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[奨励賞] 三浦 悠樹 / New York University

Yuki Miura, Ph.D.

[分野:神経科学・行動科学・情報科学]


論文リンク


論文タイトル

Human assembloids reveal the consequences of CACNA1G gene variants in the thalamocortical pathway


掲載雑誌名

Neuron


論文内容

私たちの脳では、大脳皮質と視床という脳領域がネットワークを形成し、互いに情報をやり取りしています。この視床-皮質回路の異常は、てんかんや統合失調症などの神経疾患と関連することが知られています。しかし、ヒトにおいてこの神経回路を分子・細胞レベルで詳細に解析することは困難でした。 本研究では、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から視床および大脳皮質を模倣した領域特異的オルガノイドを作製し、それらを共培養させることで、ヒト神経回路モデル視床皮質アセンブロイドを開発しました。このモデルを用いることで、視床と大脳皮質の神経細胞が互いに軸索を伸ばし、回路を形成しながら活動する様子を観察できます。 さらに、視床機能に重要なカルシウムチャネル遺伝子 CACNA1G に着目し、機能獲得型変異および欠損の影響を解析しました。その結果、てんかん患者由来の機能獲得型変異を導入したアセンブロイドでは視床と大脳皮質の神経活動が過剰に興奮し、一方で CACNA1G を欠損させたアセンブロイドでは軸索投射や回路形成に異常が生じることが明らかになりました。 本研究は、ヒトに特有な神経回路疾患の理解に向けた新たな実験プラットフォームを提供するものであり、将来的な治療法開発への貢献が期待されます。


受賞者のコメント

この度は、2026 UJA奨励賞を受賞することができ、大変光栄です。UJAの運営および論文賞の審査に携わっていただいた皆様に、心より感謝申し上げます。本研究は、オルガノイドやアセンブロイドの作製から疾患モデルの構築まで、共著者と時間をかけて進めてきた仕事でもあり、このような形で評価いただけたことをとてもうれしく思っています。


審査員コメント


井上 昌俊先生

本論文は、疾患リスク遺伝子 CACNA1G の機能異常が、細胞レベルのみならず回路レベルでどのような病態生理学的帰結をもたらすのかを、thalamocortical assembloidsを用いて体系的に解明した、極めて独創性の高い研究です。特に、ヒトiPS細胞由来の視床オルガノイドと皮質オルガノイドを統合し、機能的な視床皮質回路を再構成した点は、ヒト疾患関連遺伝子を回路レベルで解析するための強力な実験基盤を提示しています 。

本研究の重要な成果の一つは、異なるタイプのイオンチャネル機能不全(機能獲得型 vs. 機能喪失型)が、回路レベルで質的に異なる疾患表現型を引き起こすことを明確に示した点です。機能獲得型変異である M1531V は、T型カルシウム電流の変化を介して視床および皮質ニューロン間の相関性の高い過活動を誘導したのに対し、CACNA1G欠失(機能喪失)では、異常な軸索投射の増加と、それに伴う非相関性の過活動という、異なる回路レベルの欠陥が生じることが示されました。これは、遺伝子変異の性質が単一ニューロンの興奮性変化にとどまらず、回路構造やネットワーク動態そのものを異なる方向に歪めうることを示す、重要な概念的進展です。

さらに本論文は、視床皮質回路を「孤立した回路」としてではなく、より大きな脳内ループ回路の一部として捉える将来展望も明確に提示しています。視床皮質回路は線条体や中脳を含むGABA作動性回路と密接に連関していることから、今後これらの細胞集団を統合したassembloid系へと拡張することで、回路間相互作用から生じる創発的な病態特性を解析できる可能性が示唆されます。この点は、神経発達障害や精神疾患の理解を一段階押し上げる方向性として高く評価されます。

一方で、本研究で明らかにされた回路レベルの異常が、実際の哺乳類動物の脳内環境においてどのように発現し、行動表現型へと結びつくのかについては、今後 in vivo モデルでの検証が期待されます。移植モデルや動物モデルとの接続により、ヒト由来回路で見出された病態メカニズムの生理的・病理的妥当性がさらに強固になると考えられます。

