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[奨励賞] 古舘 健 / MD アンダーソン

Ken Furudate, Ph.D., D.M.D.

[分野:サイエンスを遊ぼうの会(ヒューストン、テキサス)]


論文リンク


論文タイトル

Spatial colocalization and molecular crosstalk of myofibroblastic CAFs and tumor cells shape lymph node metastasis in oral squamous cell carcinoma


掲載雑誌名

PLOS Genetics


論文内容

なぜ、ある患者さんのがんは転移し、別の患者さんは転移しないのか。これは、がん治療における長年の謎でした。この謎を解く鍵が、がん細胞の“共犯者”にあることを突き止めました。がん細胞の周囲には、がん関連線維芽細胞という細胞が存在します。これまで、この細胞はがんの進行を助けることもあれば、邪魔をすることもある、謎めいた存在でした。本研究では、組織内の遺伝子の働きを“地図”のように可視化する「空間的トランスクリプトーム解析」をはじめとする解析技術を駆使しました。その結果、特に悪性度の高い口腔がんでは、「筋線維芽細胞様(きんせんいがさいぼうよう)」というタイプのがん関連線維芽細胞(myCAF)が“共犯者”として活性化し、がんが正常組織に進展していく最前線で、がん細胞と隣り合わせに潜んでいる「犯行現場」を発見しました。この空間で、“共犯者”であるmyCAFは、コラーゲンなどを介して、がん細胞に分子の信号を送っていました。この信号を受け取ったがん細胞は、転移能力の高い性質(がん幹細胞性)を獲得し、リンパ節に転移していくというメカニズムを解明しました。さらに、この“犯行現場”から「犯人の指紋」とも言える、23個の遺伝子の特徴的なパターン(遺伝子シグネチャー)を発見しました。この指紋を調べることで、将来、患者さんのリンパ節への転移リスクや生命予後を予測する診断ツールや、この“共犯関係”そのものを断ち切る治療薬の開発が期待されます。本成果は、口腔がんのリンパ節転移に新たな理解を与え、これまで見過ごされてきた“共犯者”を標的とする、新しい個別化医療の実現に貢献するものです。


受賞者のコメント

栄誉ある賞をいただき、深く感謝いたします。臨床医として抱いた問いを、データサイエンスで解き明かす一歩となりました。この受賞を糧に、研究に精進いたします。


審査員コメント


渡邉 潤先生

口腔扁平上皮癌のリンパ節転移のメカニズム解析を目指し、Bulk, 単一細胞、空間トランスクリプトーム解析の統合解析を行った論文です。リンパ節転移を有する浸潤部ではがん関連線維芽細胞、細胞外基質、CD44などの幹細胞関連遺伝子が活性化していることを示し、予後不良群となる高リスク群を同定している。今後の研究展開でバイオマーカーとしての利用、治療標的としての開発が期待されます。


湯川 将之先生

浸潤先端でmyCAFと腫瘍が共局在する“転移ニッチ”を空間解析で提示し、ECM経由のstemness増強と23遺伝子指標を提案しています。前向き検証が進めば転移予測の実装や介入標的化が期待されます。


大原 悠紀先生

Spatial colocalization and molecular crosstalk of myofibroblastic CAFs and tumor cells shape lymph node metastasis in oral squamous cell carcinoma

B本論文は、Bioinformatics(bulk、シングルセル、空間トランスクリプトミクス)を統合的に用いて、口腔がんにおけるリンパ節転移形成と myCAFs とがん細胞の空間的近接性との関連を示した研究です。In vitro 実験も含め、データ取得や解析は丁寧に行われています。得られた知見は、myCAFs とがん細胞が近接し、myCAF によって誘導される ECM 変化や CD44 axis を介してがん細胞の幹細胞様性が高まるというものであり、これらの概念自体は先行研究とも整合的です。本研究の貢献は、これらの関係性を空間トランスクリプトミクスを含む多層的解析によって可視化し、実データとして裏付けた点にあります。また、リンパ節転移と関連する 23 遺伝子シグネチャーを同定しており、今後の臨床的検証が期待されます。


園下 将大先生

口腔扁平上皮癌のリンパ節転移に関与する腫瘍微小環境の解明を目指した論文です。オミクスデータを統合し、段階的に関与遺伝子を絞り込んでいく手法は合理的で、myCAFやその腫瘍細胞との相互作用様式を見出した価値は高く評価されます。これまでに有用な治療標的がほとんど見出されていなかった状況を打破する業績です。


1)研究者を目指したきっかけ

原点は高校時代、脳腫瘍で亡くなった親友との約束です。当時、絶対的だと信じていた医療の限界を知りました。その後、口腔外科医(歯科医師)として13年間、多くのがん患者さんと向き合ってきました。「医療の限界を一つでも二つでも破りたい」という思いが、がん研究を続ける原動力となっています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

口腔外科医(歯科医師)として、多くのがん患者さんと向き合ってきました。現在は、空間解析や癌ゲノミクス解析などの最新技術を用い、がんの転移や発症の仕組みを解明したいと思っています。臨床の問いをデータサイエンスで裏付け、再び患者さんへ還元することに、何よりの魅力を感じています。


3)この研究の将来性

がんが転移する「最前線」で、がん細胞と特定の細胞が協力し合う仕組みを解明しました。この「共犯関係」を断ち切ることで、転移を未然に防ぐ新しい治療薬の開発につながる可能性があります。また、発見した遺伝子の指標を用いることで、これまで難しかった転移のリスク予測が行えるようになります。一人ひとりの患者さんに最適な治療を選択できる医療の実現を目指しています。


留学中のサポートやコミュニティについて

私のようにキャリアの中盤で留学する臨床医にとって、帰国後のポジション確保や、臨床と研究を両立し続けるためのキャリア形成に関する支援がより充実することを切に願っています。臨床経験という強みを研究に活かし続けられる道筋が、今後の留学を目指す方々の希望になると信じています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

留学を志した当初、私には海外のネットワークも、誇れるような研究業績もありませんでした。熱意だけを綴ったメールを20の研究室に送ったところ、MDアンダーソンがんセンターの高橋康一先生が「自分で物事を進めていく稀有な能力がある」と、唯一、私の可能性を信じてくださいました。その後、10の助成金へ応募し、上原記念生命科学財団の支援を得て留学が実現しました。臨床と研究に精通した研究主催者である高橋先生のもと、新しい分野に挑戦し、がん研究に没頭しています。準備の過程で心が折れそうになる瞬間もあるでしょう。しかし、強い熱意を持ち続ければ、道は必ず拓けます。自分の可能性を信じて、一歩踏み出してください。

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