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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]湯川 将之/Cincinnati Children's Hospital

Masashi Yukawa, Ph.D.

[分野6-2:シンシナティ]
(AP-1誘導クロマチン構造変換によるヒトヘルパーT細胞活性化・分化の制御)
Journal of Experimental Medicine, January 2020

概要
免疫システムを制御する要であるヘルパーT細胞は樹状細胞からウィルスなどの抗原情報を受け取ると、活性化・分化し、サイトカイン分泌を通して免疫系全体を調節する。このT細胞活性化時には、サイトカイン遺伝子を含めた様々な遺伝子の発現がダイナミックに変化しており、エピゲノム状態の変化が重要な制御を行なっていると示されていましたが、それを起こす転写因子は同定されておらず、そのメカニズムも解明されていませんでした。
ChIP-seq, RNA-seq, ATAC-seqなどのエピゲノム解析の結果、T細胞活性化の早い段階(活性化後5 h)で多くのクロマチン領域が開いた構造(オープンクロマチン)に変化していることが分かりました。これら活性化特異的オープンクロマチン領域にはヒストン修飾H3K27acが高いレベルで存在しており、このクロマチン構造によって近傍にあるT細胞活性化に必要な遺伝子が発現することが明らかになりました。さらに活性化特異的オープンクロマチンは転写因子AP-1とそのパートナーであるNFATによって誘導されているということも明らかとなりました。
T細胞活性化が不規律に引き起こされると病気に罹ることから、AP-1によるクロマチン構造変換と疾患との関連を調べました。活性化特異的オープンクロマチンは炎症性腸疾患, 多発性硬化症, 喘息などの免疫系疾患のリスク領域と重なっていました。さらに喘息患者のT細胞に特異的なH3K4me2領域とも重なっており、活性化特異的オープンクロマチンが喘息のエピゲノム状態と関わりがあることも明らかになりました。本研究結果は転写因子AP-1によるT細胞活性化・分化の早期段階におけるクロマチン構造変換のメカニズムを明らかにし、免疫系疾患との関わりを示しました。

受賞者のコメント
どうもありがとうございます。大変うれしいです。研究のモチベーションになります!!

審査員のコメント
斧正一郎 先生:
免疫T細胞の活性化の過程で、多くの遺伝子のクロマチンがオープン状態になり、そこに転写因子のAP-1が必要であることを明らかにした、インパクトの高い論文である。この研究は、ゲノム全体の解析を行っており、影響を受ける遺伝子は免疫疾患との関りが強いことも示し、医学への貢献度の高い基礎研究である。F1000Primeでも取り上げられるなど、関連研究者の間でも評価が高いことは明らかである。応募者の湯川氏は、研究の遂行から、論文執筆まで本研究の中心的役割を担っており、留学後最初の筆頭著者の論文として、素晴らしい成果である。

武部貴則 先生:
ヘルパーT細胞という免疫の中心的プレイヤーにおいて、その活性化過程における転写因子とエピゲノム状態の変化を捉えた根源的な研究成果です。今後、様々な疾患において、免疫細胞におけるエピゲノム状態の遷移を標的として全く新しい診断や治療につながると期待されます。

中村能久 先生:
この論文では、ヒト初代ナイーブCD4-T細胞を用いて、ChIP-seq, RNA-seq, ATAC-seqによりエピゲノム解析を網羅的に行い、転写因子AP-1がT細胞の活性化とクロマチンのリモデンリングに重要な役割を果たしていることを明らかにしている。またAP-1によるクロマチン構造変化が喘息患者のT細胞の特徴と類似していることも見出しており、T細胞活性化の基礎生物学的な機構の発見のみならず臨床的意義を示している。

荒木幸一 先生:
免疫制御の重要な担い手であるヘルパーT細胞のepigenetic modificationが、活性化後どのように起こるかをChip-seq, RNA-seq, ATAC-seqを駆使して明らかにした論文です。本論文では転写因子であるAP-1が、epigenetic modificationに重要であることを示しています。また、AP-1によるT細胞の変化は、自己免疫疾患におけるゲノム上のリスク領域とも重なり、本研究の今後の臨床応用が期待されます。

エピソード
あるあるですが競合論文が出されてしまいました。その後ではもっと高いクオリティーを求められます。論文を早く出すに越した事はないです。

1)研究者を目指したきっかけ
虫とか動物が好きだったからです。”好き”なものはいろいろ調べたくなりますよね!?理科と生物の成績が良かったことも背中を後押してくれました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
正直に言って、流れです。その時々の所属で専門分野を変えてきました。自分が1番したいことだけをするのはなかなか難しいです。けれど少し違うことをするのもなんだかんだで好きになってきます。気楽にいきましょう。
3)この研究の将来性
アレルギーなどの免疫に関わる病気の原因特定や治療法の開発に役立ちます。
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