくらみます。

松下 祐樹 先生:
pLVADを心停止のケースにも応用するためのブタを使用した研究であり、責任著者としての仕事になります。本研究によって、pLVADの心停止への有効の可能性が示唆されており、今後実臨床への応用が期待される点において評価できます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
私の専門とする循環器救急・蘇生科学は日常臨床では“早く治療を開始すること”が重要です。私自身も”時間”の重要性を理解してはいるのですが、長年臨床を続けているうちに新しい治療法の開発、それにつながるメカニズムの発見の必要性を強く感じ研究に興味を持ちました。私の行っている研究が私が現役でいる間に実用化につながればうれしいですし、例えそうでなくても後に他の研究者のヒントになれば素敵なことだと思います。

2)現在の専門分野に進んだ理由
私は誰もが平等に寿命まで生きる権利があるべきと考えていますが、残念ながら日本では約 10万人、米国では約35万人の心停止が起きています。長時間心臓が止まることで全身の臓器は障害を残し、適切な治療が行われたとしても社会復帰までできる方は約10%弱しかいません。これらの突然の死から人々を救いたいと思いこの循環器救急・蘇生科学に進みました。

3)この研究の将来性
心停止を発症した際にすぐに人工心肺を導入することで、ポンプである心臓が停止していても全身の臓器に血液を送り保護する治療法があります。しかし、現行の治療法では心臓が自己心拍を再開する際に心臓が大きなダメージを受けることが問題です。今回の私の研究では人工心臓を用いることで心臓のダメージも小さくなることが分かりました。患者さんの社会復帰率の向上につながることを期待しています。
閲覧数:67回0件のコメント

最新記事

すべて表示

留言


bottom of page