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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]端本 昌夫/エモリー大学

更新日:2023年4月16日

Masao Hashimoto, Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]
(IL-2と抗PD-L1阻害の相乗効果の基盤)
Nature, 6 October 2022

概要
 CD8陽性T細胞はウイルス感染細胞やがん細胞などを体内から駆除するのに重要な役割を果たしている。しかしながらウイルス感染が慢性化した場合やがん病変が体内で定着してしまった場合、CD8陽性T細胞はPD-1を代表とする抑制性レセプターの過剰発現などに伴って機能障害 (Exhaustion)に陥った分化形態を示すようになり病態制御のブレーキになっていることが知られている。機能障害に陥ったCD8陽性T細胞を活性化する目的で、様々ながんを対象にしてPD-1とそのリガンドであるPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤が使用されていて有望な治療効果を示している。こうした背景から現在はどのようにしたらPD-1標的免疫療法の治療効果をさらに増強させられるか、ということが盛んに議論されている。
今回の研究では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)に慢性感染したマウスをインターロイキン-2 (IL-2)と抗PD-L1抗体の単独治療あるいは併用治療して免疫応答を解析した。併用療法はウイルス感染細胞駆除に相乗的な効果を示すが、この治療効果がCD8陽性T細胞の増殖に依存することをまず明らかにした。どの治療においてもLCMV抗原特異的CD8陽性T細胞の一部を形成している幹細胞的なPD-1陽性TCF1陽性CD8陽性T細胞が治療に反応してより分化したCD8陽性T細胞を供給していることがわかった。それぞれの治療後のLCMV特異的CD8陽性T細胞の分化状態を詳細に解析した結果、PD-1単独療法と比較するとこの併用療法後にはCD8陽性T細胞の転写プログラムとエピジェネティックプログラムが変化しており、併用療法後のCD8陽性T細胞はより機能的なエフェクターCD8陽性T細胞に近い特徴を獲得していた。さらに観察された相乗効果にはIL-2レセプターα鎖(CD25)に結合するIL-2を治療に用いる必要があることを示した。
この研究は、①IL-2と抗PD-L1併用療法を用いることにより慢性ウイル感染やがんでExhaustionの分化形態に陥るCD8陽性T細胞をより機能的なものにすることができる、②そのためにはIL-2レセプターα鎖(CD25)に結合するIL-2を治療に用いる必要がある、という二点において今後のPD-1を標的とした併用療法の臨床応用に大きな影響を与えるものである。

受賞者のコメント
時間はかかりましたが、研究の結果を一つの形として残せたのでほっとしました。

審査員のコメント
足立剛也 先生:
PD-1阻害薬とIL-2併用療法との相乗効果を、CD25, CD122, CD132等のIL-2受容体を介した反応を介して明確にした基盤的な成果である。マウスにおけるリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)感染症だけでなく、ヒト及びその他の疾患にも適用可能な重要な発展的な研究内容であり、分野を超えた大きなインパクトを有し、論文賞に合致するものと極めて高く評価される。

倉島洋介 先生:
慢性ウイルス感染やがん細胞の駆除に重要なCD8陽性T細胞の活性化機構についての解析から、新たに幹細胞様のCD8陽性T細胞を見出し、その機能増強機構の詳細を明らかにした重要な成果である。PD-1標的免疫療法の治療効果の増強につながる併用療法を見出したことで、今後のトランスレーショナルリサーチから、更なる発展性が非常に期待できる。

小野寺淳 先生:
PD-1の阻害とIL-2の投与を組み合わせることで、CD8+T細胞の疲弊を解除することを目指したstraightforwardな論文です。本研究では、ウイルス感染したマウスを実験モデルとして用いていますが、将来的にはヒトのがん免疫療法への応用が期待できます。分子機構として、CD25に結合できなくなるIL-2のmutantを用いているのは興味深いです。

エピソード
情報が溢れている時代なのでそれらにに安易に流されないように自分の頭で考えることを常に意識して実験を積み重ねた結果、オリジナルな仕事としてまとめることができた。

1)研究者を目指したきっかけ
医学の進歩に貢献したいから。

2)現在の専門分野に進んだ理由
臨床医時代に重要な領域だと認識したため。わかってないことが多すぎる、ということもその時に実感した。

3)この研究の将来性
免疫療法への応用(がん、慢性感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)、自己免疫疾患、臓器移植など)
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