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[奨励賞] 古川 拓 / The Florey, University of Melbourne

Taku Furukawa, M.D.

[分野:オーストラリア・ニュージーランド]


論文リンク


論文タイトル

Persistent Renal Hypoxia and Histologic Changes at 4 Weeks after Cardiopulmonary Bypass in Sheep


掲載雑誌名

Anesthesiology


論文内容

人工心肺(CPB:体外循環)は多くの心臓手術に不可欠であるが、術後急性腎傷害(AKI)を高頻度に併発し、死亡や慢性腎障害のリスク上昇など予後悪化の主要因となる。これまでの研究で、CPB中には腎髄質において組織低酸素が生じることが示されており、AKIの病態の一因と考えられてきた。しかし、その低酸素が術後どの程度持続し、長期的な腎構造変化や慢性障害とどのように関連するかは不明であった。本研究では、腎の血行動態と組織学的変化を長期にわたり評価できる、独自の大型動物CPBモデルを新たに確立し、腎の組織酸素化、機能、および病理変化を4週間という長期にわたり詳細に検討した。CPB中、腎髄質の酸素分圧および腎血流は有意に低下した。術後、腎血流は早期に正常化したにも関わらず、髄質低酸素は48時間後まで持続し、皮質でも低酸素傾向が観察された。さらに、髄質・皮質双方の低酸素は4週後も続き、4週時点での腎組織では炎症、間質線維化、尿細管円柱形成など顕著な障害が認められた。これらの変化はクレアチニンや尿量といった従来の臨床指標では検出されなかった。これらの結果は、CPB後に持続する腎低酸素が心臓手術後のAKIおよび慢性腎障害への移行に深く関与する可能性を示唆し、腎酸素化を標的とした治療介入や、より感度の高い新規バイオマーカー開発の必要性を示唆している。


受賞者のコメント

素晴らしい賞をいただくことができて非常に光栄です。身が引き締まる思いです。

海外での博士課程で心血を注いだ研究であり、それを評価していただけたことは励みになります。


審査員コメント


菊池 寛昭先生

羊を用いて人工心肺が及ぼす腎虚血への影響を評価した、臨床的に重要な内容の論文と考えます。また、羊を用いた研究ということで、データを取ることがどれほど大変であったか、ぜひお話を教えていただきたいほどです。今回は腎臓に着目されておられますが、他の臓器でもどうように低酸素が及ぼす影響はあると思いますので、今後のさらなる報告を期待いたしております。


小豆島 健護先生

本論文は、手術時に人工心肺を使用した後に、腎組織の低酸素状態が長期に渡って遷延し、急性腎障害から慢性腎臓病への移行(AKI-to-CKD transition)の一因になっている可能性を提起しています。大型動物である羊を実験動物として使用し、手術4週間後に臓器障害を評価している点が、本論文の独自性および強みであると評価します。人工心肺使用後の腎機能障害に関して新しい知見を加える、チャレンジングな研究内容だと思います。今後は、本モデルを用いて治療介入実験を行うなど、メカニズムに踏み込んださらなる研究の展開が期待されます。


林 秀憲先生

本研究は、人工心肺が腎臓に及ぼす影響を、術後4週間という長い時間軸で丁寧に追跡した点が非常に優れている。血清クレアチニンや尿量といった指標では一見回復しているように見えても、腎組織では低酸素状態が持続し、炎症や線維化といった障害が残っていることを明確に示しており理解しやすい。さらに、AKIが将来的にCKDへ移行しうる背景として、低酸素の持続と線維化を病理学的にわかりやすく示した点は、CPB関連腎障害の理解を深める点で重要である。


辻 正樹先生

本研究は、心肺バイパス(CPB)が急性期のみならず、術後4週間にわたり腎髄質・皮質の持続的低酸素状態を引き起こし、間質性炎症や線維化などの組織学的腎障害と関連することを、大動物モデルで体系的に示した。血行動態や腎機能が一見回復しても、腎組織レベルでは障害が持続するという点は、AKIからCKDへの移行機序を示唆する研究である。


神津 英至先生

ヒツジを用いた人工心肺モデルにおいて、術後4週間という長期観察を行い、急性期離脱後も腎髄質のみならず腎皮質において低酸素状態が持続していることを実証した点は、臨床生理学的に極めて重要な知見です。AKIからCKDへの移行の背景にある「くすぶる組織低酸素」を捉えた本研究は、心臓血管外科術後の長期予後改善に向けた治療介入の必要性を客観的に示唆するものであり、その臨床的意義と実験系の希少性を高く評価します。


1)研究者を目指したきっかけ

中高時代の生物の授業で研究に興味を持ち、大学でも繰り返し基礎研究の魅力や重要性を教わりました。

その後医師として働く中で、日々診療している疾患のメカニズムを解明し、より多くの患者を救いたいという思いから研究を始めました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

臨床医としての診療で非常に身近な疾患であるためです。麻酔・集中治療といういわゆる急性期医療を専門としたのは、患者の状態が短い時間単位で変化するダイナミックさに魅了を感じたためです。


3)この研究の将来性

心臓手術という大きな手術をより安全に受けていただくことができる可能性があります。


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学の準備から研究生活に至るまで、予想外の出来事の連続でした。思いがけない研究成果や世界中の研究者との出会いがある一方で、指導教官の死といった厳しい経験もありました。

そんな「不確かさ」に対する不安に押し潰されそうになることもありますが、その「不確かさ」こそが海外に出ることの醍醐味であり、人を大きく成長させてくれます。

ぜひその「不確かさ」を前向きに捉え、楽しみにしながら海外へ挑戦してほしいと思います。

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