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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 宮川和晃 /Indiana University

更新日:2021年4月6日

Kazuki Miyagawa, D.D.S., Ph.D.

破骨細胞由来IGF1はPaget's病の骨病変形成や成人の骨量維持に必要であることを発見

Osteoclast-derived IGF1 is required for pagetic lesion formation in vivo

https://insight.jci.org/articles/view/133113

JCI insight

2020年3月26日


 米国では2番目に多い骨疾患であるPaget’s病は中年期以降に局所性の骨病変を形成し、特に椎体や四肢骨に生ずる病変の進行は歩行制限をきたすほどの骨変形を示す。その病態は異常に活性化した破骨細胞による骨吸収の促進と、それにともなう骨芽細胞による過度の骨形成が認められる慢性かつ代謝性の骨疾患である。

 申請者が在籍した所属研究室ではPaget’s病の病因病態を長年にわたって解明しており、Paget’s病での骨吸収の亢進には麻疹ウイルス感染が強く関与していることをPaget’s病患者検体や破骨細胞系列の細胞のみに麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質を発現するトランスジェニックマウス(MVNPマウス)の解析で明らかにし、患者やMVNPマウス由来の破骨細胞の解析から破骨細胞より産生される局所性のインスリン様成長因子IGF1(OCL-IGF1)が高産生してことを発見した。しかしながら、OCL-IGF1の機能については生理的状態での骨代謝への影響も含めて不明だった。

 申請者らはTracp-Creを用いた破骨細胞特異的Igf1ノックアウト(Igf1-cKO)マウス、さらにMVNPマウスとIgf1-cKOマウスとを掛け合わせたMVNP/Igf1-cKOマウスを作出し、Paget’s病発症状態および生理的状態におけるOCL-IGF1の機能を検討した。老齢MVNPマウスの40%にPaget様骨病変を認めたが、MVNP/Igf1-cKOマウスでは20か月齢を経過しても病変出現を認めなかった。また、血中IGF1濃度に変動が無いにも関わらず高齢Igf1-cKOマウスは野生型マウスと比較して骨量や骨代謝回転の減少を認めた。これらの結果は、破骨細胞から産生されるIGF1がPaget’s病特有の骨病変形成に関与するだけでなく、骨吸収と骨形成のバランスによって成立する成人の生理的な骨量維持においても必要であることを示した。


受賞者のコメント:

この度は栄誉あるUJA論文賞を私に授与してくださり、大変嬉しく思っております。UJAのDirector・審査員の先生方には感謝申し上げます。この論文がElectronic publicationされた頃に帰国となりましたが、留学で得た知識・経験が大きな糧になっていることは日本で研究活動をしていても常々深く感じています。懇切丁寧にご指導くださりました栗原徳善 教授・G.D.Roodman教授、そして苦しい時にはいつも助けてくれたラボメンバーやIUPUIの仲間には心より感謝申し上げます。


審査員のコメント:

宮川氏のPostdoctoral Researcher としての業績の一つとして、今後のキャリアに重要な意義を持つ論文である。惜しむべき点は、Author contribution の研究デザイン、論文執筆として、宮川氏の記載が無いことである。総合的に、重要な医学生物的問題、高い技術力、高インパクトな結果のそろった、優秀論文賞に推薦できる論文である。(斧先生)


IGF1がPaget病の骨病変の形成に深く関わっていることを示した最初の論文である。研究デザイン、結果解釈、考察ともに理論的科学的に適切である。IGF1の作用のPaget病と正常骨代謝における違いの究明や選択的抑制法の解明が待たれる。(太田先生)


未だ病態原因が明らかにされていない骨パジェット病の病態メカニズム解明を追求していく中で、麻疹ウイルス感染が骨吸収促進に関与している、さらには破骨細胞から産生されるIGF1が骨リモデリングに関与している点を示唆した点が、病態解明に大きく寄与する事が期待できる。現在、本疾患に対しては骨吸収抑剤による対症療法しかなく、本研究を基とした治療法の開発が期待される。(北郷先生) エピソード: 骨パジェット病は中年以降において局所性に骨病変の出現を認める疾患で、これは病態モデルであるMVNPマウスも同様です。本論文はMVNPマウスの病的な破骨細胞からIGF1をノックアウトした場合に骨病変が出現するかどうかを明らかにすることが主たる目的だったので、12ヶ月齢以上のマウスを用いて解析しないといけないという苦労がありました。幸いな事に、留学して1年半を経過した頃よりマウスの表現型を確定させることができたことが今回の論文発表に繋がりました。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください  幼稚園の頃から科学と歴史に興味があり、科学は特に生物学に興味を惹かれていました。生命と物質は何が違うのだろうというのを知りたいことから研究者を目指したいと考えていました。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください  歯科大学に進学し、生化学や組織学の講義を通じて歯よりも骨に興味が向いたのが現在の分野に進んだ理由です。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。  「研究」という仕事は奥が深いです。今回はどのような状態が正常なのか、異常なのかを明らかにするための研究でした。病気の原因を明らかにするのも楽しい仕事ですが、その病気によって発生する異常はどうやって作られるのかを追ってゆくのも楽しい仕事です。

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