[奨励賞] 吉年 俊文 / Cincinnati Children's Hospital Medical Center
- UJA Award
- 4 日前
- 読了時間: 7分
Toshifumi Yodoshi, Ph.D., M.D.
[分野:UC Tomorrow (シンシナティ)]
論文リンク
論文タイトル
Anonymous living donation expands access and enhances equity in pediatric liver transplantation: A retrospective cohort study
掲載雑誌名
Liver Transplantation
論文内容
子どもの肝移植は、肝不全で命の危機にある子どもたちを救う最後の手段です。しかし死体肝移植のドナー不足や、ひとり親や持病を抱える親、貧困や人種など格差のため、生体ドナーになれる家族がいない小児患者は少なくありません。実際に米国では待機中の約1割の小児患者は移植を受けられずに亡くなります。2005年、トロントの移植センターに「血縁はないが子どもたちを救いたい。名前を伝えずに私の肝臓を使ってほしい」と申し出た男性が現れ、匿名ドナーによる生体肝移植が始まりました。本研究では、カナダ最大の小児肝移植センターにおける2005〜2023年の全肝移植を解析し、匿名ドナーから移植を受けた患者を検討しました。その結果、黒人や先住民、ひとり親、移植センターから遠方に住む家族、英語を第一言語としない家族など、社会的に不利とされる小児患者に、より多くの匿名ドナーからの肝臓が届けられていたことが分かりました。匿名ドナーによる生体肝移植の1年生存率は100%、10年生存率は98%と極めて良好で、この成績は親族ドナーからの生体肝移植と同等で、死体肝移植よりも良好でした。特に胆汁うっ滞性肝疾患の子どもでは、約2割早く移植待機時間を短縮しました。匿名の善意が、従来はドナーにたどり着けなかった子どもたちの命と公平性を支える新たな仕組みになり得ることを示した研究であり、世界の小児肝移植医療への重要な示唆を与えます。また移植医療政策やドナー啓発の議論にもつながると考えられます。
受賞者のコメント
この度はUJA論文賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。本研究は、カナダ最大の小児肝移植センター(SickKids)での日々の臨床現場から生まれたものです。「名前も知らない子どもたちを救いたい」という匿名ドナーの方々の無償の生体肝臓提供という善意が、これまで移植にたどり着けなかった子どもたちの命を繋いでいる事実に、私自身深く感銘を受けました。共に研究を進めてくれた同僚や指導医、そしていかなる時も笑顔で支えてくれる家族に心から感謝申し上げます。
審査員コメント
氏家 直人先生
小児肝移植における匿名生体肝移植(A-LDLT)を対象に、患者背景や移植成績との関連をまとめた報告であり、臨床現場における実態を把握するうえで有用な情報を提供していると考えられます。特に、A-LDLTが社会的背景の異なる小児患者群においてどのように利用され、待機期間や生存成績とどのような関係を示すのかを明らかにしている点は、移植医療の現状を理解するうえで参考となる知見です。これらの結果は、小児肝移植医療における提供体制やアクセスの在り方を考える際の基礎資料として位置づけられるものと考えられます。
小島 秀信先生
肝移植医療において、死体ドナーが主流である欧米においても、生体ドナーが中心である日本においても、ドナー不足は共通する重要な課題です。本研究は、現状では世界的にも限られた施設でしか実施されていない匿名ドナーによる小児生体肝移植について報告した貴重な研究であり、倫理的側面も含め大変興味深く拝読致しました。
匿名ドナーによる肝移植が普及すれば、肝移植待機中の患者死亡を減少させる可能性があります。本研究では、匿名ドナー由来の肝臓が黒人や先住民、シングルペアレント家庭、英語を母国語としない患者に多く提供されていることが示されており、社会的にも意義深いデータであると感じました。今後も、匿名ドナーによる肝移植を実施する限られた施設として、継続的に情報やアウトカムを発信していただくことが期待されます。
古橋 暁先生
本研究は、小児肝移植における非指名匿名生体肝移植(A-LDLT)が、従来の生体・死亡肝移植と比べてアクセス改善や公平性へ寄与する可能性を示したものです。 特に、 黒人・先住民、単親世帯、非英語話者など 社会的弱者集団にA-LDLTが多く用いられていたこと A-LDLT は 待機期間短縮(cholestatic疾患で20%短縮) と有意な成果が得られたこと、 1・5・10年生存率が死亡ドナー肝移植を上回る結果 といった点は、臓器提供・移植医療領域における社会的公平性(equity) の議論を前進させる可能性があります。
