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執筆者の写真cheironinitiative

[奨励賞]大倉 直人/ミシガン大学

Naoto Ohkura, D.D.S., Ph.D.
[分野:ミシガン]
(無機リン酸と無機ピロリン酸による新規細胞シグナル伝達の解明)
International Journal of Molecular Sciences, 15-July-1905

概要
低ホスファターゼ症モデルマウスの1つであるtissue nonspecific alkaline phosphatase (TNAP)のglobalノックアウトマウスは、頭蓋骨癒合症や頭蓋骨の異常形状を発症する。さらに、このglobalノックアウトマウスは、沿軸中胚葉由来の頭蓋骨よりも頭蓋神経堤細胞由来の頭蓋骨に大きな影響を与える。出生時は正常は表現系であるものの、急速に健康状態が低下し、ほとんどが離乳前もしくは離乳直後に死亡してしまうため、本研究グループは、頭蓋神経堤発現P0-Creプロモーター発現マウスとフロックス化Alplマウスを交配させたconditionalノックアウトマウスを作製し、頭蓋神経堤細胞由来の組織でのみ発現しているTNAPを特異的に欠損させることで死亡を回避させ、生後発達の初期および後期における頭蓋底でのTNAPの影響を解析した。
その結果、頭蓋底神経細胞でのTNAPを欠損させたconditionalノックアウトマウスでは、軟骨細胞の増殖、成熟およびアポトーシスに異常を示した。また、蝶形骨間軟骨結合(ISS)でのSex determining region Y-box 9、Parathyroid hormon-related peptideやIndian hedgehogのシグナル伝達にも影響を及ぼした。さらに、TNAPが頭蓋神経体細胞の分化や幹細胞性に関与しており、神経堤細胞におけるTNAPの細胞自律的な役割を解明した。頭蓋底の器官培養では、無機リン酸塩と無機ピロリン酸塩がISSにおける細胞シグナル伝達と表現系変化に特異的な影響を与えることが明らかになった。
以上の結果から、TNAPは主に無機ピロリン酸を無機リン酸に変換させる酵素であり、TNAPの欠損によって無機リン酸と無機ピロリン酸の割合が変化することで、頭蓋底での成長における細胞内シグナル伝達と表現系変化に特異的な影響を与えることが明らかになった。本研究によるTNAP機能の一端を解明したことで、低ホスファターゼ症の新しい治療につながることが期待される。"

受賞者のコメント
この度、UJA奨励賞を受賞させていただきまして誠にありがとうございます。新しい領域に踏み出した最初の論文でしたので、大変嬉しく思ってます。Nan Hatch教授のご指導とサポートには本当に感謝していたので、ようやくそのご恩に報いることができたのではないかと思い、ほっとしています。留学のチャンスを与えてくださった三品先生、いつも励まし続けてくれた日本人研究者の皆さん、英語を教えてくださったBill先生・Seira先生、そして家族や両親の献身的なサポート、すべてがあったから形になったのだと強く思います。最後に、この企画にご尽力いただいた先生方、審査等を担当して下さった先生方に感謝を申し上げます。

審査員のコメント
三品 裕司 先生:
アルカリフォスファターゼ(ALPs)の異常によって起きる低ホスファターゼ症は難病に指定されていますが、数年前に開発された酵素補充療法のおかげで、それまで車椅子が必須だった方が自分の足で歩けるようにもなっています。日本では遺伝子の名前に因んだアルプス研究会が、患者の会とのタイアップでこの流れを推し進めています。ただ、同じ遺伝子の異常でありながら患者さんの間で重篤度に大きな差があり、その理由はよく分かっていません。また、頭蓋底は頭部の中心にあるため、そこに起きた形成異常を外科的に修復するのは大変難しい課題の一つです。本研究は原因遺伝子である組織非特異的アルカリフォスファターゼ(TNAP)の組織特異的ノックアウトマウスを使うことにより、頭蓋底での分子病理機構の解明を目指したものであり、TNAPの酵素基質と反応産物である無機ピロリン酸と無機リン酸の組織内での比率が頭蓋底での増殖因子シグナルの活性度に影響を及ぼすことを見出したところが大変興味深いと思います。これは全身性に無機ピロリン酸や無機リン酸の量をコントロールすることを通して外科的手術が困難な頭蓋底の正常な成長を促す方向性を実験的に提示できたということであり、トランスレーショナルに価値のある発見だと言えます。

松下 祐樹 先生:
頭蓋神経堤特異的にTNAPを欠失させることで神経堤細胞におけるTNAPの働きを特異的に解析し、軟骨細胞の増殖、成熟、アポトーシス異常を見つけ出しています。神経堤細胞の発生期の異常は頭蓋顔面形成に大きく関わっていますが、本研究ではそのメカニズムの一端を解明しており評価できます。

渡瀬 成治 先生:
応募者は、低ホスファターゼ症の原因遺伝子であるTNAPのコンディショナルノックアウトマウスを作製し、既存のTNAPグローバルノックアウトマウスでは解析が困難であった生後発達の初期及び後期における頭蓋底でのTNAPの影響を解析した。その結果、TNAPによる無機ピロリン酸代謝が頭蓋神経体細胞の分化や幹細胞性に関与していることを示唆する結果を得た。応募者が二年以下という限られた留学期間にも関わらず、論文という形で成果を報告した点を高く評価したい。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
既存の治療法では治せないケースに多く遭遇しました。そのため、患者さんと一緒にいつも辛い思いをしてきました。この辛い思いをさせないため、不可能を可能にする治療方法を確立するため、研究者を目指しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
歯並びが悪かったので、最初は歯科矯正医(歯並びを治す歯科医師)になりたかったのですが、私に合っておらず、代わりに根管治療(歯の根の治療)が理由はわからないのですが、とても興味を持ち、かつ一番得意だったので、この分野に進みました。

3)この研究の将来性
矯正治療(歯並びを治す治療)を行う上で、顔の発育はとても重要です。今回の研究では、組織非特異的アルカリホスファターゼと呼ばれる酵素が、顔の発育で必要な幹細胞の調節に重要であることがわかりました。この組織非特異的アルカリホスファターゼを調節することで、遺伝的に顔面が変形してしまう病気をお持ちの患者さんを救えるようにあると考えています。
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