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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 神田 浩里/兵庫医療大学 


哺乳類動物の有髄神経線維における新規伝導メカニズムの発見

https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(19)30773-1#%20

Neuron

TREK-1 and TRAAK Are Principal K+ Channels at the Nodes of Ranvier for Rapid Action Potential Conduction on Mammalian Myelinated Afferent Nerves

2019 October




神経線維における活動電位の発生や伝導メカニズムは、1952年にノーベル賞受賞者であるAlan Lloyd HodgkinとAndrew Fielding Huxleyにより説明され、彼らのHodgkin-Huxley方程式は神経科学における重要な基礎的概念になっている。この方程式は、神経細胞の脱分極はナトリウムイオンが細胞外から細胞内に流入によって引き起り、再分極は細胞内のカリウムイオンが細胞外に流出することによって引き起ることを説明しており、広く一般的に認識されている。一方で、この神経線維における活動電位メカニズムは、これまでイカの巨大軸索のような哺乳類以外の生物種の神経線維によって確立されており、哺乳類の神経線維における活動電位の発生、伝導メカニズムは解明されないままであった。本研究では、ラットの有髄神経線維におけるパッチクランプ法の開発に世界で初めて成功しており、哺乳類の神経線維では再分極時に従来の定説であった電位依存性のカリウムチャネルではなく、K2P(TREK-1, TRAAK)チャネルが関与するという新たな機序を発見した。また神経線維に発現するK2Pチャネルは、再分極のみではなく、軸索部の静止膜電位への寄与、活動電位が神経線維を伝わるスピード(伝導速度)の修飾、末梢からの高頻度刺激の入力への対応するために重要な働きを担っていることを発見した。哺乳類の活動電位の伝導メカニズムはこれまで定説とされていた従来のメカニズムと大きく異なることが示され、今後この機序をもとに脱髄性疾患等の新規治療薬の開発に繋がる可能性がある。


審査員コメント 


古典的に調べられていた神経細胞の活動電位の発火やその伝達メカニズムに関する既成概念に疑問を持ち、チャレンジした研究です。独自性の高いパッチクランプ法による解析技術を組み合わせることにより、神経細胞のもつ基本的な機能において定説とは異なるK2P(TREK-1, TRAAK)チャネルの関与を示しました。哺乳類における神経活動の伝導に関する基礎研究に大きく貢献する重要な成果と考えられます。(武部先生)


本研究では、ラットの有髄神経繊維における活動電位の発生や伝達メカニズムを明らかにしています。この研究により、哺乳動物での活動電位の伝達メカニズムが従来考えられていた機構と大きく異なることが示されました。今後の研究分野に大きく貢献する仕事です。(行川先生)


受賞コメント

この度はUJA outstanding paper awardを頂戴し光栄に思います。この研究はアクセプトまでトータル4年ほど費やしましたが、研究成果にこのような評価を頂き大変うれしく思っております。この研究内容は神経線維の基本的な活動電位のメカニズム関する発見で、この賞をきっかけとして幅広い分野の方々に目にしてもらい、様々な議論もしくは理解に繋がれば幸いです。論文賞に携わる皆様、二人三脚でサポートして頂いたDr.Guに心から感謝申し上げます。この賞を励みに科学の発展にすこしでも寄与できるよう、精進してまいります。


エピソード

Competitorの存在が論文のエピソードではよくされていると思います。しかし、私の研究は半世紀前にほぼ解明されており、今回とても特殊な技法で見つけた新たな現象になります。なので、プロジェクト開始からゆっくり4年かけて(途中半年以上の空白もありました)こつこつ解明を積み上げていきました。たまには振り出し近くに戻ったり、Reviewerに聞かれそうなコメントに対しあらかじめ対策したり等、ホットトピックでは考えられないような時間の費やし方をしておりました。論文を投稿し、いざ蓋を開けてみると、アクセプト2か月後に某ノーベル賞受賞ラボから同様の内容がアクセプトされており、大変驚いたことを記憶しています。ただ内容はとてもサポーティブでしたので、現象は間違いではなかったと自信に変わる瞬間でもありました。


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