本研究は単一施設のレトロスペクティブ解析という限界を有するものの、移植医療における社会的背景や公平性という問題に踏みこんで、匿名生体肝移植の意義とポテンシャルを示した、非常に興味深い研究であると評価します。今後、多施設・国際的検証などを通じてさらに発展していくことを期待します。
牧野 祐紀先生
小児肝不全患者に対する匿名ドナーの有用性を示した論文であり、社会的弱者に該当し得る層の患者に対する有益性を示した社会的意義の大きな論文であると考えられます。匿名ドナーがどのような動機で臓器提供を行っているのか、その背景や臓器提供後のフォローアップに関する課題がクリアできれば有益な手段になると思います。
1)研究者を目指したきっかけ
小学生の頃に家族で観ていた海外ドラマ「ER」に登場する小児科医、Dr. Doug Rossに憧れたのが原点です。彼は社会的弱者である子どもを救うためなら、時に制度の壁にも立ち向かう熱い医師でした。
その後、実際に小児科医として働く中で、「教科書通りの治療で目の前の患者さんは救えても、今の医療の限界では将来の子どもたちを守れない」という壁にぶつかりました。その時、恩師から「本当に子どもを助けたいなら、自ら研究し、論文を書く習慣を身につけなさい」と背中を押され、臨床現場で起きている課題を解決するために研究という道へ進む決意をしました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私のテーマは「先進国や大都市に潜む、見えない医療格差(社会的決定要因:SDOH)に挑み続けること」です。
アメリカやカナダ、日本といった医療が発展している豊かな国でも、人種や貧困、家族構成、親の労働環境などによって、臓器移植や先進医療を受けられない子どもたちがいます。病気そのものだけでなく、「どのような環境で育っているか」が治療の成果や子どもたちの人生に深く関わっているのです。「事件は現場で起きている」という信念のもと、臨床の最前線に立ち続け、どんな環境に生まれた子どもたちも公平に最良の医療を受けられる社会を作りたいと考え、この分野に情熱を注いでいます。
3)この研究の将来性
本研究は、「匿名の善意(Altruistic donor)」が、ひとり親家庭やマイノリティ、移植センターから遠方に住む家族など、これまでドナーを見つけることが難しかった社会的立場に置かれた子どもたちの命を救う「新しい希望の仕組み」になり得ることを証明しました。そして、この匿名ドナーによる生体肝移植の予後・成績は、他の親族からの生体肝移植と同等以上であり、死体・脳死肝移植よりも圧倒的に良い成績でした。
この結果は、世界の小児肝移植の医療現場に重要な示唆を与えるだけでなく、今後の移植医療のあり方やドナー啓発の議論を大きく前進させる可能性を秘めています。すべての子どもが環境に左右されず、平等に生きるチャンスを得られる医療・社会制度の構築に直接的に役立つと考えています。
留学中のサポートやコミュニティについて
留学生活においては、Toronto PartyやUC Tomorrowといったコミュニティが、異国での生活立ち上げや情報交換、そして精神的な支えとして非常に大きな役割を果たしてくれました。
また、留学はパートナーの人生やキャリアにも大きな影響を与えます。カナダでの就労許可の仕組みや児童手当(Child Benefit)のような公的支援は、家族帯同での留学において非常に助けとなりました。今後は、研究者本人だけでなく、帯同する家族のメンタルサポートやパートナーのキャリア構築支援が、日本の留学支援のスタンダードになっていくことを強く期待しています。その点で、昨年はケイロン・イニシアチブ様のご支援を頂けることになり、妻のキャリアにも多大な貢献をしていただきました。
留学や研究生活にまつわるエピソード
もし海外留学や研究を迷っているなら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。国境や制度の違いに戸惑うこともありますが、その経験は必ずやあなたの視野を広げ、専門性だけでなく人間性をも豊かにしてくれます。
私自身、妻と二人の子どもと共に渡米・渡加し、言語の壁や生活の立ち上げなど多くの試練を経験しました。しかし、苦しい時に支え合い、困難を乗り越えたことで家族との絆は何よりも強くなりました。「家族を幸せにできない人が、社会を幸せにできるはずがない」という母の言葉を胸に、家族との時間を大切にしながら挑戦を続けています。
海外では「英語ができないことを恥じるより、挑戦しないことこそ恥」です。あなたが考え抜き、家族と話し合って出した決断なら、どの道も正解です。その決断を信じて突き進んでください。



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