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[奨励賞] 増渕 岳也 / University of California San Diego

Takeya Masubuchi, Ph.D.

[分野:免疫分野]


論文リンク


論文タイトル

Functional differences between rodent and human PD-1 linked to evolutionary divergence


掲載雑誌名

Science Immunology


論文内容

免疫受容体PD-1は、がん免疫療法の中心的な標的分子の一つであり、その分子機構の理解は、より効果的な治療法の開発に直結します。これまでヒトを模したマウスモデルが、PD-1標的薬を含む多くの薬剤開発に用いられてきましたが、「ヒトとマウスでPD-1の働きは本当に同じなのか」という前提は十分に検証されていませんでした。本研究では、細胞実験および精密なタンパク質再構成実験を組み合わせ、ヒトPD-1とマウスPD-1の機能を直接比較しました。その結果、ヒトPD-1はT細胞機能の抑制能が高く、リガンドPD-L1/PD-L2への結合親和性およびエフェクター分子SHP2のリクルート効率にも優れることが明らかになりました。さらにマウス皮膚がんモデルを用いた解析により、ヒト化PD-1はマウスPD-1よりもT細胞による腫瘍制御を強く抑え、抗PD-1抗体への反応性が高いことが示されました。進化学的解析からは、脊椎動物の中でマウスを含む齧歯類が特異的なPD-1構造を進化させてきたことも判明しました。本研究は、PD-1分子機構の生物種間差を明らかにすることで、よりヒトの免疫応答を反映した前臨床モデルの構築と、獲得免疫系の進化的理解の深化に新たな道を開く成果となります。


受賞者のコメント

この度はUJA論文賞奨励賞を授与していただき、誠にありがとうございます。留学後に取り組み始めた免疫分野での初めての主な研究成果を、このように評価していただき、大変光栄に思っております。同時に、今後の研究活動への大きな励みとなりました。


審査員コメント


佐藤 有紀先生

本論文はPD-1のヒトとマウスにおける分子機能の違いを詳細に比較・解析し、その進化的背景や免疫制御機構への影響を包括的に明らかにした極めて意義深い成果です。特に、ヒトPD-1の方がリガンドとの結合力やSHP2リクルート能が高く、マウスでは進化的にPD-1機能が弱まっているという発見は、マウスモデルを用いた免疫チェックポイント研究の解釈に新たな視点を与え、私自身もこの論文を読んでこれまで感じていたいくつかの疑問が解決しました。モデル動物研究の限界と可能性を再考させる論文であり、大変興味深く読ませていただきました。


武藤 朋也先生

ヒトPD-1がマウスPD-1より強い抑制能を示すことを、リガンド結合性とSHP2リクルートの差として突き止め、さらにPD-1細胞内ドメインのヒト化が腫瘍免疫および抗PD-1応答を左右することをマウスモデルで示した点が際立っています。齧歯類で欠落する保存モチーフ(PEQ)に着目した分子基盤と進化的解釈は、前臨床モデルの解釈に重要な示唆を与えるとともに、今後の“ヒト化マウス”設計にも指針を与える優れた論文です。


髙濵 充寛先生

本研究は、免疫チェックポイント分子PD-1において、ヒトとマウスでは機能的に異なる性質を持ち、ヒトPD-1の方がリガンド(PD-L1/PD-L2)との結合が強く、シグナル抑制機構への寄与が大きいことを示しました。これらの知見は、前臨床モデルとしてのマウス免疫応答とヒト免疫応答の差異を理解する基盤を提供し、より正確な免疫治療開発やモデル設計に貢献します。今後は、本知見を基盤として、がん免疫療法や免疫調節治療におけるモデル最適化や標的分子設計の精密化につながる研究展開が期待されます。


小田 紘嗣先生

この研究は、ヒトおよびマウスのPD-1における種特異的な活性化能の差を引き起こす分子機構を解明することを目的としている。in vitroおよび細胞内実験による生物物理学的解析により、PD-1の細胞外・細胞内ドメインのいずれもが種ごとに機能差を持つことが示された。さらに、マウスT細胞でPD-1細胞内ドメインをヒト化することで、抗腫瘍効果が著明に減弱することが示された。本研究は、PD-1欠損患者とノックアウト(KO)マウス間の表現型の違いを分子生物学的に説明するものである。同様の比較ゲノミクス研究が免疫系のその他の重要分子に関しても行われ、より正確にヒト免疫を模するマウスモデルの作成につながることを期待する。


