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[奨励賞] 伊藤 隼哉 / 東北大学

Junya Ito, Ph.D.

[分野:ヨーロッパ]


論文リンク


論文タイトル

PRDX6 dictates ferroptosis sensitivity by directing cellular selenium utilization


掲載雑誌名

Molecular Cell


論文内容

フェロトーシスは、酸化ストレスにより生じる脂質過酸化により誘導される細胞死である。近年、がん細胞の抗がん薬感受性や、神経変性疾患の病態に関わることが知られており、これらの病気の治療標的としても世界的に大きな注目を集めている。

フェロトーシスの制御には、必須微量元素であるセレンを細胞内で有効に利用することが不可欠である。ヒトの生体にとってセレンは、酸化ストレスの制御に関わる様々なセレンタンパク質の合成に使用される。セレンタンパク質の中でも、グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)は、酸化ストレスにより酸化した脂質を解毒する機能を有しており、フェロトーシスの抑制に関わる重要な酵素である。本研究では、抗酸化酵素として知られていたペルオキシレドキシン6(PRDX6)がフェロトーシスの感受性を制御する酵素であること、そしてその機能は、従来明らかでなかった「細胞内のセレン運搬タンパク質」であることを明らかにした。PRDX6はこの役割を通じて、GPX4をはじめとするセレンタンパク質の発現量を制御し、細胞のフェロトーシスの感受性に影響を与えていることを解明した。さらに、動物試験により、がん細胞のPRDX6を欠損させると、がんの増殖が抑制され、抗がん薬の効果が向上することを見出した。またPRDX6欠損マウスでは、脳内のセレンタンパク質の発現量が減少することを見出し、PRDX6はがんの増殖や脳内でのセレン利用に重要な役割を担っていることを明らかにした。


受賞者のコメント

この度は、栄誉あるUJA論文賞に選出していただき、大変嬉しく思っております。サイエンスの面白さを改めて教えてくださった、Prof. Marcus Conradをはじめ留学先のヘルムホルツセンターミュンヘンのメンバーの皆様に深く感謝いたします。また、ご審査・運営に関わってくださったすべての先生方に心より御礼申し上げます。


審査員コメント


長谷川 祐人先生

本論文は、抗酸化酵素として知られる PRDX6 が細胞内でセレンの取り込みと利用を制御し、それが GPX4 を含むセレノプロテイン合成やフェロトーシス感受性に直結することを示した、新規の細胞死制御機構に関する研究です。この成果は、セレン・セレノプロテインを介したフェロトーシス制御という新たな概念を提示すると同時に、鉄依存性細胞死の調節機構に対する理解を深め、がんや神経疾患などフェロトーシスが関与する病態における新たな介入の可能性を示しています。PRDX6 の分子機能に着目したフェロトーシス調節戦略は、今後がん治療感受性の操作や神経保護的介入へと発展することが期待され、基礎生物学・応用医学両面での波及効果が期待される重要な論文であると思います。


加藤 明彦先生

This study reveals an unexpected role for PRDX6 in cellular defense against lipid peroxidation. Phospholipid peroxides (PLOOH) are deleterious for cells, and uncontrolled iron-dependent phospholipid peroxidation triggers ferroptosis, a type of programmed cell death. GPX4, a selenocysteine-containing enzyme, has been recognized as the crucial PLOOH reductase. In efforts to identify additional PLOOH reductases, the authors discovered that PRDX6, which was reported as a weak PLOOH reductase, plays a surprising and robust role: facilitating selenium utilization.

PRDX6 exhibits minimal PLOOH reducing activities but could not rescue the GPX4 knockout (KO) cells from ferroptosis. While PRDX6 deletion significantly decreased GPX4 expression, rendering cells more susceptible to ferroptosis. Importantly, this GPX4 reduction occurred at translational, but not transcriptional level, and supplementation of selenocysteine or inorganic selenium restored GPX4 expression. (GPX4 is a selenocysteine-containing protein.) Further analysis revealed that PRDX6 KO also reduced other selenocysteine-containing proteins. The team identified the critical cysteine residue in PRDX6 that serves as the selenium acceptor site directly influencing GPX4 expression.

