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[論文賞]兼重 篤謹/ミシガン大学

更新日:4月17日

Atsunori Kaneshige Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]

(STAT6 分解誘導薬 AK-1690 の開発)

Journal of Medicinal Chemistry


概要

転写因子の一つである Signal Transducer and Activator of Transcription 6 (STAT6) は、その発見以来、関連疾患の治療薬開発において魅力的な標的タンパク質として20年以上注目されてきました。しかし、転写因子はその性質上阻害剤の開発が困難であり、STAT6も「undruggable(阻害剤開発が不可能なタンパク質)」または「difficult-to-drug(阻害剤開発が困難なタンパク質)」の一つとして分類されてきました。これまで、STAT6の選択的な阻害は達成されていませんでした。

本研究では、弱いながらも結合親和性(Ki値3.5 μM)を持つSTAT6リガンドを出発点とし、分子デザイン、合成、および結合親和性試験を繰り返すことで、STAT6に対する結合親和性が6 nM、かつSTAT6に構造類似性の高いSTAT5に対して少なくとも85倍以上の結合選択性を持つAK-068を得ました。AK-068は細胞内で活性を示しませんでしたが、これを基盤に開発を進め、クラス初の強力かつ選択的なPROTAC STAT6分解剤AK-1690を発見しました。

AK-1690は、STAT6タンパク質を効果的に分解する能力を持ち、DC50値はわずか1 nM以下という非常に高い効率を示します。他のSTATファミリー(STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B)に対する影響は、10 μMという高濃度でもほとんどありません。また、AK-1690の単回投与により、マウス組織内のSTAT6が効率的に分解されることも確認しました。

さらに、本研究ではSTAT6と阻害剤の複合体における初の共結晶構造を決定し、両者の相互作用に関する重要な構造的知見を明らかにしました。STAT6は、喘息やアトピー性皮膚炎、がん細胞の成長を促進するマクロファージの分化など、多くの疾患との関連が報告されています。本研究で発見したAK-1690は、関連疾患におけるSTAT6の役割を解明するための強力なツールであると同時に、STAT6を標的とした治療薬開発の有望なリード化合物です。


受賞者のコメント

この度、UJA論文賞という名誉ある賞を受賞させていただき、大変光栄に思っております。ご指導いただいたミシガン大学のShaomeng Wang教授に感謝いたしますとともに、このような企画にご尽力いただいた先生方を始め、審査等を担当して下さった先生方にも、感謝を申し上げたいです。


審査員のコメント

松本真典 先生:

本研究は、STAT6という阻害剤開発が困難とされてきた転写因子に対し、選択的で強力なSTAT6分解剤を開発した点で革新的です。喘息、アトピー性皮膚炎、がんなど多岐にわたる疾患と関連があるSTAT6を標的とした本研究成果は、これらの疾患の治療法開発に直接的な影響を与えることが期待され、将来的に大きな医療的インパクトを持つ可能性があります。また、STAT6のような難治性ターゲットに対して分解剤を作製することに成功したことから、今後この技術が様々な治療法の開発に繋がることが期待されます。


黒川遼 先生:

著者らは既存のSTAT6リガンドを出発点に、構造最適化を実施し、高親和性・高選択的なSTAT6リガンドAK-068を創製、さらに、AK-068とセレブロン(CRLON)リガンドを組み合わせたPROTACアプローチにより、STAT6分解剤AK-1690を開発した。STAT6を標的とした治療薬開発の有望な化合物であり、実臨床への応用が強く期待される。


坂東弘教 先生:

STAT6は腫瘍細胞、アレルギー性疾患などに関与が知られており、近年では活性型変異の症例も報告されています。その中で、リード化合物の合成に成功されたお仕事です。今後の比較的commonな疾患から希少疾患も含めた、様々な創薬に直結しうる業績であると考えます。


真流玄武 先生:

既存のSTAT6 リガンドを出発点に、非常に特異性の高い新規リガンドの合成し、またPROTACを用いてSTAT6の分解まで繋達成された素晴らしい研究です。合成の過程が具に記述されており、化合物合成に明るくない私でも追体験をするかのように興味深く拝読させていただきました。この研究を起点にundruggableなタンパク質を標的にした阻害剤の研究が加速することに期待したいです。


杉原康平 先生:

