[奨励賞] 加賀谷 さち奈 / Purdue University
- UJA Award
- 4 日前
- 読了時間: 6分
Sachina Kagaya, M.S.
[分野:INDY Tomorrow (インディアナ)]
論文リンク
論文タイトル
The price of attention: An analysis of the intersection of media coverage and public sentiments about eggs and egg prices
掲載雑誌名
Poultry Science
論文内容
米国では、2022年初頭から2023年半ばにかけて卵の小売価格が急騰した。本研究では、卵の価格変動がオンラインおよびソーシャルメディア上の談話に及ぼす影響を調査し、卵の価格と公衆の感情の関係を分析する。2019年9月から2023年8月までのオンラインおよびソーシャルメディアのリスニングデータを用いて、米国における卵の価格変動に対して発言総数(すなわち言及の数)と公衆の感情がどのように反応するかを調査した。調査の結果、卵の価格上昇と、オンライン上の議論における言及の数および公衆の感情との間には有意な相関関係が見られた。特に、卵の価格が上昇するにつれて、言及の数が増加し、公衆の感情はより否定的になった。これは、価格変動に対する公衆の感情の明確な反応を示している。しかし、卵の価格とオンラインおよびソーシャルメディアにおける注目度との関係は複雑であり、懸念の高まりのタイミングとオンラインニュースメディアの報道のタイミングをさらに研究することで、この関係性が明らかになる。重要なのは、時間軸における回帰不連続デザインを用いて、オンラインニュース報道の急増後、卵と卵の価格に関するオンラインおよびソーシャルメディアでの会話が増加する傾向があることを示したことだ。同様に、オンラインニュース報道の急増後、卵と卵の価格に関するオンラインおよびソーシャルメディアにおける公衆の感情は否定的になる傾向があることが示された。
受賞者のコメント
この度はこのような賞を受賞する機会をいただき、誠にありがとうございます。審査員・運営の皆様に深く感謝いたします。
また、研究初心者だった私をこの論文の発表まで支えてくださった留学先の教授、研究室の仲間にも、感謝の気持ちでいっぱいです。
審査員コメント
海道 宏明先生
本論文は2022-2023年のデータを使用して鶏卵価格の上昇に対する消費者マインドの変化を定量的に分析している。
分析のポイントとしては、価格上昇の消費者マインドへの負の効果を示すとともに、その効果はオンラインニュース等での取り扱いが増えることによって
媒介されていることが示唆されている。
専門分野を超えて伝わる示唆としては、実体経済(特に消費財価格)の変化が各個人の心理にいかに影響するかを定量的に分析が可能であることを
具体的に示している点である。また、主たる効果の媒介経路としてメディアの役割が示唆されている点も興味深い。
近年、社会科学ではテキストデータの使用がより広範に用いられるようになっている。本研究で用いられているQuidプラットフォームを使用したソーシャルメディアデータの使用と自然言語処理は、他の社会科学分野でも有用と考えられる。
本研究を出発点として、メディアの介在の有無や介在の形式によりどれほど異なるのか、その結果についての政策的含意など、更なる将来的な研究が待たれる。
河野 龍義先生
記憶に新しいパンデミック時期のアメリカにおける卵の小売価格急騰と公衆の感情の関係を、SNS投稿データ、オンライン記事の分析を通じて示した大変興味深い研究成果です。
卵の価格上昇に伴い公衆の感情がより否定的になる傾向があることが示されています。時間軸における回帰不連続デザインの分析から、価格よりも報道の急増がSNS上の公衆の感情悪化と関連していることが示唆される点も興味深いです。
Poultry Science はこの分野で高く評価されている専門雑誌ですが、このような社会学に近い研究はあまり掲載されないので先進的な内容で発表されている点が高く評価できます。
古川 恭平先生
本研究の特長は、卵価格という生活に密着したテーマを対象に、実際の価格データとメディア報道量やオンライン上の消費者感情を結びつけて分析している点にあります。特に、アメリカ国内の2022~2023年の価格高騰期に着目することで、価格変動が社会的にどのように認識され、議論されたのかを具体的に示しています。農業経済やフードシステム研究に、メディア分析やセンチメント分析を取り入れ、価格変動の「受け止められ方」に焦点を当てている点は新規性が高いといえます。今後は、価格変動と世論形成の時間的・因果的関係をより詳細に分析することや、他の食料品目や国・地域へ応用することで、さらに発展が期待されます。
1)研究者を目指したきっかけ
私はもともとビジネスの世界におり、アカデミア志望ではありませんでした。そのため、社会人留学として修士課程に入学した際は、修士論文を書かないプロフェッショナルコースでした。修士課程の学習を進める中で、研究機関としての大学の側面を知り研究というものに興味をもったこと、クラスメイトにPhD志望が多く刺激を受けたこと、また、急激に進行した円安の影響で留学費用が底をつきかけていたこともあり、リサーチアシスタントを始めさせてもらいました。
研究者という未知の世界に思いがけず知ることができて、当初想像していたより何倍も世界が広がったような留学でした。
2)現在の専門分野に進んだ理由
学部時代は、経済学を専攻しました。その後、食品小売の企業で働いた経験から、農業に興味を持ちました。今までに学んできた知識(経済学)とこれから知りたい興味分野(農業)をかけ合わせる形で、農業経済学の修士課程に進学しました。
私の所属した研究室では、身近な話題を研究テーマとして扱うことができる点が大きな魅力でした。この論文の研究テーマは、当時、鳥インフルエンザが猛威をふるって卵の価格が急騰しており、また、卵は需要の価格弾力性の低い性質をもつことも相まって(卵ほど、安くて栄養が豊富なタンパク源は珍しく、卵の価格が多少上がったとしても他の食品で代替することは難しい)、food insecurity(食糧不安)に関心のあった私にとっては非常に興味のある研究テーマでした。
3)この研究の将来性
オンラインメディアやSNSは、今では人々の生活に入り込んでいます。ただ、オンラインやSNS上で人々がどんな会話をしているかを量的にとらえることには、難しさがつきまといます。理由の一つとして、特にSNSでは、人々がくだけた言葉を使ったり、SNS特有の言い回しをしたりすることがあげられます。
この研究は、人々のオンライン・SNS上での会話における特定の話題に対する言及の数や、感情のポジティブorネガティブの度合いを数字化する手法を活用し、現実にリアルタイムで起きている問題(卵価格の高騰)にあてはめてたことに意義があるといえます。今後も同様の手法を用いることにより、人々の注目度や感情を数値化して把握し、原因や、他の事象との関連性を探るなどの分析に役立てられることが期待されます。
留学や研究生活にまつわるエピソード
この留学中に夫と出会いました。全く思いがけないことで、ラッキーでした。これも留学先での日本人コミュニティのおかげでつながったご縁、と感謝しています。



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