These findings, supporting by meticulous experimental design, uncover a novel function of PRDX6 as a facilitator of selenium utilization, a carrier of selenium. This discovery provides new insights into cellular defense mechanism against lipid peroxidation and expands our understanding of ferroptosis regulation.


平田 英周先生

PRDX6がセレン受容タンパク質としてGPX4をなどのセレノプロテインの効率的な生合成を支えることを明らかにし、PRDX6欠損がマウス脳組織におけるGPX4の発現を低下させること、xCT阻害剤に対する感受性を高めて腫瘍増殖抑制効果を増強することを示しています。がんや様々な神経変性疾患においてフェロトーシスを標的とした治療戦略開発の基盤となり得る、極めて重要な研究成果です。


匿名審査員の先生

本論文は、フェロトーシス耐性に関与する新規分子としてPRDX6の酵素活性と脂質過酸化制御を解析した研究である。PRDX6に関する類似研究は本論文発表前に他施設から報告されており(DOI: 10.1038/s41594-024-01329-z)、本研究はそれらと整合的な知見を示している。GPX4機能を上流で制御する因子という観点からフェロトーシス制御機構の一端を明らかにしている点に意義がある。一方、トランスレーショナルな観点では大規模臨床データ解析は含まれておらず、加えてセレン代謝が全身性であることを踏まえると、臨床的意義やバイオマーカーとしての有用性については今後の検討が期待されます。


1)研究者を目指したきっかけ

身の回り、特に生体内で起きている反応メカニズムを推定し、実験により証明する過程に面白さを感じました。様々な分野のテクノロジーや研究方法に触れる機会が多いことも魅力的でした。


2)現在の専門分野に進んだ理由

生体や食品における脂質酸化の重要性を明らかにし、その意義の解明や制御方法の構築を目指して研究を行っています。私たちの身の回りに存在する様々な脂質は、生体内や食品で重要な役割を担っています。そして、脂質の酸化によって生じる過酸化脂質は、生体老化や疾病、食品劣化の原因になると考えられてきました。

そのため、その解明を目指しており、今回の研究では、生体内における脂質の酸化を制御するプロセスに重要な、生命必須元素セレンの代謝の一端を明らかにしました。


3)この研究の将来性

フェロトーシスは、酸化ストレスに関連して生じる脂質過酸化依存性の細胞死であり、アルツハイマー病などの神経変性疾患の病態や、がんの治療抵抗性などに関わることが知られ、治療標的として注目を集めている生命事象です。本研究では、抗酸化酵素の一つであるペルオキシレドキシン6(PRDX6)が、生体内の酸化ストレス制御に必要な微量元素であるセレンの細胞内での有効利用を促すという、これまで知られていなかった機能を担っており、それによってフェロトーシスを制御していることを明らかにしました。またPRDX6は、がんの増殖や脳内でのセレンの利用効率にも重要な役割を担っていることが示されました。この研究はPRDX6を標的とした新たな抗がん薬や神経変性疾患の治療薬開発につながることが期待されます。


留学中のサポートやコミュニティについて

家族間でコミュニケーションをとれるコミュニティ


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学先ではこれまで行ってきた研究領域(主に質量分析による分析化学)とは違った分野(細胞生物学)にチャレンジしました。基本的な操作から教えていただくことが多かったのですが、新たな気持で楽しむことができました。実は、今回のテーマでは当初狙っていた目的とは別のゴールに辿り着いたのですが、その過程において様々な分野の方々からアドバイスをいただくことができました。新たなフィールドにチャレンジすることで、新たな視点も生まれてくることに改めて気が付きましたし、そのような機会に恵まれたことに感謝しています。

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