総じて本論文は、ヒト疾患リスク遺伝子の機能異常を「細胞」から「回路」へと橋渡しする研究の模範例であり、今後の神経精神疾患研究における実験戦略と概念枠組みの両面において、極めて大きな影響を与える成果であると評価できます。


長谷川 祐人先生

本論文は、ヒト多領域アセンブロイドモデルを用いて、CACNA1G 遺伝子変異がヒト特異的な視床-皮質回路の形成および活動に与える影響を、分子・細胞・回路レベルで解析した研究です。T 型カルシウムチャネルの機能変化に応じて、視床ニューロンの活動異常や皮質との結合様式が異なる形で変調されることを示し、遺伝子変異が回路動態として顕在化する過程をヒト神経系モデルで直接可視化した点が特徴的であると思います。アセンブロイドという多細胞・多領域 in vitro モデルの有用性を明確に示した本研究は、神経発達障害や精神疾患関連遺伝子の作用機序をヒト神経回路レベルで検証するための重要な基盤を提供しており、今後のさらなる発展が期待される成果です。


岩澤 絵梨先生

視床皮質路という、多くの神経・精神疾患に関連していながらもヒトでの病態解明が困難である経路について、オルガノイド、assembloidを用いてアプローチしている大変興味深い論文です。応募者はCACNA1Gという遺伝子に着目し、M1531V variantによる癲癇、およびlossによる統合失調症に相当するフェノタイプを想定させる現象をin vitroで再現することに成功しています。ヒトにおけるpathogenic variantの検証としてのオルガノイド、assembloidというプラットフォームを証明する大変意義深い研究であると考えられます。


1)研究者を目指したきっかけ

ヒトの意識や記憶がどのように脳内で形成され、維持されているのかに関心を持ったことが、ヒトそのものをより深く理解したいと考えるきっかけでした。大学院では、筆頭著者としての最初の論文を発表できたのは博士課程の最終年度でした。時間はかかりましたが、その過程で綺麗なデータが得られたり、小さな成功を一つひとつ積み重ねていく経験を通して、将来も研究を続け、それを仕事にしたいと考えるようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

ヒトの脳が発達する過程で、どのような異常が神経発達障害や精神疾患につながるのかを、自分の目で直接見て理解したいと考え、この研究分野に進みました。 具体的には、ヒトiPS細胞を用いて、人の脳の一部の領域を模倣した3Dモデルであるオルガノイドや、それらを複数組み合わせたアセンブロイドを作製しています。これらの実験系では、ヒトの神経細胞が立体的な構造を保ちながら形態を変化させたり、他の脳領域の細胞とつながったり、電気的な神経活動を示したりする様子を、顕微鏡下でリアルタイムに観察することが可能になります。 こうしたヒトの細胞の振る舞いを、実験室の中で長期間にわたって観察し、その動態や活動を計測できる点に、現在の研究分野の大きな魅力と可能性を感じています。


3)この研究の将来性

遺伝子変異によって引き起こされる神経発達障害や精神疾患について、ヒトの神経細胞がどのように発達し、互いにつながってネットワークを形成するのかを、オルガノイドやアセンブロイドといったモデルを用いて、まだ一部ではありますが再現できるようになってきました。この分野はまだ発展途上ですが、今後さらに技術が進むことで、医療や創薬の分野への応用が進むだけでなく、ヒトらしさといったユニークな側面の理解にも大きく貢献していくと考えられます。


留学や研究生活にまつわるエピソード

アメリカでポスドクを始める前から渡米直後、さらにポジションへの応募や現地でのインタビューに至るまで、多くの日本人研究者の方々に支えていただいてきました(現在も多くの方にお世話になっており、ここには書ききれません)。特に、仕事を通して知り合った日本人の方々とのネットワークは、自身のキャリアにとって非常に大きな意味を持つものでした。 これから海外でのポスドクや就職を考えている方には、ぜひ日本人の先輩方に積極的に連絡を取ってみることをお勧めします。最初にメールを送るのは少し勇気がいるかもしれませんが、思いがけない情報や機会につながることも多く、大きな助けになるはずです。

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