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[特別賞]伊藤剛輝/アプライドマテリアルズ

更新日:4月17日

Takeki Itoh, Ph.D.
[分野:北カリフォルニア]

論文リンク
論文タイトル
Continuous Si doping in (010) and (001) β-Ga2O3 films by plasma-assisted molecular beam epitaxy

掲載雑誌名

APL Materials


論文内容

次世代パワー半導体材料である酸化ガリウムは非常に高い耐電圧性能を有するため、高電圧、高電流で動作する酸化ガリウムに基づくパワー半導体は、電気自動車を始め、変電設備、高速鉄道や海運への応用が期待され、高出力領域での高変換効率により電力損失を限りなく低くできます。 このような究極のパワー半導体を実現するには、高品質な酸化ガリウム結晶を作製する技術の確立は不可欠です。そこで私は非常に高い真空度と低い不純物含有量を有する特別にデザインされた結晶作製装置が必要と考えました。研究室メンバーと協力し米国防省の DURIPプログラムにより約二億円相当の予算を獲得し、酸化ガリウム結晶成長専用の分子線エピタキシー装置の新規立ち上げを主導しました。従来には達成できなかった超高真空度に加え、全自動制御と0.1秒で動作する磁気式高速シャッターの実装により、複雑なデバイス構造をも高精度に作製できるようにしました。さらに、酸化ガリウムをパワー半導体への実用化にはその電気伝導性の精密な制御が必要な為、添加元素であるシリコン原料を格納するセルの開口部に可変ニードルバルブを設けました。これによってセル内部に到達する酸素を最小限に抑えることでシリコン原料の酸化を防ぎ、酸化ガリウム結晶作製中に継続的なシリコン添加を実現しました。その上、モーター制御されたバルブ開閉を調整することで酸化ガリウムのシリコンの添加濃度の即時かつ連続的な制御を可能にし、複雑なデバイス構造を必要とする高機能パワーエレクトロニクスの実現の基礎を築きました。地球温暖化が差し迫った今現在では脱炭素化を目指す各国政府の電気自動車推進は盛んで、加えて大規模な計算力を必要とする生成AIも急速に成長することで電力の需要が急増するといった課題に対して、究極の次世代パワー半導体の実用化は電力を損失なく活用することカーボンニュートラル社会を実現する為の鍵となります。



受賞者のコメント

UJA論文賞特別賞に選出されたことを大変光栄に思います。審査員の先生方、UJA運営の皆様に感謝申し上げます。米国で半導体の研究を行う日本人の方が一人でも増えることを願って、今後も精進してまいります。

審査員コメント

Ken Hara先生

The paper reports a novel methodology to create a high quality gallium oxide which can have immense impact in high power electronics. The research was conducted under a MURI project and with equipment supported by DURIP, indicating the importance of the research. The paper is well written.


坂本 祥哉 先生

ますます需要が高まるパワー半導体の酸化ガリウムへのSiの添加方法を工夫し、高品質な単結晶薄膜を作製できることを示した論文である。本研究で開発された技術は今後のパワー半導体エレクトロニクスの発展に大きく寄与することが期待される。


トープラサートポン カシディット 先生

本論文は酸化ガリウムへシリコンをドープするための精密な技術を実証する論文であり、MBE成長手法の高度な技術が活用され、技術的に大変興味深い研究をされている。オンラインニュースで取り上げられており、また約1年半で10 citationsなど優れた論文であることは間違いない。申請書との将来性との関連性の記述がないため評価しないとする。一方、研究内容は分野内の特定の課題解決とも捉えられ、またデバイスの実証まで至っていないことから、分野の壁を超えたUJA論文賞ではやや足りない感が否めない。


エピソード

PhD留学期間にCOVIDパンデミックが直撃し、思うように実験ができない日々が続いていました。グラントに受かって新しい実験装置を購入できたのは良かったものの、サプライチェーンの混乱により装置や部品の納期が何度も伸び、さらに輸送中もトラブルが起きました。それでもラボマネージャーや同僚と協力して装置の立ち上げを実現させたことは何よりの経験でした。また、実験ができない期間に、代わりに今まであまり時間をかけていなかった理論の研究もかかわることができるようになりました。COVIDパンデミックの中でPhD卒業まで漕ぎ着けたことは、研究者としての仕事の幅を大きく伸ばしてくれたと思います。


1)研究者を目指したきっかけ

大学で研究室配属になり、日々の実験や学会参加、論文執筆等の研究活動にとことん惹かれていきました。修士で一度大学を出て企業で研究職に就きましたが、その後はアメリカの大学院で博士号を取りました。研究すること自体にとても魅力があるに尽きると思います。


2)現在の専門分野に進んだ理由
自作PCを通してCPUやGPUに興味を持ち、その性能向上を牽引する半導体先端プロセスの研究を目指すようになりました。半導体技術の進化によりノートPCがどんどん薄くなり、iPhoneを始めとするスマートフォンが出現し、今ではAIが目覚ましい発展を遂げていることが半導体研究のモチベーションを高めてくれていました。IntelやNVIDIAの発祥の地であるシリコンバレーでいつか働いてみたいという漠然とした夢も、半導体技術の研究を続けてきたことにより実現しました。

3)この研究の将来性

酸化ガリウムという半導体材料は、電気自動車の充電や風力発電等の場合における電力変換による損失を限りなく小さくする可能性を秘めており、実現すれば持続可能な社会に大きく貢献します。同時に、従来よりも電力変換デバイスのサイズや重さを数分の一に小さくし、今までになかった応用の仕方も考えられます。

4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします

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