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[奨励賞] 上月 彩夏 / California Institute of Technology

Sayaka Kozuki

[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]


論文リンク


論文タイトル

Self-organization of mouse embryonic stem cells into reproducible pre-gastrulation embryo models via CRISPRa programming


掲載雑誌名

Cell Stem Cell


論文内容

本研究では、受精後初期のマウス胚に見られる三つの主要系譜(胎児本体となるエピブラスト、胎盤を形成する栄養膜、卵黄嚢を担う原始内胚葉)の自己組織化過程を、外部因子を加えずに再現する新しい胚モデルを開発した。哺乳類の胚は母体内で発生するため観察や操作が難しく、従来の幹細胞由来胚モデルは外部シグナルの添加や遺伝子過剰発現に依存していた。本研究の特徴は、CRISPRaと呼ばれるエピゲノム編集技術を用い、外因性シグナルや遺伝子導入を行わずにマウス胚性幹細胞(ES細胞)から三系譜を同時に誘導した点にある。CRISPRaはガイドRNAを介して目的遺伝子の転写を活性化し、内在的な転写プログラムを選択的に制御できる。本研究では、栄養膜系譜のCdx2と原始内胚葉系譜のGata6を標的とし、それぞれの発現を活性化するだけで、ES細胞が三系譜に対応する細胞群へ高効率に分化することを見いだした。これらの細胞を三次元培養すると、数日以内に受精後5日目に相当する立体構造が再構築され、内部に腔をもつ自然胚様の組織配置が再現された。さらにCdx2とElf5を同時に活性化すると栄養膜様細胞の成熟が進み、遺伝子発現の組み合わせにより発生過程を自在に制御できる“プログラマブル”な胚モデルとしての柔軟性が示された。本手法は、発生の自己組織化の理解を深めるとともに、先天異常や疾患モデルへの応用にもつながる新たな基盤となる。


受賞者のコメント

このような名誉ある賞をいただけて大変嬉しく思います。


審査員コメント


岩渕 真木子先生

This study provides a nice example of the effective use of a CRISPRa approach to manipulate cell fate and successfully generate self-organized pre-gastrula embryos. This methodology is potentially versatile and could be applied to manipulate a wide range of cell lineages.


渡瀬 成治先生

本研究は、CRISPR活性化(CRISPRa)を用いたエピゲノム編集のみを用いて、着床後の原腸形成前のマウス胚の三次元構造を自己組織的に再現することに成功した。この点は高く評価されるべきであると考える。このモデルは、特定の遺伝子を選択的に活性化できる“プログラマブル”な特性を有していることから、今後の発生メカニズムの解明のみならず、病理メカニズムの研究においても大きく寄与することが期待される。


牛島 健太郎先生

細胞の「物理的な混み合い」が分化のトリガーになることを示した、メカノバイオロジーの視点が非常に独創的です。個人的にとても興味深いです。


西賀 雅隆先生

CRISPRaを用いた2つの遺伝子領域の操作のみで、マウスES細胞から自然胚に似たパターンを自発的に誘導できたという点が画期的で、同様のアプローチで複数遺伝子を系統特異的に操作できるため、発生過程や形態形成の分子機構を高い解像度で解析できるプラットフォームとして期待されます


井上 己音先生

高価な成長因子に頼らず、内因的な遺伝子制御により胚モデルを作成することに成功しています。CRISPRaでGata6とCdx2の内因性エンハンサーを直接叩くことで、mESCからE5.5相当の構造(CPEMs)を自己組織化させる手法です。ターゲット遺伝子を直接過剰発現させるのではなく、遺伝子のエンハンサーをCRISPRaにより活性化させています。それにより細胞が本来持っているスプライシング等のRNA処理プロセスを介した、より生理的で自然な遺伝子発現を実現できるのだと思います。発現亢進が難しかった巨大遺伝子にも応用可能です。今後の発生学研究の実験コストを下げ、実験の実現性は向上させる素晴らしいお仕事だと感じました。シングルセル・ライブイメージングによる細胞の集団移動の解析や、マルチプレックス制御による基底膜のリモデリング検証など、エンジニアリングとしての精度と画像の美しさにも感銘を受けました 。


1)研究者を目指したきっかけ

私が研究に興味を持ったきっかけは、身近な人の病気を通して、医療や生命科学に関心を持ったことでした。特にiPS細胞などの技術によって、細胞をさまざまな種類に分化させたり、オルガノイドのような構造を作り出せる可能性を知り、細胞から組織を再現していく研究に強く惹かれました。大学で実際に研究に関わる中で、まだ分かっていない現象に対して自分で考え、試しながら理解していく過程そのものに面白さを感じ、研究を仕事にしたいと考えるようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

現在は、賞をいただいた胚発生のモデルとは一見異なる、網膜の細胞系譜解析に取り組んでいます。網膜には多様な細胞があり、それぞれ異なる役割を担っていますが、多能性を持つ細胞がオーケストラのように精密に制御されながら分化し、機能的な組織を形成していくという共通の原理があります。「1つの細胞からどのようにして多様な細胞が生まれ、秩序立って組織が作られるのか」という問いはシンプルに聞こえますが、生命の神秘に迫る奥深い魅力があると感じています。


3)この研究の将来性

これまで取り組んできた胚発生のモデルや、現在行っている網膜の細胞系譜解析は、どちらも「細胞がどのようにして秩序立った組織を作るのか」という問いを理解するためのアプローチです。この仕組みが明らかになることで、細胞を思い通りに分化させたり、オルガノイドのような組織をより正確に再現したりすることが可能になると考えられます。これは、病気のモデルの作成や再生医療の発展につながるだけでなく、将来的には失われた組織や機能を回復する新しい治療法の開発にも貢献すると考えられます。


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学生活というと特別な経験のように思われがちですが、私にとっては日常の延長のようなものでした。授業や研究の後にトレーダージョーズでお菓子やフルーツ、お花を買ってみたり、友人とご飯を食べに行ったり、そんな日々を過ごしていました。

ラボでも、学部時代のPIが日頃から私の好きなチョコレートをオフィスに置いてくれていたり、期末試験のあとにケーキを用意してくれたり、お誕生日を盛大に祝ってくれたりと、日常の中にちょっとした楽しみがありました。PIやポスドクの先輩には、日々支えていただいていたと改めて感じています。

留学は大きな挑戦というよりも、新しい環境で生活をしていくことそのものだと感じています。これから留学を目指す方にも、特別なことだけでなく、日常の中の小さな楽しみや人とのつながりを大切にしてほしいと思います。

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