[論文賞] 横井 健汰/産業技術総合研究所
- UJA Award
- 1 時間前
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Kenta Yokoi, Ph.D.
[分野:サイエンスを遊ぼうの会(ヒューストン、テキサス)]
論文リンク
論文タイトル
Biocatalytic C–H oxidation meets radical cross-coupling: Simplifying complex piperidine synthesis
掲載雑誌名
Science
論文内容
有機合成化学において、位置選択的に結合を活性化し、立体選択的に官能基を導入できる不斉合成反応は必要不可欠な技術であり、新規反応・合成技術の開発は重要な研究課題である。加えて、近年の遺伝子解析・編集技術の発展を背景に、特定の基質に対して高い位置・立体選択性で官能基を導入できる酵素反応が注目されている。本研究では、酵素反応と電気化学的ラジカルカップリング反応を組み合わせることで、医薬品や天然物に含まれる二置換ピペリジン骨格の汎用的な合成方法を開発し、様々な生理活性物質の網羅的合成を達成した。具体的には、入手容易なピペリジンカルボン酸に対して、酵素反応により位置・立体選択的に水酸基を導入し、水酸基またはカルボン酸部位を活性化・ラジカルカップリング反応を適用することで、所望の方法論を開発した。結果として、酵素反応により5種類合成のビルディングブロックを調整し、医薬品・天然物を含む7種類の生理活性物質の合成を従来法よりも短工程で達成した。従来法では、二置換ピペリジン骨格を含むこれら分子の合成は異なる出発原料・合成反応を用いることで達成されていたが、本研究では、酵素反応と電気化学的ラジカルカップリング反応という最先端の合成反応技術を組み合わせることで、本骨格の汎用的合成プラットフォームの構築に成功した。本方法論が化学品や医薬品の簡便合成に利用されることを期待している。
受賞者のコメント
UJA論文賞にご選出いただき、誠にありがとうございます。有機合成化学者として、根岸先生が設立に関わられた本賞を受賞することができ、大変嬉しく思います。審査にご尽力いただきました先生方ならびに、運営に携わっておられるすべての皆様に、心より厚く御礼申し上げます。
審査員コメント
金井田 將裕先生
有機合成化学において”sp2炭素”という平面性(2次元性)を持つ炭素結合は、医薬品化合物において非常によく見られる構造的モチーフであり、その構築法はこれまでに当該分野から多くのノーベル賞受賞者を輩出したことからも成熟した領域であると言えます。その一方で、よりフレキシブル(3次元的)な結合性を有する”sp3炭素”を多く含む化合物は、従来では薬剤標的となり得なかった疾病に対してのポテンシャルが期待されているものの、その合成手法は前者と比較して限定的です。
そこで著者らは環境負荷が低く、かつ従来の有機合成化学では実現が困難な変換をリコンビナント酵素によって可能とする”Chemoenzymatic synthesis”と低環境負荷な電気エネルギーを用いた”radical cross coupling”を組み合わせることによってFDA承認薬をはじめとする5つの医薬品化合物を従来の合成法と比較して大幅な短工程/効率化をすることに成功しました。本研究は”成熟し尽くした”とも言われる有機合成化学に新たな方法論を提案するものであり、今後の医薬品合成のベンチマークと位置付けられるものであります。興味深く読ませて頂きました。
中根 ケイタ先生
この研究では、3次元脂肪族分子を誘導体化する戦略がほとんど開発されていない中で、脂肪族であり、医薬品や天然物で良く見られる構造であるpiperidine骨格に着目し、酵素を用いたL-pipecolic acid や(R)-nipecotic acid といったカルボキシル基を有するピペリジンの高効率なジアステレオ選択的なヒドロキシル化反応を見出しています。さらに、本反応とクロスカップリングを組み合わせたピペリジンの迅速的なモジュール化を達成し、医薬品リード化合物や天然物の合成中間体の調製に応用したことで、従来の合成ルートが抱えていた課題を解決しました。
有機合成化学分野において高いエナンチオ・ジアステレオ選択的なピペリジン骨格の修飾が困難である中で、この研究では開発した反応を応用したピペリジン骨格の迅速的かつジアステレオ選択的な官能基化を達成しており、新規反応開発という観点で重要な研究です。さらに対象としている置換ピペリジンは創薬研究で広く使用されている構造あるため、今後の創薬やピペラジン構造を有する有機分子を創成する研究において重要な知見になり、アカデミアだけでなく産業への波及効果も期待できます。
兼重 篤謹先生
低分子薬は、例えばキナーゼ阻害剤によく見られるように、sp2の構造を主に有することが多い。近年、よりsp3構造を有する低分子の開発が求められているものの、方法論が比較的限られていることによりsp2分子よりも圧倒的少数派である。本研究は生体触媒的 C–H 酸化とラジカルクロスカップリングを用い、低分子薬の中では最もよく登場する構造の一つであるピペリジン骨格の立体選択的かつ効率的な修飾が可能であることを報告している。低分子創薬において、リード化合物のケミカルスペースをsp3的に探索するために、非常に有用で魅力的な研究である。
1)研究者を目指したきっかけ
幼い頃からものづくりに興味があり、何か新しいことを生み出す研究者に憧れを持っていました。自分の興味や好きなこと、得意なことを突き詰めた結果、今の「化学」と「生物」を探究する研究者に辿り着きました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
薬がなぜ効くのかを知りたいと思い、薬学部を目指しました。分子レベルでものづくりができる有機化学に魅力を感じ、自分の手で合成した化合物に生理活性があるとわかったときの喜びと達成感は、何にも代えがたいものです。
3)この研究の将来性
この研究で開発した新しい合成方法が社会に広く普及し、薬を創るまでの期間が短縮されることを期待しています。
留学や研究生活にまつわるエピソード
海外で研究生活を送る中で、自分の価値観や世界観が大きく広がりました。周りの方々に多くのサポートをいただく一方で、「自分のことを決めるのは最後は自分」という責任感を持つことの大切さもあらためて実感しました。



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