[特別賞]阿部幸喜/ノースウェスタン大学
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Kouki Abe Ph.D.
[分野:イリノイ]
論文タイトル RNA interacts with topoisomerase I to adjust DNA topology
掲載雑誌名 Molecular Cell
論文内容 トポイソメラーゼ1(Topoisomerase 1, TOP1)は、転写過程におけるDNAのトポロジカルストレスを緩和し、超らせん構造の解消を介して転写を円滑に進行させる上で必須の酵素である。しかしながら、TOP1活性を制御する分子メカニズムの理解は進んでいない。本研究では、eCLIP(Enhanced Crosslinking and Immunoprecipitation)、UV-RIP-seq (Ultraviolet-RNA immunoprecipitation)、EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)、BLI(Biolayer Interferometry)、およびin vitro プルダウンRNA結合アッセイといった複数の手法を用いることで、TOP1がRNA結合タンパク質であることを示した。 我々は、TOP1がin vitroおよび細胞内でRNAと直接相互作用することを示し、さらにTOP1に結合するRNAの大部分がmRNAであることを明らかにした。加えて、TOP1のRNA結合モチーフを欠失させた変異体を用いた解析ならびにTOP1cc-seq法によるゲノムワイドな解析により、RNAがRNAポリメラーゼIIの転写時にTOP1活性を負に制御することを解明した。また、DNAスーパーコイルアッセイおよび磁気ピンセットにより、RNAがTOP1のトポイソメラーゼ活性を抑制する分子メカニズムを実証した。 これらの成果は、RNAが転写におけるDNAのトポロジカルストレスを調節する上でTOP1と協調的に機能する新規メカニズムを示唆している。本研究は、RNAポリメラーゼII依存的な転写ダイナミクスにおけるRNAとTOP1の分子レベルでの協働の重要性を明らかにし、転写制御の基盤となる基本原理の理解を進展させる。将来的に、TOP1に対するRNAの結合を薬剤やタンパク質により制御し、既にFDAに認証されているTOP1 阻害薬と同様に、癌治療への臨床応用が可能な分子群を同定することを目指す。
受賞者のコメント
このたびは特別賞に選出いただき、誠に光栄に存じます。大変嬉しく思っております。今後も一層精進し、より興味深い発見を追求していきたいと思います。
審査員のコメント
牛島 健太郎 先生
本研究では、多彩な分子生物学的実験手法を駆使して、TOP1の活性盛業機構を明らかにしています。特に、RNAポリメラーゼIIの転写時にRNAがTOP1に作用してその活性を負制御するpathwayは画期的な発見です。考察で述べられている通り、このRNA-TOP1の相互作用部位を標的とする新規抗がん薬が創出されることを期待します。
小笠原 徳子 先生
2024年度、Sci Advと本申請論文の二つの筆頭著者としての仕事を高く評価します。二つの論文を合わせて拝読しましたが、申請論文の結果として得られたTOP1の新規調節機構の発見は調節しているRNAはmRNAの割合が最も多いものの、がん細胞がDoG RNAを介してTOP1と相互作用してDNAのトポロジーに影響している可能性を示唆するもので、がん治療に治療標的としてのRNAという新しい概念を提供するものであると考えます。また申請論文中の実験系はRNAを扱うため技術を要するものが多く、dry的な解析からwetの実験まで幅の広い研究を行って、まとめていることも高評価の理由の一つです。
高田 望 先生
RNAがDNAのトポロジーを動的に調節するという観察結果を詳細な分子基盤をもとに報告している。TOP1の変異体を用いた解析に加えて、生化学的な方法で機序の探索や機能評価をその裏付けとして示している。基本原理を明らかにする本研究は近年注目されているRNA結合阻害薬など、癌治療を含めた応用研究としても期待できる。申請者の専門である、がんにおける転写調節機構のご研究を発展させる重要な成果と考えられる。話題性のある論文であることから特別賞にも推薦致します。
青井 勇樹先生
大腸がん治療薬の標的として知られるTOP1タンパク質がRNAと相互作用することによってその機能を調節することを示した基礎研究。ゲノムDNAのねじりを解消するTOP1の酵素活性がRNAの存在化で抑えられることを生化学と生物物理学の手法を用いて示した。RNAポリメラーゼIIによる遺伝子の転写が活発な領域(したがってRNA密度が高い領域)でTOP1の活性が低いことがこの仕組みによって説明できる。RNAによるエピジェネティック因子の機能制御が近年になって複数例発見されたなか、DNAのトポロジーを操るTOP1もその仲間に加わったことは興味深い。より効果的なTOP1阻害剤の開発への応用が期待できる。
エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
細胞接着分子 L1-CAM の高解像度一分子イメージングの観察が、研究者を志すきっかけとなりました。幸運にも、担当教員による熱心かつ継続的な細やかな指導を受けることができ、その支援が研究に対する理解を深めるとともに、科学的探究心を育む重要な要素となりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
DIPGにおけるノンコーディングRNA CCDC26 のゲノム重複に関する研究を開始したことが契機となり、RNA研究の分野に進むこととなりました。この研究を通じて、ノンコーディングRNAが遺伝子発現調節や細胞機能に与える影響の重要性を認識し、RNA生物学の複雑さと可能性に対する関心が深まりました。
3)この研究の将来性
転写機構の更なる理解の促進と、癌治療への貢献が期待できます。
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