Yoshinari Nakatsuka, M.D., Ph.D.
[分野:ミシガン]
(緑膿菌は好中球のNO代謝を利用して殺菌を回避する)
Cell Reports, 29-August-2023
概要
緑膿菌は免疫抑制状態や慢性肺疾患患者の呼吸器感染における重要な病原体であり、幅広い抗菌薬に対して抵抗性を示すため、しばしば難治性の肺炎や慢性感染を生じる。肺に緑膿菌感染が成立する過程において、好中球による殺菌の回避が特に重要なステップであることが示されているが、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。今回我々は、全ゲノムを網羅する300,000種類の緑膿菌トランスポゾン挿入変異体を集積したライブラリをマウス肺に感染させ、肺内での各種変異体の量的変化を次世代シークエンシングで評価することによるin vivoスクリーニングを行い、緑膿菌が好中球に抵抗するために必要な因子の同定を図った。その結果、好中球に対する抵抗性に大きく寄与する因子として、亜硝酸イオン(NO2-)をアンモニウムイオン(NH4+)に変換する酵素であるnirDを同定した。そこでnirD遺伝子単一欠損緑膿菌株を新規に作成して感染させた結果、nirD欠損株は野生型株に比べ肺から速やかに排除されることが分かった。さらに、in vitroの実験により、nirDを介して産生されるNH4+によって、好中球内でのphagosome成熟が阻害され、緑膿菌が殺菌性の強いlate phagosomeの環境を回避して、より生存しやすいearly endosome内に留まる可能性が示された。NirDの基質であるNO2-は、肺内では主に好中球などの免疫細胞がinducible nitric oxide synthase (iNOS)を介して合成するNOの酸化によって生成される。そこで好中球でのみiNOSを欠損するマウスを作成してnirD変異株と野生型株を肺に感染させたところ、菌量の差を認めなかった。即ちnirDを用いた殺菌の回避は、好中球に発現するiNOS依存性であることが分かった。一般にiNOSは好中球の活性化や殺菌能に寄与する因子と考えられているが、本研究の結果、緑膿菌はiNOSの機能を利用して宿主体内での生存を図っていることが明らかとなった。
受賞者のコメント
この度は論文賞に選出頂き、大変光栄に存じます。審査員の先生方、UJA運営の皆様に心より御礼申し上げます。
審査員のコメント
鎌田 信彦 先生:
病原菌が宿主の炎症過程に産生される亜硝酸イオンを利用して好中球による殺菌を回避することを報告した興味深い報告である。応募者がCorresponding authorを務めていることも評価できる。
清家 圭介 先生:
緑膿菌感染症は免疫抑制状態の患者などで、重篤な感染症、特に肺炎を生じ、多くの抗菌薬に耐性を持つため、注意しなければならない感染症である。著者は、ほぼ全ゲノムを網羅した変異体緑膿菌を用いて、緑膿菌が好中球による殺菌回避において重要な因子nirDを発見した。本研究は、重篤になり得る緑膿菌感染症に対して、nirDに着目した新たな治療法の開発に繋がる重要な研究である。応募者が、Corresponding authorを務めていることもポイントが高い。
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