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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]真流 玄武/ミシガン大学

更新日:4月9日

Gembu Maryu, Ph.D.
[分野:ミシガン]
(細胞核のCdk1活性動態への影響の定量化)
Cell Reports, 01-December-2022

概要
ヒトの体を構成する約60兆個の細胞はたったひとつの受精卵が体細胞分裂を繰り返し、それぞれの機能をもった細胞に分化することで形成される。真核細胞の有糸分裂時(M期)にはサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)と呼ばれるタンパク質が重要な調節因子として働くことが知られており、この分子はヒトのみならず多くの生物で保存されている。また、真核細胞の最大の特徴である細胞核は、M期に入る時にその構造が一時的に崩壊し、細胞分裂が完了すると再構成される。M期に必ず活性化されるCdk1もこの一連の過程と深い結びつきがあると考えられるため、本研究では細胞核と細胞質の空間的な隔たりによるCdk1活性への影響について研究を行った。本研究を行うにあたり、我々はアフリカツメガエルの卵の抽出液を用いた人工細胞の実験系を用いた。この系を用いることで、細胞質のみで構成される細胞(無核細胞)と、人為的に細胞核を導入した細胞(有核細胞)を作ることが可能となり、この二種類の細胞の振る舞いを直接比較することで、Cdk1活性への細胞核による空間的な隔たりの影響の定量化を試みた。Cdk1活性を可視化する手段として、新規のFöster共鳴エネルギー移動(FRET)バイオセンサーを開発し、顕微鏡画像から活性の動的変化を定量した。無核細胞ではCdk1活性の単純なオン・オフスイッチが観察された一方で、有核細胞ではの二相の活性化パターンが観察された。この二相の活性化パターンを核の形態とともに観察すると、Cdk1活性が核の再構成後から徐々に増加し、核膜の崩壊直後に無核細胞にて観察されたものと同様の急激に変化することが観察された。さらに、Cdk1と協調して働くCyclin B1と呼ばれるメッセンジャーRNA (mRNA) の濃度変化に対しても異なる応答が見られた。無核細胞ではCdk1の活性周期が調節可能であったのに対し、有核細胞では周期長の堅牢性が確認された。これらの結果から、核によってCdk1の活性が調節され、核膜崩壊等の細胞分裂期の開始タイミングと細胞周期長を一定に保つためのバッファリング機構が示唆された。

受賞者のコメント
この度はUJA特別賞という非常に名誉な賞をいただき、光栄に思っています。論文を評価してくださった審査員・UJA運営委員の先生方に、この場をお借りして御礼申し上げます。この受賞を励みにして、引き続き研究に邁進していきたいと思います。

審査員のコメント
鎌田 信彦 先生:
真核細胞の細胞分裂期におけるCdk1活性の時空間的制御機構の研究。応募者らは新規のFöster共鳴エネルギー移動(FRET)バイオセンサーと人工細胞を用いることで、細胞核による空間的隔たりがCdk1活性化を調整している事を発見した。応募者らにより開発されたエレガントな実験系を用いた革新的な研究である。

三品 裕司 先生:
細胞周期の長さがどう決まるのか、という生命の根元に迫る課題に肉薄した論文です。CDK1というタンパク質の周期的な活性化が細胞周期の進行に必須であるという今となっては古典的な生化学的知見と、細胞周期が回るごとに核膜が消失、再形成されるという中学校の教科書にも載っている細胞学的知見とを見事に関連づけたところが大変興味深く感じられました。ツメガエル卵抽出液に精子の核を加えると核膜が生ずるという人工細胞系を用い、CDK1の活性化をFRETで計時的に観察できるようにしたという実験系も合目的的で評価できます。CDK1の活性化とサイクリンB1の発現変化との関連にも言及し、最後の図に書かれた相関モデルは熱機関カルノーサイクルを彷彿とさせ、生命現象の根幹には物理法則があるのだということを再認識させるストーリーでした。カルノーサイクルは理想条件に基づくため、現実には存在しませんが、本論文で見出された物性が実際の細胞の中での生命現象として重要な働きをしているのかどうか、今後の展開が楽しみです。本論文は筆頭著者の渡米後最初の論文であり、比較的若い研究室からのPIと2名のみの論文であることからプロジェクトの推進者として八面六臂の活躍をしたことを想像させる論文でもあります。

渡瀬 成治 先生:
応募者は、試験管内にアフリカツメガエル卵抽出液を用いた人工的な細胞空間を再現し、M期CDKであるCDK1活性の詳細な定量解析を行った。特に、CDK1活性を新規開発したFRETシステムにより可視化させたことやアフリカツメガエル卵無細胞系の特性を生かして、同じ細胞質条件に核を加えた場合と加えない場合でCDK1活性にどのような変化があるかを定量比較した点は大いに評価できる。まさに応募者のこれまでの研究背景、所属する研究室の得意とする部分を存分に活かした成果であると言える。一点、今後への期待も込めてコメントさせてもらうと、論文内容の記述においてマニピュレーション的な要素がやや強調されている印象があり、細胞周期研究といった古典的な研究分野における本研究の新規性や重要性をもう少しわかりやすく説明してほしかった。今後の応募者の活躍を期待したい。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
高校生の頃に参加した故・小柴昌俊先生が主催されていた「楽しむ科学教室」にて研究者の先生方のお話を伺ううちに研究者という仕事を意識し始めたと思います。その後も大学の授業や学会などでいろいろな先生方の話を聞く中で、自分の心に強く残ったことを追いかけて行ったら研究者になっていたという感じです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
実際に手を動かして研究をしている中で新たに興味を持った方向に進んだ先に現在の分野がありました。最初は大学の学部の授業で受けた冨田勝教授のコンピューター上で細胞の状態をシミュレーションするという研究が衝撃的でシステム生物学という分野に興味を持ち、研究室に参加させてもらいました。システム生物学研究には定量的な実験データが必要であると知り、京都大学の松田道行教授・青木一洋教授のもとで生物実験を学び、細胞内にてタンパク質の活性の時間的・空間的情報が重要な役割を果たしていることを知りました。細胞の再構成というアプローチから細胞という小さな箱の構造そのものがもつ重要性を理解するために、合成生物学・生物物理学という分野で研究をしています。

3)この研究の将来性
この研究はいわゆる基礎科学と呼ばれる内容になるので、わかりやすくどのように社会に貢献できるかを明言することは難しいのですが、細胞分裂の正確性に関する研究なので、がん治療などの一助になったらとても嬉しく思います。
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