1)研究者を目指したきっかけ

きっかけは少し身近なものですが、子どもの頃に触れた物語の中に登場する科学者への憧れでした。当時はヒトゲノム計画の完了により遺伝子への関心が高まり、遺伝子を操作するという考え方がさまざまな作品に登場していました。それをきっかけに、生き物の仕組みに興味を持つようになりました。その後、大学で研究室に所属した経験が大きな転機となりました。もともとは漠然と生物系の進路を選んだのですが、研究を通じて「教科書に載っていない新しいことを自分で見つける面白さ」や「新しいアイディアを自身の手で確かめる面白さ」を知り、研究者という道を強く意識するようになりました。さらに、大学院での指導教員の先生方との出会いや、自身の生活環境の変化の中で、「自分が人生の終わりに後悔しない選択は何か」と考えるようになり、研究留学の道を選びました。その決断からまだ10年ほどですが、今振り返っても良い選択だったと感じています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

私は現在、免疫のしくみ、特に「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子の働きについて研究しています。これらの分子は、がん免疫療法において重要な役割を持っており、この分野の発展により2018年には京都大学の本庶佑先生がノーベル賞を受賞されました。一方で、多くの免疫チェックポイント分子については、詳しい働きがまだ十分に分かっていないまま医療応用が進められているのが現状です。そのため、基礎的な仕組みを明らかにすること自体が、新しい治療法につながる可能性を持っている点に大きな魅力を感じています。また、この分野は近年急速に発展しており、がんだけでなく、アレルギーや認知・老化、妊娠・出産といったさまざまな現象との関係も明らかになりつつあります。日々新しい発見が生まれる環境の中で研究できることも、大きな魅力の一つだと感じています。


3)この研究の将来性

新しい治療法を開発する際には、マウスを使った実験が広く行われていますが、その結果が必ずしもヒトにそのまま当てはまるとは限らないという課題があります。私の研究では、がん免疫に関わる免疫チェックポイント分子について、ヒトとマウスの間で働きに違いがあることを明らかにしました。この知見は、ヒトの体の仕組みにより近い実験モデルの開発や、新しい治療法をより効率よく見つけることにつながると期待されます。さらに、さまざまな生物の違いを調べていくことで、免疫のしくみがどのように進化してきたのかを理解する手がかりにもなります。このように、基礎研究と応用研究の両方に貢献できる点に、この研究の意義があると考えています。


留学や研究生活にまつわるエピソード

一般的によく言われることですが、留学の大きな魅力の一つは、多様な背景を持つ人々と出会い、交流できる点にあると思います。私の所属している研究室は中国系のラボで、メンバーは非常に前向きで勤勉な人が多いです。あくまで一例ではありますが、私の周囲の中国人研究者には「努力した分だけ成果につながる」という考え方が根付いており、研究を楽しみながら長時間取り組む姿が印象的でした。一方で、周囲にはワークライフバランスを大切にしながら高い成果を上げている研究室も多く、それぞれのスタイルで研究に向き合っていることを実感します。研究室同士の交流会や合同セミナーも頻繁に開催されており、さまざまな研究への姿勢や工夫を学べたことは、非常に貴重な経験だったと感じています。また、UCSD大学全体で多くのセミナーが開かれており、論文で名前を知っていた研究者と直接話す機会があることも、アメリカ留学ならではの魅力です。私生活の面では、日本と大きく変わらない生活ができることに良い意味で驚きました。サンディエゴには日系スーパーや100円ショップ(Daiso)などがあり、日本の食材や日用品に困ることはほとんどありません。さらにブックオフもあり、日本語の本、特に子ども向けの本をよく購入しています。また、サンディエゴには日本人留学生も多く、日本にいながらは出会えなかったような地域出身の友人ができたことも、大きな財産だと感じています。最後になりますが、初めての海外生活にもかかわらず渡航に同意し、日々の生活を支えてくれている妻と、日々の癒しをくれる子どもたちには心から感謝しています。これから留学を考えている方へ、サンディエゴ周辺に限られますが、もしご関心があれば、ぜひ気軽にご連絡ください。経験や情報を共有できれば嬉しく思います。

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