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[論文賞] 近藤 泰介/慶應義塾大学

Taisuke Kondo, Ph.D.

[分野:トランスレーショナル研究・臨床医学・公衆衛生]


論文リンク


論文タイトル

Engineering TCR-controlled fuzzy logic into CAR T cells enhances therapeutic specificity


掲載雑誌名

Cell


論文内容

がん免疫療法の一つである、キメラ抗原受容体(CAR)を導入したT細胞を用いるCAR T細胞療法は、再発性・難治性の血液がんに顕著な効果を示した。しかし、固形腫瘍に対しては十分な治療効果が未だ得られていない。その一因として、CAR T細胞が腫瘍と正常組織を正確に識別できず、正常細胞を攻撃してしまうon-target off-tumor毒性が挙げられる。

本研究では、T細胞受容体(TCR)の腫瘍抗原と自己抗原の識別能力をCAR T細胞に組み込み、抗腫瘍効果と安全性を両立する新しいT細胞プラットフォームを開発した。ロボットを用いたハイスループット解析と数理モデルの予測結果から、TCRとCARを同時に刺激する条件下では、腫瘍抗原による強いTCR刺激はCARシグナルを増強する一方で、自己抗原による弱いTCR刺激はCAR T細胞機能を抑制することが明らかとなった。さらに、ヒト化マウスモデルにおいて、TCR/CART細胞は腫瘍組織を選択的に攻撃するが、正常組織への損傷を最小限に抑えることが確認された。すなわちTCRは、腫瘍では「アクセル」、 正常組織では「ブレーキ」としてCAR T細胞機能を制御することが示された。

本研究は、TCRとCARの異なる受容体シグナルの相互作用を利用したT細胞応答制御という新たな概念を提唱している。さらに、予測モデルを活用して細胞機能を最適化し、安全かつ効果的ながん免疫療法の開発戦略を示す。


受賞者のコメント

このたびはUJA論文賞を賜り、心より御礼申し上げます。留学開始後、所属ラボの閉鎖に伴う移籍やCOVID-19など、研究に専念できない状況が続きましたが、メンターおよび共同研究者のサポートにより、本研究をまとめることができました。プロジェクト開始から約5年を要しましたが、なんとか論文としてまとめられたこと大変嬉しく思っております。本受賞を励みに、今後もがん免疫療法の研究の発展に貢献できるよう、より一層精進してまいります。このたびは誠にありがとうございました。


審査員コメント


小野寺 淳先生

CARと同時に発現しているTCRに対する抗原刺激の強度が、抗腫瘍効果を増強もしくは減弱するという大変興味深い内容の論文です。CAR-T細胞療法ががん免疫療法にもたらしたインパクトは多大ですが、一方で多くの研究者がその限界や問題点にも直面しています。そんな中、研究者の盲点となりがちなCARとTCRの相互作用に着目し、AIも活用した高度な解析を加えることで、CAR-T細胞療法の効果の最大化実現に繋がる可能性を示した本研究結果に脱帽です。


清家 圭介先生

CAR-T細胞療法はリンパ腫などで高い効果を示す一方で、サイトカイン放出症候群などの副作用もあり、有効性と安全性のバランスが重要です。本研究は、同一T細胞にTCRとCARを共発現させることで、効果と安全性のバランスの向上を目指したものです。TCRとCARの相互作用は条件が複雑ですが、ロボットを用いた高スループット解析を行い、最適な組み合わせが見いだされました。今後CAR-T細胞療法における抗腫瘍効果と副作用のバランスを最適化する手法の開発につながる重要な研究です。


湯川 将之先生

CAR-Tの強さを「スイッチのON/OFF」ではなく、体の正常組織からの弱い信号で“ブレーキをかける”設計を作り、安全性を高められる可能性を示しています。今後、どの信号を使うと最も安全で安定するかを検証すれば、臨床応用が進むと期待されます。


兼重 篤謹先生

従来のCAR-T細胞療法は、固形腫瘍において標的特異性が不十分であり、正常組織への毒性が大きな課題であった。本研究は、TCRとCAR間の抑制的クロストークを利用することで、腫瘍特異性と抗腫瘍活性を両立させた新たなCAR-T細胞設計戦略を提示しており、固形腫瘍に対する高精度な免疫療法の実現に貢献する非常に有用な研究である。


1)研究者を目指したきっかけ

小さい頃から自然や生き物を観察することが好きでした。その延長で、観察にもとづく発見や仕組みを明らかにできる生命科学研究に魅力を感じました。大学・大学院に進学してからは、実際の実験によって未知の現象を捉えていく過程に面白さを感じました。また、がん免疫療法分野では得られた知見が将来的医療へ応用される可能性があり、研究者を志す大きな動機となりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

免疫学は、最先端の技術が取り入れられている熱い分野の一つです。特に私が取り組んでいる細胞移入療法は、がんを攻撃できるように免疫細胞を人工的に改造して、体内に戻す新しい治療法です。患者自身の血液から作製されるこの治療法は「生きた薬」とも呼ばれています。この研究領域は日進月歩で進化しており、従来の治療法では難しかった、がん以外の疾患にも治療効果を示し始めています。最前線の研究に身を置き、自分の研究成果が将来の医療につながる可能性に大きな魅力を感じ、この研究テーマに取り組んでいます。


3)この研究の将来性

がんを攻撃できるように患者さん自身の免疫細胞を改造するこの治療法は、すでに実用化されており、近年では自己免疫疾患への応用も進んでいます。新しい技術の開発がそのまま治療法に結びつく点も大きな特徴であり、基礎研究の成果が比較的早く社会に還元される分野です。

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