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[論文賞]小田紘嗣/ケルン大学

Hirotsugu Oda, M.D., Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]



論文リンク


論文タイトル

Biallelic human SHARPIN loss of function induces autoinflammation and immunodeficiency


掲載雑誌名

Nature Immunology


論文内容

我々はこの研究において、「自己炎症性疾患」と一般に呼ばれる先天性の炎症性疾患患者の遺伝学的解析を通じて、LUBACというユビキチンリガーゼ複合体が細胞死経路の調整を通じてヒト免疫恒常性において果たす役割を明らかにしました。

LUBACはHOIP・HOIL1・SHARPINのサブユニットからなり、免疫恒常性を維持する上で重要な役割を果たすことが長年認識されてきました。特にマウスモデルを用いた過去の研究から、SHARPINの欠失が皮膚ケラチノサイトの過剰細胞死を通じて重度の皮膚炎を引き起こすことが報告されていました。しかしSHARPIN欠失がヒトの免疫恒常性に及ぼす影響については不明のままでした。

我々は本研究で、SHARPIN完全欠失変異を持つ2例の患者を同定しました。彼らは自己炎症および免疫不全の症状を示すものの、予期しないことに、マウスモデルから想定される皮膚炎を一切発症していませんでした。患者検体を用いた機能解析により、TNFにより誘導される細胞死、特にアポトーシスに対する感受性が高まっていることが示されました。この結果をもとに抗TNF療法で患者1名を治療したところ、個体レベルおよび細胞レベルで自己炎症所見が完全に消失しました。

この研究は過剰な細胞死がヒトの自己炎症性疾患において重要な役割を果たすことを示しています。同経路における我々の過去のRIPK1異常症の報告(Lalaoui, Boyden, Oda, et al., 2020, Nature)と合わせ、我々はこの新たな疾患概念を’Inborn Errors of Cell Death’(先天性細胞死異常症)と名付けることを本論文において提唱しました。




受賞者のコメント

この度はUJA論文賞を受賞することができ、大変光栄に思います。今後ともチームメンバーと共に臨床免疫学・基礎免疫学の両方に貢献する研究を続けていくことができるよう、精進いたします。

審査員コメント


足立 剛也 先生

本研究は、ヒトSHARPIN完全欠失変移2症例を深く掘り下げたCNS姉妹誌としては比較的珍しいCase Reportである。患者由来細胞では、TNFスーパーファミリーによる細胞死の傾向があり、NF-κB応答が低下していた。また、SHARPIN欠損症および、SARPINとともにLUBACというユビキチンリガーゼ複合体を構成するHOIPの欠損症では、二次リンパ組織での胚中心B細胞の発達が低下していた。うち1名のSHARPIN欠損症例では、抗TNFα抗体療法によって臨床的および分子的な自己炎症所見の消失が見られており、in vitro, in vivoの遺伝学的、機能的解析により、LUBACが細胞死を介した免疫異常を防ぐ新たな役割を担っていることを明らかにしている。「細胞死」と「免疫異常」の新たな架け橋となる本研究の成果は、特定の領域にとどまらない横断的なインパクトを有するものとして極めて高く評価される。


小島 秀信 先生

本論文ではSharpin欠損により自己炎症性疾患を呈する2例を解析し、細胞死に至るメカニズムを詳細に検証しています。マウスモデルとは異なり皮膚炎症状がない一方、抗アポトーシスに重要なNF-κBシグナルの低下が認められ、アポトーシスやパイロトーシスが引き起こされることが述べられています。実際にヒトで抗TNF療法を施行し著効することが示されています。実際の症例とヒト検体での研究の重要性を改めて実感し、詳細な検証に感銘致しました。


森田 英明 先生

ヒト遺伝子異常の患者の詳細な機能解析を元に、SHARPIN遺伝子のヒト生体内での役割を明らかにした論文である。特筆すべきことに、本研究では詳細な機能解析により、患者の実際の治療に還元できる知見を得て、治療に結びつけている。また、新たな疾患概念の創出にも結びついている。


受賞者エピソード

1)研究者を目指したきっかけ

小児科医として勤務する中で免疫・炎症性疾患の患者の分子病態、例えば、なぜステロイドを使うと炎症が改善するのか、なぜ細菌感染などの生体侵襲でCRPといった血清炎症マーカーが上昇するのか、といった素朴な疑問がきっかけで博士課程への進学を決意しました。その際、臨床病院に勤務しながらSan Diegoの川上敏明先生の研究室に3ヶ月留学させてもらえたことは、進路選択に大きな影響を与えました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

小児科医としての強みを活かせる分野として、特に自分の臨床経験が活かせる遺伝性炎症性疾患の研究を選択しました。遺伝性炎症性疾患は患者さんの数は少ないですが、重篤な症状が幼い頃から生じ、患者さん及びご家族の方がとても辛い思いをされることが多い疾患です。臨床を離れ研究者として勤務する中でも、世界中の共同研究者を通じて、患者さんや保護者の方と可能な限り直接意見交換することを心がけています。


3)この研究の将来性

遺伝性炎症性疾患の責任遺伝子をそれぞれの患者さんにおいてピンポイントで同定することで、患者さんの分子病態に直接作用する阻害剤を効果的に選択し、治療することが可能になります。


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