[奨励賞] 富田 紀男 / University of Montreal
- UJA Award
- 4 日前
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Norio Tomita, M.S., Ph.D. candidate
[分野:トランスレーショナル研究・臨床医学・公衆衛生]
論文リンク
論文タイトル
Thoracolumbar fascia ultrasound shear strain differs between low back pain and asymptomatic individuals: expanding the evidence.
掲載雑誌名
Insights into Imaging
論文内容
非特異的腰痛(NSLBP)の多くは原因不明で、診断や治療評価が困難です。これは、原因特定や定量的バイオマーカーが不足しているためです。近年、腰の胸腰筋膜(TLF)が神経支配を受け、NSLBP患者ではTLFの滑り運動が悪化する可能性が指摘されています。TLFの滑り運動の正確な測定が、腰痛の要因解明に重要と考えられます。
本研究では、超音波を用いてTLFの動きを観察し、「せん断ひずみ」という指標で定量化しました。その結果、NSLBP患者は健常者と比較してせん断ひずみが大きく、病的TLFでは滑り方が複雑になる傾向が確認されました。せん断ひずみは性別、年齢、BMIといった個人差に影響され、痛みの強さや日常生活の困難さと相関を示しました。短時間マッサージでは、このせん断ひずみに有意な影響は見られませんでした。
この新しい超音波を用いたアプローチは、TLFと深部筋肉の複数層の滑りを一度に詳細に捉えることができ、NSLBPの診断・治療評価に新たな可能性を開きます。せん断ひずみと痛み・障害の関係は、個人差を踏まえた個別化評価の重要性を示唆します。臨床的には、性別・年齢・BMIを考慮した個別化評価が、より適切な治療方針の決定に役立つと期待されます。今後は、多施設での大規模検証と長期的な効果の検証が望まれます。
受賞者のコメント
このような賞を頂き、選定に関わられた先生方に感謝致します。多くの研究者の方が海外の厳しい環境の中で先進的な研究をされている様子にとても感銘を受けました。
審査員コメント
神前 拓平先生
本研究は、胸腰筋膜(TLF)を「厚さ」や「硬さ」ではなく、「動的な剪断挙動」という新しい力学的指標で評価した点が非常に独創的である。RFベースの超音波解析を用いた剪断ひずみ評価は再現性が高く、非特異的腰痛という画像的に捉えにくい病態に対して、新たなバイオメカニクス的視点を提供している。
特に、TLF剪断ひずみが疼痛および機能障害と相関した点は、筋膜が単なる受動構造ではなく、腰痛の病態形成に能動的に関与している可能性を示唆しており、臨床的意義が高い。
一方で、本研究は横断デザインであるため、TLF剪断ひずみの増大が腰痛の原因なのか、結果なのかについては今後の縦断研究が必要である。また、NSLBPの病態は不均一であり、臨床的サブタイプとの関連を検討することで、より精緻な病態理解につながると考えられる。
本研究は、筋膜の「動きの質」という概念を腰痛研究に導入した点で重要な一歩であり、今後は動作解析や介入研究と組み合わせることで、診断・治療戦略の発展が期待される。
飯島 弘貴先生
本研究は、非特異的腰痛における胸腰筋膜の力学特性を定量的に評価し、症状との関連を示した点で、分野の基盤的知見を着実に積み重ねた研究です。現段階では探索的・補完的な位置づけにありますが、本成果を起点として研究デザインや解析を発展させることで、胸腰筋膜の役割に関する理解がさらに深化していくことを期待します。
永田 向生先生
腰痛の多くは非特異性腰痛と分類される。申請者らは腰痛がある人は、胸腰筋膜の『滑り』が悪いのか、『歪み』が大きくなっている可能性があるのかをエコーを用いて検討しました。32人の腰痛患者と32人の健康な人を比較し、厚みには差がないが、腰痛がある人の方が「せん断ひずみ」の値が高かった(平均327.1% vs 290.2%)ことを示し、短期のマッサージの介入の限界を示しました。Nが少ないことが与える影響が懸念されますが、echoの測定値のICCについても検討されており、今後の研究にも役立つ結果と思われます。
橋田 久美子先生
Thank you for your work. This manuscript is well-written and clinically applicable. This study compared thoracolumbar fascia shear strain between individuals with and without non-specific low back pain. The methodology is well-controlled and clearly described. This study has a solid and meaningful contribution to the field. Wishing the authors luck as they continue this important line of research.
