[奨励賞] 佐橋 勇紀 / Cedars-Sinai Medical Center
- UJA Award
- 4 日前
- 読了時間: 5分
Yuki Sahashi, Ph.D., M.D., M.S.
[分野:南カリフォルニア 日本人研究者の会 SCJSF (南カリフォルニア)]
論文リンク
論文タイトル
Opportunistic Screening of Chronic Liver Disease with Deep-Learning–Enhanced Echocardiography
掲載雑誌名
NEJM-AI
論文内容
肝硬変や脂肪肝を中心とする慢性肝疾患は全世界で15億人以上が罹患していると推測されているが、その多くは無症状のため診断されていない 。心臓超音波検査では、下大静脈や右心房を描出する際に、隣接する肝臓の情報が内包されているが、この情報はこれまで利活用されていない。深層学習モデルにより、心エコー検査に映り込む肝臓の情報から肝硬変や脂肪肝性肝疾患を自動検出することを目的とし、通常の臨床ワークフローで行われる検査から偶発的に肝疾患をスクリーニングするモデル(EchoNet-Liver)を開発した 。トレーニングには、米国Cedars-Sinai Medical Center(CSMC)の患者24,276人から得られた約160万の心エコー動画が使用された。外部検証のため、Stanford HealthCareの患者データも使用した。モデルは複数の連続的なパイプラインを構成しており、全体の心エコー検査から、心窩部像を検出するモデル・高画質の心エコー動画を検出するモデル、肝疾患を検出するモデルから構成される。内部テスト(CSMC)では、肝硬変のAUROCが0.837、脂肪肝のAUROCが0.799であった 。外部検証においても、肝硬変のAUROCが0.830、脂肪肝のAUROCが0.769と、異なる医療機関のデータに対し高い性能が確認された 。この研究により、心エコー検査のデータを用いて、“追加の費用や手間をかけずに”肝疾患の「機会的スクリーニング」を行える可能性が示された 。これまで見過ごされてきた無症状の肝疾患患者を早期に発見し、適切な検査や治療へとつなげることが期待される。
受賞者のコメント
このたびは、栄誉あるUJA論文賞に選出いただき、大変光栄に存じます。本研究の遂行にあたり、多大なるご支援とご指導を賜りましたCedars-Sinai Medical Centerの共同研究者の皆様、ならびに日頃から研究活動を支えてくださっているすべての方々に深く感謝申し上げます。今回の受賞を大きな励みとし、AI技術を活用した新しい医療の形を社会に実装できるよう、より一層研究に邁進してまいります。
審査員コメント
矢部 貴大先生
深層学習パイプライン「EchoNet-Liver」を開発し、日常的に取得される心エコー検査画像から、慢性肝疾患(CLD)の一種である肝硬変および脂肪性肝疾患(SLD)を検出する性能を評価した研究である。大規模データを用いて学習が行われており、精度比較や検証も丁寧に設計されている点が印象的だった。このようなアプリケーション特化型のAI手法が、既存の医療データの新しい活用可能性を広げていると感じた。
田中 仁啓先生
本研究は、心エコー検査という世界的に広く実施されている既存の医療資源を活用し、深層学習によって慢性肝疾患を検出するという新規性の高いアプローチを提示した点で高く評価できる。心臓評価を目的として取得された画像から肝疾患の兆候を抽出する「機会的スクリーニング」という概念を、大規模データと外部検証を通じて実証した意義は大きく、AIを用いた診断支援の新たな可能性を示している。一方で、感度・特異度や陽性的中率の観点からは、集団スクリーニングとしての位置づけには慎重な解釈を要するが、臨床医の注意喚起やリスク層別化を支援するツールとしての価値は明確である。完成された実装モデルというより、今後の前向き検証や応用研究への重要な出発点となる研究として評価した。
継 敏光先生
本研究は、経胸壁心エコーに含まれる肝臓のsubcostal画像を、深層学習により解析し、慢性肝疾患(肝硬変および脂肪性肝疾患)を機会的にスクリーニングする手法(EchoNet-Liver) を開発・検証した後ろ向き観察研究である。循環器、消化器内科(肝臓)という診療科横断的な視点を持ち込み、未活用情報の再価値化というAI医療の理想的な応用例を提示している点も高く評価される。
辻 正樹先生
心エコー検査に含まれる肝臓の画像情報を活用し、深層学習モデルEchoNet-Liverを用いて肝硬変および脂肪性肝疾患を検出できることを示した研究である。エコー動画を用いてモデルを開発し、単施設・外部コホートの双方で安定した診断能を示している。これまで見過ごされてきたエコー情報を活用した「opportunistic screening」という発想は、慢性肝疾患患者の早期発見に貢献しうる。
1)研究者を目指したきっかけ
医療の現場では、現在の医学では早期発見が難しい病気や、見過ごされがちな疾患を持つ患者さんに直面することが少なくありません。目の前の一人の患者さんを治療する臨床医としての役割に加えて、新しい技術や診断方法を生み出すことで、将来的に世界中のより多くの患者さんを救うことができるかもしれないという可能性に強く惹かれ、研究者を志しました。これまでの常識を疑い、科学の力で新しい解決策を模索するプロセスに大きなやりがいを感じています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私の現在の研究テーマは、医療AIを活用して「すでにある検査データから、これまで見落とされていた新たな価値を引き出す」ことです。例えば、心臓の状態を調べる心エコー検査では、すぐ近くにある肝臓の一部も画面に映り込みますが、これまで肝臓の診断には十分に活用されてきませんでした。そこに最新のディープラーニング技術を組み合わせることで、本来の目的とは違う臓器の病気まで見つけ出せるという視点の転換に非常に魅力を感じています。分野の垣根を越えて、医療の効率と質を高められる点に面白さを見出しています。
3)この研究の将来性
脂肪肝や肝硬変などの慢性肝疾患は、世界中で多くの人が罹患しているにもかかわらず、初期には症状がないため、気づかないうちに進行してしまうことが多い病気です。私たちの開発したAIを用いれば、心臓の検査として日常的に広く行われている心エコーの動画を解析するだけで、同時に肝臓の異常を自動的に見つけ出すことができます。これにより、患者さんに新たな検査の負担(時間や費用など)をかけることなく、隠れた肝疾患を早期に発見し、適切な治療や予防につなげる仕組みが将来の医療現場で当たり前になることが期待されます。



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