[論文賞]兼重 篤謹/ミシガン大学
- UJA論文賞運営
- 4月13日
- 読了時間: 7分
更新日:4月17日
Atsunori Kaneshige Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
(STAT6 分解誘導薬 AK-1690 の開発)
Journal of Medicinal Chemistry
概要
転写因子の一つである Signal Transducer and Activator of Transcription 6 (STAT6) は、その発見以来、関連疾患の治療薬開発において魅力的な標的タンパク質として20年以上注目されてきました。しかし、転写因子はその性質上阻害剤の開発が困難であり、STAT6も「undruggable(阻害剤開発が不可能なタンパク質)」または「difficult-to-drug(阻害剤開発が困難なタンパク質)」の一つとして分類されてきました。これまで、STAT6の選択的な阻害は達成されていませんでした。
本研究では、弱いながらも結合親和性(Ki値3.5 μM)を持つSTAT6リガンドを出発点とし、分子デザイン、合成、および結合親和性試験を繰り返すことで、STAT6に対する結合親和性が6 nM、かつSTAT6に構造類似性の高いSTAT5に対して少なくとも85倍以上の結合選択性を持つAK-068を得ました。AK-068は細胞内で活性を示しませんでしたが、これを基盤に開発を進め、クラス初の強力かつ選択的なPROTAC STAT6分解剤AK-1690を発見しました。
AK-1690は、STAT6タンパク質を効果的に分解する能力を持ち、DC50値はわずか1 nM以下という非常に高い効率を示します。他のSTATファミリー(STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B)に対する影響は、10 μMという高濃度でもほとんどありません。また、AK-1690の単回投与により、マウス組織内のSTAT6が効率的に分解されることも確認しました。
さらに、本研究ではSTAT6と阻害剤の複合体における初の共結晶構造を決定し、両者の相互作用に関する重要な構造的知見を明らかにしました。STAT6は、喘息やアトピー性皮膚炎、がん細胞の成長を促進するマクロファージの分化など、多くの疾患との関連が報告されています。本研究で発見したAK-1690は、関連疾患におけるSTAT6の役割を解明するための強力なツールであると同時に、STAT6を標的とした治療薬開発の有望なリード化合物です。
受賞者のコメント
この度、UJA論文賞という名誉ある賞を受賞させていただき、大変光栄に思っております。ご指導いただいたミシガン大学のShaomeng Wang教授に感謝いたしますとともに、このような企画にご尽力いただいた先生方を始め、審査等を担当して下さった先生方にも、感謝を申し上げたいです。
審査員のコメント
松本真典 先生:
本研究は、STAT6という阻害剤開発が困難とされてきた転写因子に対し、選択的で強力なSTAT6分解剤を開発した点で革新的です。喘息、アトピー性皮膚炎、がんなど多岐にわたる疾患と関連があるSTAT6を標的とした本研究成果は、これらの疾患の治療法開発に直接的な影響を与えることが期待され、将来的に大きな医療的インパクトを持つ可能性があります。また、STAT6のような難治性ターゲットに対して分解剤を作製することに成功したことから、今後この技術が様々な治療法の開発に繋がることが期待されます。
黒川遼 先生:
著者らは既存のSTAT6リガンドを出発点に、構造最適化を実施し、高親和性・高選択的なSTAT6リガンドAK-068を創製、さらに、AK-068とセレブロン(CRLON)リガンドを組み合わせたPROTACアプローチにより、STAT6分解剤AK-1690を開発した。STAT6を標的とした治療薬開発の有望な化合物であり、実臨床への応用が強く期待される。
坂東弘教 先生:
STAT6は腫瘍細胞、アレルギー性疾患などに関与が知られており、近年では活性型変異の症例も報告されています。その中で、リード化合物の合成に成功されたお仕事です。今後の比較的commonな疾患から希少疾患も含めた、様々な創薬に直結しうる業績であると考えます。
真流玄武 先生:
既存のSTAT6 リガンドを出発点に、非常に特異性の高い新規リガンドの合成し、またPROTACを用いてSTAT6の分解まで繋達成された素晴らしい研究です。合成の過程が具に記述されており、化合物合成に明るくない私でも追体験をするかのように興味深く拝読させていただきました。この研究を起点にundruggableなタンパク質を標的にした阻害剤の研究が加速することに期待したいです。
杉原康平 先生:
喘息やアトピー性皮膚炎などの様々な疾患への関与が報告されているSTAT6に対する阻害剤AK-1690を開発した研究である。標的阻害剤を開発するための戦略が面白く、類似構造を持つSTATファミリーには影響しない非常に特異性が高い阻害剤開発に成功している。また、細胞実験だけでなく、動物実験においても阻害効果が評価されている。STAT6は様々な疾患に関与しているため、この阻害剤開発はSTAT6を標的とした治療薬開発に有用であると考えられる。Ph.D取得後、短期間で発表した論文であり、応募者が研究者としてキャリアアップするうえで重要な論文であると考えられる。
渡瀬成治 先生:
本論文は、これまで「undruggable(阻害剤開発が不可能なタンパク質)」または「difficult-to-drug(阻害剤開発が困難なタンパク質)」の一つとして分類されてきた転写因子STAT6に対する特異性の高い阻害剤を新規開発した非常に画期的な論文である。STAT6は、喘息やアトピー性皮膚炎、がん細胞の成長を促進するマクロファージの分化など多くの疾患との関連が報告されているため、今後、本阻害剤は基礎及び臨床研究で幅広く使用される可能性を持っている。今後の本研究の発展に期待したい。
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