1)研究者を目指したきっかけ
私はかつて、医療機器会社の超音波装置開発エンジニアから、セラピストに転身しました。そこで得たファッシア緊張の繋がり。それは生きた人の組織を切って調べられない事から、まだ研究が進んでいませんでした。私は自分が超音波エンジニアであることを再認識し、超音波を使ってファッシアの動きや微細構造を調べ、東洋医学と西洋医学を工学によって橋渡しをしたいと思いました。人の手の感覚という感性的で経験的な事を、工学で定量化し、エビデンスにして西洋医学に取り入れられる様にしたいと思ったんです。そして、ちゃんと医学的エビデンスを示しながら、自身が体系化したファッシアリリースの手法を実践、広めていきたいとも思っています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
日本では”筋膜”とある種誤訳されて広まってしまったファッシア、ファッシアシステムですが、筋肉を包んでいるだけでなく、骨や血管、神経などあらゆるレベルの組織がコラーゲンの膜であるファッシアに多層に包まれています。それが様々に接続しあい、我々の身体を支えてくれています。その繋がりはそれこそ全身を包んでいるため、一部の引きつりや損傷は、かなり遠く離れたところまで引っ張っている可能性があります。痛む部分と、その原因部分が異なる可能性があり、それを私は解明したくてこのファッシア研究に魅せられています。
3)この研究の将来性
従来の研究では、ファッシアは機能のない膜として、骨や筋肉の研究のためには剥がして捨てられてしまっていました。しかし最近は、豊富な神経が含まれていて、痛む原因なのではないかと考えられています。また、性ホルモン受容体なども含まれており、性ホルモンによって、作り出すコラーゲンのタイプが変わる事も分かってきています。妊娠期の女性の身体が柔軟になるのは、実際により伸縮性のあるコラーゲンにファッシアが変わっているからです。この様に、ファッシアについての新たな発見や証拠が増えれば、疼痛治療の方法や、運動療法、生活指導の方法など複数の分野に応用できる可能性があります。
留学中のサポートやコミュニティについて
私はモントリオールアカデミー会の幹事をしており、会員の研究者およびその家族との交流が私にとっても大きな支えです。また、博士年数は延びるほどメンタル状態が悪化するとのエビデンスがあるとおり、5,6年目の論文出版を待つ時期は非常にきつかった。大学が学生に用意している医療保険に心理カウンセリングがあり、そのサービスを利用しました。また、AIでいくつかのペルソナを作り、それらとの会話の中で自身を客観視するために利用しました。
留学や研究生活にまつわるエピソード
夢のない部分から先に書くと、円安の時代に海外の物価はなかなか厳しいです。奨学金などの生活費も含めた資金を確保してから始めた方が良いですし、始めてからも、北米の大学は奨学金情報をどこでも多く収集して、学生が検索できるようにしています。応募できるものは徹底的に応募すべきです。そして、もしそれらが受賞出来た際は、経歴書上それは強い1行になり、次の奨学金獲得にも繋がります。こちらでは”奨学金が奨学金を呼ぶ”といわれます。優秀な学生の証明になります。
学位授与の卒業式はとても華やかです。映像でよく見る角帽とローブを着て臨みます。学位認定する教授達は、その立場や役割に応じた様々な帽子やローブを身につけており、それがバグパイプの演奏で入場したり…ハリポタの世界に飛び込んだような楽しさです。家族達ももちろん参加出来、一人一人が壇上で学位授与されるたびに、大きな歓声が沸き起こります。一生の思い出になります。生活も研究も大変だと思いますが、その最後の瞬間を夢見て、頑張って下さい。



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