喘息やアトピー性皮膚炎などの様々な疾患への関与が報告されているSTAT6に対する阻害剤AK-1690を開発した研究である。標的阻害剤を開発するための戦略が面白く、類似構造を持つSTATファミリーには影響しない非常に特異性が高い阻害剤開発に成功している。また、細胞実験だけでなく、動物実験においても阻害効果が評価されている。STAT6は様々な疾患に関与しているため、この阻害剤開発はSTAT6を標的とした治療薬開発に有用であると考えられる。Ph.D取得後、短期間で発表した論文であり、応募者が研究者としてキャリアアップするうえで重要な論文であると考えられる。


渡瀬成治 先生:

本論文は、これまで「undruggable(阻害剤開発が不可能なタンパク質)」または「difficult-to-drug(阻害剤開発が困難なタンパク質)」の一つとして分類されてきた転写因子STAT6に対する特異性の高い阻害剤を新規開発した非常に画期的な論文である。STAT6は、喘息やアトピー性皮膚炎、がん細胞の成長を促進するマクロファージの分化など多くの疾患との関連が報告されているため、今後、本阻害剤は基礎及び臨床研究で幅広く使用される可能性を持っている。今後の本研究の発展に期待したい。


エピソード 本研究は、Shaomeng Wang 研究室で一番最初に先生から与えられた自分のプロジェクトでした。博士課程に在籍した6年間、計7、8個ほど研究のアイデアに着手しましたが、その中で最も思い入れがあります。アメリカでのサバイバルモード全開の時期に最も時間を費やしました。比較的小さい論文にも関わらず、ケミストリー、バイオロジー、両方とも中々上手く行かず、長期に渡り論文としてまとめる事に苦労し、卒業論文でも全く触れることがなかったプロジェクトです。ミシガン大学卒業後にこうして形になったこと、Wang 先生を始め、研究室のメンバーにも感謝の思いでいっぱいです。留学を目指されてる方、是非とも留学して下さい!百害あって一利なしで言うところの、百利あって一害無しと思います。留学しよーぜ!
1)お恥ずかしながら私の場合、目指した、という明確な時期や、決意みたいなのは全くありません。ものすごく遠まわりな人生を歩んでおりますが、面白そうなことをやっていたら、いつの間にか研究者になっていました。35歳くらいで会社を辞めて博士課程の学生に戻り、そこから月日は流れて今だにポスドクという身分で、家族には本当に苦労をかけますが、好きなことを追求させてもらっていること、この場を借りて本当に感謝をしたいと思います。留学を目指す皆さん、こんなオジサンでもチャレンジしたんだから、若い皆さん、可能性しかないです!是非とも面白そうな分野に突っ込んで、自分の新しい分野を切り開いて行ってください!

2)元々は高校卒業後は地元に就職するはずの予定でした。地元の工場での仕事などを経験する中、大学に行ったらもっと面白いことを学べるのか、どんな人達に会えるのか、大学に行くにしても文系か理系どちらだろうかなどを考え始め、紆余曲折あって結局東京理科大学の薬学部に入学するに至りました。理科大で理系の仲間に出会い、そしてサイエンス全般の基礎を学びながら面白さに触れました。その後製薬会社に就職したり学生に戻ったりなど、日本とアメリカで更なる紆余曲折を経ましたが、とにかく面白そうなことをやっていたら、現在の創薬分野、ケミカルバイオロジー分野に落ち着いていました。

3)細胞の種類にもよりますが、細胞内や細胞表面には遺伝情報をもとに作られた2万種類前後の様々なタンパク質があります。タンパク質は細胞の機能にとって重要な働きをしており、タンパク質の製造、分解なども何重にも制御もされています。タンパク質は色々な病気にも関わっています。例えば細胞増殖に関連するタンパク質が結果として異常に細胞内で作られれば、細胞が増え過ぎて癌などの病気になります。ですので、特定のタンパク質に結合するなどしてそのタンパク質の機能を阻害する物質は薬として病気の治療に有用です。また、基礎研究の分野でも、タンパク質の機能を調べるためにそのような物質は有用です。本研究ではSTAT6というタンパク質に対する阻害剤開発を報告しています。STAT6は、喘息やアトピー性皮膚炎、がん細胞の成長を促進するマクロファージの分化など、多くの病気との関連が報告されています。STATファミリータンパクの性質上、阻害剤開発が困難で、本研究以前には選択的なSTAT6阻害剤の報告がありませんでした。本研究で発見したAK-1690という分子は、関連する疾患でのSTAT6の役割を解明するためにとても有用なツールになると同時に、STAT6を標的とした治療薬開発の有望なスタートラインになります。

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