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[奨励賞] 壷井 莉理子 / Michigan University

Ririko Tsuboi, Ph.D., D.D.S.

[分野:トランスレーショナル研究・臨床医学・公衆衛生]


論文リンク


論文タイトル

Vasculogenic Precedes Neurogenic Differentiation in Dental Pulp Stem Cells


掲載雑誌名

Journal of Dental Research


論文内容

本研究では、歯髄幹細胞(DPSC)が生体内でどのような順序で血管系や神経系へ分化するのかを、単一細胞RNA解析(scRNA-seq)と移植モデルを用いて検証しました。まず、DPSCを血管・神経・象牙芽細胞へ分化誘導したところ、それぞれの条件で特徴的な遺伝子発現パターンを示し、DPSC集団が多様なサブポピュレーションから構成されることが確認されました。次に、GFP標識したDPSCをヒト歯根片に播種してマウスに移植し、7日後と21日後に回収して解析したところ、移植後7日目には血管内皮マーカー(CD31、VEGFR2)が顕著に上昇し、血管分化が初期に優先して起こることが示されました。一方、神経分化関連遺伝子(ATF3、IGF1、PRKCBなど)の発現上昇は21日後に明瞭となり、神経分化が後期に進行することが分かりました(Fig. 5)。組織学的にも、DPSC由来の血管は2週で血流を持つ成熟構造を形成しましたが、神経構造が明確に観察されたのは5週以降でした。以上より、DPSCの生体内分化は「血管形成が先行し、その後に神経分化が誘導される」という時間的階層性を持つことが示され、歯髄再生プロセスの理解に重要な知見を提供します。。


受賞者のコメント

このような機会をいただきありがとうございます。審査をしてくださった方、関係者の皆様に感謝もうしあげます。


審査員コメント


渡邊 達也先生

歯髄幹細胞の分化過程において、血管系分化が神経系分化に先行するという新たな分化階層性を明確に示した点で、生物学的に重要な知見を提供している。

single-cell RNA-seqを駆使して歯髄幹細胞の細胞不均一性と分化軌道を可視化した点は、学術的に価値が高い。特に、幹細胞の多様性と微小環境応答を統合的に理解する上で、今後の基盤となる重要な知見である。


渡瀬 成治先生

本研究は、多能性を有する歯髄幹細胞がどのようなメカニズムで各分化細胞に分化していくのかについて経時的な観察を丹念に行っている点が高く評価できる。歯髄幹細胞は、がん化リスクも低いとされているため、再生医療の安全な材料として注目されている。したがって、本研究の発見は、歯髄幹細胞の将来的な再生医療への活用に貢献しうると考えられる。


岩澤 絵梨先生

歯髄幹細胞(DPSC)は多能性細胞であり、vasculogenic, odontoblastic, neurogenicに分化させることができるものの、どのように各種の細胞への分化が制御されているかについては多くの仮説があることから、DPSCから分化していく細胞を各時点で解析することに取り組んでいます。”tooth slice/scaffolds"をマウスに移植することで生体環境を維持するという手法も大変興味深く読ませて頂きました。シングルセルレベルの解析によって各時点での多様な細胞の存在を確認しており、今後さらにDPSCの内因性、外因性の両側面による多能細胞からの分化機構の解明が期待される、将来性の高い論文です。


推名 健太郎先生

歯髄幹細胞の生体内分化をscRNA-seqで時系列解析し、血管新生が神経新生に先行することを示した点は、再生医療への示唆に富んでいます。専門性が高く、in vivoデータを丁寧に取得した着実な成果だと評価します。


1)研究者を目指したきっかけ

歯科医師として学ぶ中で、治療の質は材料によって大きく左右されることを実感しました。より良い歯科材料を開発することで臨床を向上させたいと考え、研究に興味を持ちました。研究を進めるうちに、材料と細胞の関係を理解することが再生医療につながることに魅力を感じ、現在も研究を続けています。


2)現在の専門分野に進んだ理由

歯の中には、神経や血管が通っている「歯髄(しずい)」という組織があります。この組織が傷つくと、通常は取り除くしかありませんが、本来は再生できる可能性があります。私は、歯髄の中に存在する幹細胞がどのようにして神経や血管に分化するのかを明らかにすることで、歯の機能を回復させる新しい治療につながると考え、この研究に取り組んでいます。特に、血管と神経がどの順番で形成されるのかを理解することは、より自然に近い組織再生を実現するために重要だと考えています。


3)この研究の将来性

現在の歯科治療では、歯の神経を失うと歯がもろくなり、長期的に歯の寿命が短くなることがあります。本研究によって、歯の中の血管や神経を再生させる仕組みが明らかになれば、歯の機能を保ったまま治療できる可能性があります。また、神経と血管の形成メカニズムの理解は、歯科だけでなく、神経損傷や組織再生など、他の医療分野にも応用できると期待されます。


留学や研究生活にまつわるエピソード

研究はすぐに結果が見えるものではありませんが、多くの研究者の積み重ねによって医療や科学は前に進んできました。自分の研究もその長い歴史の一部になればよいと思いながら取り組んでいます。振り返ると、明確な計画があったというより、興味を持ったことに取り組んでいるうちに、気づけば研究を続けていました。自分の関心を大切にして挑戦することが、新しい道につながるのではないかと思います。

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